第1話
現在私たち『星夜の灯火』一行は、千剣山脈で発見された『遺跡』の地下1階にいる。
この遺跡にたどり着くまでもかなり大変だったが、遺跡に足を踏み入れた途端に翼竜9匹の群れに襲われた。
大激戦を繰り広げたものの、1人も欠けることなく勝利できた。
その後、数度魔物との戦闘を経ながらも探索を続けた結果、倒壊した建物の残骸で隠れていた地下への階段を発見したのだ。未発見とも思われる階段を前にして、進まないという選択肢はなかった。
地下に下りると、明らかに人工的に造られたと分かる空間が広がっていた。壁や天井から仄かな光が発せられており、地下なのにそれなりに明るい。
これが魔導帝国時代の遺跡だとすると、三千年以上経っているはずだが、一部崩れたところもあるものの、発光する機能が生きているなど魔導帝国の技術力の高さが窺い知れる。
地上から下って来た階段がある部屋?からはいきなり3方向に通路が伸びており、そのどれもが長くまっすぐに伸びていて、途中に枝分かれする道のようなものも確認できる。
「さて、どっちから行くか?」
リーダーであるグスタフが口を開いた。
「3つともかなり長いな。 横に折れる道もいくつか見えるね。」
「ミオは正面が良いと思うナ。」
猫田さんとミオが、先に進むことを前提に話している。
「ねぇグスタフ・・・もうとっくに3時間は経過しているわよ? 一応『遺物』らしきものも拾ったんだし、引き返した方が良くない?」
シンシアは、この遺跡を進む前にグスタフが口にした、撤収の決め事に抵触していることを伝え、撤収を促す。
「それはそうなんだが・・・未踏破の地下遺跡を前にしてしまってはな・・・」
「まだ、ポーションとかも残っているしナ。」
「でも、進んだとしても、この広さじゃ全部なんて見て回れないよ?」
「クロエの言う事ももっともだが・・・猫田は?」
「シンシアには申し訳ないが、自分は先に進んでみたいかな。」
猫田さんは、槍の柄から延長パーツを外し、槍をショートスピアに組み替えながら答えた。
「分かったわ。 みんな進みたいのでしょう? 進みましょう。 但し、一方向だけよ。 それ以上は付き合わないからね。」
「了解だシンシア。 それでいい。」
「じゃ、真ん中を進むナ。」
「ちょっと待って下さいミオさん。 私、こういうのは端から進みたい派なんですよ。 なので、私は・・・左右のどちらかを推します。」
「クロエがそう言うんならそうするナ。」
「確かに、いきなり真ん中ってのは中々選びにくいが・・・クロエは右と左どっちに行きたいんだ?」
「私の個人的意見を言わせてもらうと・・・右です。」
真ん中ではなく、端からっていうのは本心だが、何故に右を推したかというと・・・私の鉱石感知スキルが右側により反応している。
鉱石感知は、妖精族のドワーフ種なんかに持つ者が多いもので、そこまで珍しいものはないが、私の生まれ持つスキルだ。
以前はほんのわずかに感じる程度のものだったが、神様の力を得てからパワーアップしたのだ。
方向やおよその距離などの他、鉱石のレア度がなんとなく感じられる。
スキルの反応に加え、魔導帝国の遺跡であることを踏まえると・・・期待しかない。魔物に遭遇するのは怖いけど・・・稀少な鉱石はぜひ手に入れたい。
階段の部屋から覗く限り、このフロアーもかなり広大だと想像できる。
縦横に走る通路が複数あり、ちょっとすると迷いそうだ。今回の探索で全部回ることはできないだろう。
私たちは、慎重にマッピングしながら右の通路を進む。
マッピングは、自分たちが無事に戻るためのものでもあるが、探査報告にも重要だし、未踏破のダンジョンのものならお金にもなる。
階段の部屋を起点にして、真ん中の通路の伸びている方向を北と仮定する。階段はその逆にあるので南。私たちが向かった右方向は東だ。残った左側を西とする。
東方向に進む。30メートルも進むと早くも最初の十字路に出くわす。魔物は?・・大丈夫なようだ。
「どっちに進む?」
グスタフが意見を求める。
私の信条から言えば、ここは右に曲がって、南方向に向かうべきだが、鉱石感知能力はそのまま東へ進むべきだと言っている。
「このまま進もう。」
「分かった。」
私の意見にグスタフは同意してくれた。
通路はそれなりに広い。余裕をもって2人横並びで歩ける。
グスタフと猫田さんが先頭。2列目にはシンシア、一番後ろはミオと私だ。
またしばらく東へ直進すると、南側の壁に半壊したドアがいくつか現れる。
猫田さんがしずかにのぞき込むが、魔物がいる様子はないようだ。
グスタフと猫田さんが半壊したドアから中に入る。
「うむ。残骸しかないな。 特にコレといったものはないようだが。」
「そうだな。 先に進もう。」
通り過ぎる際に、私も通路からだけど、チラっと部屋を覗いてみたが、確かにどの部屋も残骸ばかりに見えた。
「来たぞ。」
猫田さんが、小声で言う。
通路の奥に人影のようなものがいくつか見える。
それは、だんだんとこちらに近づいてきているようだ。
カチャカチャと声が聞こえて来た。
「スケルトンか?」
「よし、やるぞ猫田!!」
グスタフと猫田さんが前進していく、シンシアも弓を構えるが、すぐに矢を矢筒にもどした。
グスタフと猫田さんがあっという間に4体のスケルトンを倒してしまったからだ。
「歯ごたえがないな。」
「そうね。 盗掘者のなれの果てかしら。 先客がいたみたいね。」
スケルトンの装備は殆ど朽ちてしまっていた。随分昔に、ここに入った冒険者たちなのかもしれない。
「翼竜に比べたら全然弱いな。」
「まぁそうだが・・・猫田、お前が強いのは分かるが気を抜くなよ。」
「分かっているよ、リーダー。」
「頼むぜ猫田・・・とにかく進めるだけ進んでみるか。 それでいいなクロエ。」
「うん。 いいと思う。」
「ただし、脇道には警戒しろよ。」
「分かったナ。」
既に階段の部屋が見えないぐらい東に進んでいる。途中、コウモリや虫型の魔物との戦闘もあったが、問題なく対処できた。
どの位進んだものか、現在私たちの目の前には大きな金属製の両開きの扉、通路は北と南に延びている。
(この先だ・・・)
私のスキルがそう告げている。
「一応、端か?」
「ええ、とりあえずこの通路の端ってことになるわね。 遺跡の端かは分からないけど。」
「扉・・だよな。」
「そうだな。 リーダー。」
「通路の方は大丈夫か?」
「今の所敵影なしだナ。」
「大丈夫そうです。」
「扉は・・・開けるよな?」
「そうだな。 扉は開けるものだ。」
「いいよな? シンシア?」
「ここまで来たら開けるしかないんでしょうね。 ここを見たら引き返しましょう?」
「だな。 よし、俺と猫田で扉を開ける。 ミオとクロエは扉が開いたら中に入れるように準備してくれ。」
「分かったナ。」
「はい、了解です。」
「シンシアは通路を見ていてくれ。」
「分かったわ。」
「じゃあ、猫田はそっちを引いてくれ。 せーのでな。」
「了解だ。」
「行くぞ。 せーのっ!!」
扉はギシギシを音を上げるが、簡単には開いてくれない。
「ぐ・・重い・・・重いが、なんとか・・・開きそうか?」
「ああ、もう少しで・・・動きそうだ・・!!」
グスタフと猫田さんの頑張りにより、ギギギギギ・・・と音を立てつつも少しずつ扉は開いていく・・・。
隙間から見えるのは暗闇だけだが、いきなり魔物が襲って来るようなことはなかった。
1人が通れるほどに扉が開いたところで、私とミオが中に足を踏み入れる。
暗い・・・私には良く見えないけど、夜目の効くミオはわずかな光があれば暗闇でもそれなりに見える。
「なんか、キラキラしているのがあるナ。」
「お、そうだな。」
扉を開け終わった猫田さんがミオに同意する。猫田さんも猫目だから見えるんだろうか?
「ライトボール」
シンシアが魔法の光球をいつくか創り出して宙に浮かべる。
「「「おおっ!」」」
シンシアの光の魔法で、周囲が照らされると、一同感嘆の声を上げた。




