第12話
「ま、あれだな。 とりあえず急いでこの国から出ようぜ。」
装備を回収し終えた私たちは、円になって今後の方針を確認する。
「そのお姫さん・・・あ、えっと名前はなんていうんだっけ?」
「・・・・・・」
私の膝の上に座っていたトラ娘は、エルザの問いかけに答えない。
「・・・・おい、カメリア。」
「ねぇ、あなたのお名前を教えてくれるかな? あ、私はカメリアって言うのよろしくね。」
ちょっと、小さい子扱いが過ぎたかな?言ってから思った。
「クー・・・」
「クー? クーちゃん? クーちゃんて言うのね?」
「・・うん。」
「じゃあ、これから『クーちゃん』って呼んでいいかな?」
「・・・うん。」
本名ではなく愛称か何かだとも思われたが、それで十分だと思った。
「そのクーちゃんだがよぅ。 トラ種でその髪色はな。」
「フード被ればいいんじゃないか?」
エルザの言葉にゲオルグが答える。
「ま、そうなんだが。 無いとは思うが、国境の検問とかでフードの下を見られたりするかもしれないだろ? 少なくとも第10国を出るまではな、警戒したほうがいいだろ?」
「つってもな~。 染めるにしたって今からじゃな。」
「あ、それに関しては私がなんとかできそうよ。」
「なんだよルーナさま。 どうするんだ?」
「アンタねぇ・・・まぁいいわ。 私今金髪でしょ? 実はコレ染めてるんじゃないのよ。」
「はぁ? お得意の魔法で変えましたってか?」
「あら、さすがエルザ。 知ってたの?」
「はあぁぁぁ~~~? 知らねえよ! そんな魔法があるんなら、アタシの髪染める前に言ってくれよ! 染料で髪染めると痛むんだぞ!!」
「エルザでもそこ気にするのね。」
「当たり前だろっ? 髪は女のイノチって知らねぇのか? こちとら乙女なんだよ!!」
「ゴメン。 まだ試験段階だったものだからね。 本当はまだ伝えるつもりじゃなかったんだけどね。」
「んじゃ、パパっと魔法で色変えてくれよ。」
「クーちゃん。 クーちゃんの髪の色は目立っちゃうから、私の魔法で色を変えたいんだけどいいかな?」
「う・・・クーの髪、やっぱりおかしいの?」
クーは少し悲しそうな顔をする。私も髪の色で大分色々あったからクーの気持ちはよくわかる。
「違うよ。 全然おかしくない。 クーちゃんの黒髪はとってもステキだと思うよ? でも、ちょっと珍しいからみんなの眼に止まりやすいんだと思うの。 それで、悪いやつに見つけられたら困るでしょ? だから、少しの間だけお姉ちゃんの魔法で色を変えたいんだ。 魔法を解けば元の綺麗な黒色に戻せるから心配しないで。」
「・・・・うん。分かった・・・」
「ありがとうクーちゃん。 じゃ、エルザちょっと行ってくるわね。」
「は? ここでいいだろ?」
「ダメダメ。 女の子の秘密だからね。」
私は、クーを連れてさらに森の奥に入った。
「なんだよカメリアの奴。 アタシだって女の子だっつーの。」
「女の子ぉ~? おば・・・」
「死ぬぞ。 ゲオルグ・・・」
ゲオルグが言い切るより速く、エルザが忠告する。
「・・・いやいや、しかし魔女ちゃんは本当に魔法でなんでもやっちまうんだな。 凄い魔法使いってのは、何人か見たことあるが・・・普通は火力一辺倒とか支援魔法に特化しているとかだったが・・・あいつは攻撃、支援、回復・・・1人でなんでもやっちまう。しかもオリジナルの魔法だと?あいつ本当にただの人間なのかよ?」
「さぁな。 本当に女神さまだったりしてな。」
「それにしちゃあ、俗っぽいけどな。」
「そうだな。 おまえらはここで待ってろ。 アタシもちょっと行ってくるわ。」
「ああ、う〇こか。 早く戻って来いよ。」
「ゲオルグ、お前マジで口に気を付けろよ。」
ゲオルグをニラみつけてそう言うと、エルザも森の奥に消えて行った。
「クーちゃんにだけ私の秘密を見せてあげるね。 これは、あのエルザたちにも見せたことがないんだよ?」
「???」
「それっ! 色調変更っ!!」
呪文とともにパチンと指を鳴らす。私の髪の色が、金色から青色に変化する。調子に乗って私はクルっとその場で一回転してみせる。クーはその様を眼をおおきく見開いてみている。
(お、驚いている驚いている。)
「さらにっ!魔法を解除!!」
色調変更魔法を解除した。鮮やかな青色をしていた髪は、差し込む日差しで煌く白色になった。クーは口をあんぐりと開けて私の髪を見ている。
「きれい・・・」
「ありがとうクーちゃん。 私、本当は白髪なんだ。 私も生まれた時からこの髪でね。 他人から奇異の眼で見られて来たから、クーちゃんの悩みがよくわかるんだよね。」
「・・・・金色もルーナさまみたいでキレイだったけど、白い髪の毛はもっと素敵。 カメリアお姉ちゃんによく似合ってる!」
「ありがと。 今ではこの白髪も全然好きなんだけどね。 やっぱり目立っちゃうんで普段は青にしているの。 クーちゃんの髪色は何色にしよっか? あまり目立つ色はダメだけど・・・トラ獣人に多い黄色系かな? やっぱり。」
「クーは金色がいい! さっきのカメリアお姉ちゃんみたいな色!」
「そうだね。 トラ獣人には多い色だし良いと思うわ。」
「色調変更!」
クーは金色に変わっていく自分の髪を興味深々で眺めて、そしてしばし髪をいじって遊んでいる。
「クーちゃん。 私の白髪はほかの人には秘密だからね?」
と、言って自分の髪を金色に変えた。
「こうして並ぶと金髪姉妹に・・・みえるかなぁ?」
「・・・お姉ちゃん・・・」
金色になった自分の髪を見ていたクーは、私以外の誰かにそう言ったように思えた。
「あいつ! やっぱり青髪もウソだったんだな・・・」
獣人であるクーにも気づかれないように、こっそりと風下に回ってカメリア達を見ていたエルザは、そう呟いて、カメリアたちよりも早くゲオルグ達が待つ場所に戻っていった。
「お待たせ~。 どうクーちゃんは? 黒ほどじゃないけど金もカワイイでしょ?」
私は、金色になったクーを自慢げに披露する。
「お、なかなかじゃないか。 カワイイぞ。」
「うむ。 とても似合っている。」
ゲオルグとパトリックまでが反応を返してくれたが、エルザはクーにニコリと笑いかけたが、すぐにムッツリして話し出す。
「さて、随分と時間がかかっちまったが、この国を出るって話の続きだ。」
「「おうっ」」
「そうだったわね。 進めて頂戴エルザ。」
「この街道をそのまま行けば、いずれは第9国に行けるんだが、馬に乗っても1月はかかるだろう。」
「そうだな。 まずは馬も手に入れねぇとならんしな。 最低4頭、できれば倍の8頭は欲しいよな。」
「ああ、そうだな。 途中にいくつか街があるが、馬8頭はもちろん4頭だって買うのは無理だ。 小さい町で馬なんてそうそう売ってもらえるもんじゃねぇしな。 それに、事前にもらっていた調査費用ももうあまり残ってねえ。」
「考えはあるの?」
「そこで、ギルドだ。 アタシら元の髪色に戻してさ、何食わぬ顔してギルドでクエストを受けるんだよ。 この第10国でもアタシら『深紅』の名前は多少は売れているだろ?」
「そうかもだけど、身元バレしたら危ないから変装していたんでしょう?」
「ああ、だが考えてもみろよ。 結局アタシらがクーとかかわっていたことを知ったヤツがいるとすれば、ホーリーオーダーだけだろ? それに夜だったし変装もしていたわけだしな。」
「俺は、バッチリ見られていると思うがね。」
「大丈夫だって。 ゲオルグはあの施設内では別人に扮していたんだろ?」
「それはそうなんだが。」
「深紅ってのは、赤髪と青髪2人の美人と、デカいのと細いのとの4人組だってことしかみんな知らないって。」
エルザは、たまに凄い緻密な考え方をする時があるが、普段はこういう適当なことをいう・・・けど、実際エルザの言っていることは間違っていないかもしれない。
「でな、第9国に行く街道には野党が頻発しているらしいのよ。 それなんで、第9国に向かう商隊護衛クエストは結構出ているハズだから、それに便乗して行こう。」
「それなら報酬も入るしな。」
「名案だろ? カメリアの魔法で、クーも普通のトラ獣人にしか見えなくなっているしな。」
少し浅はかな考えだとも思うが、馬車に乗ることができるのは有難い。
結局は、エルザの案に乗ることになった。
森の集合場所から出て、第9国側に近い都市『レゴート市』まで、急ぎ足で2週間。
私とエルザの髪色を青と赤に戻してから、無事に商隊護衛クエストを請ける。
そこから馬車で3週間。途中、野党の襲撃や魔獣との戦いもあったが、私たちはおよそ1年ぶりに第9国の地を無事に踏むことができた。
~第2章 カメリアとクー1 終わり~




