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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第2章 カメリアとクー1

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第11話

 ホーリーオーダーより逃走した夜から2日。

 私は、合流場所に到着していた。


「私が1番だったのかしら?」

 合流場所には、まだ私1人だけだ。

 隠してあった装備品を探してみたが、やはり全員分の装備が残っている。


 あの夜、みんながバラバラになって散ったあと、私は脚力強化の魔法と姿を隠す魔法を使いまくり逃げに逃げた。

 最も、私は魔法込みの短距離なら結構速い自信があるが、長時間は全くもって走れないので、少し走っては姿を隠して休息。そしてまた脚力強化で走り・・・を繰り返して逃げて来た。


 2日間あまり寝ていなかった私は、皆が来るまで少し休むこととする。

 再度、姿を消す魔法を使用し、集合場所の近くの樹に背を預けると、思っていたよりも疲れていたらしく、すぐに眠ってしまった。


 私が眠ってから3時間ほど経ってからゲオルグが到着した。それからさらに半日ほど後にエルザと荷物を抱えたパトリックが一緒に到着した。


「ゲオルグ。 無事だったか。」

「おう尻軽。 遅かったな。」

 ガツンっ!!と、エルザはゲオルグの頭を殴る。


「普段その名で呼んだら殺すぞ。」

「わ・・悪い・・・」

「こっちは、パトリックと荷物付きだったんだ。 時間がかかるのは仕方ないだろう。 ところで、冷血はまだ来ていないのか?」

「そのようだな。 俺が来たときは誰もいなかった・・・って俺がアダ名を呼んだ時は殴っておいて、そっちは魔女ちゃんを冷血呼ばわりかよ。」

「まぁ、居ないんだし良いだろ。」

「で、お姫さんは?」

「ああ、眼を覚ますたびに暴れるんで、眠ってもらっているよ。」

「目標に間違いないよな?」

「ああ、大丈夫だろ。 黒ネコかとも思ったが、間違いなく黒トラだったわ。」

「そうか。 まずは無事に連れ出せて良かったぜ。」

「ああ、ホーリーオーダーが突撃し始めた時は、もう終わったと思ったよ。 お前の判断もバッチリだったな。 ま、結果として・・・だけどな。」

「まぁな。」

「それに、ホーリーオーダーなら組織の壊滅はもちろん、他の奴隷たちもちゃんと面倒見てくれるんじゃないか?」


 あの夜の逃走劇・・・1月以上かけての下準備はほとんど意味を成さないイレギュラー続きだったが、結果としては、皆が独自に取った行動が見事に連鎖して最良と言える結果を得られた。

 さすが長年培ったパーティの連携プレーというところ・・・なのか?


「お姫さんは、どうするんだ?」

 いまだに布の包みを肩に担いだままのパトリックが口を開いた。

「お前なぁ・・・やらかい草の上に横にして差し上げるくらいの心遣いが出来んのか?」

「すまない。 じゃ、下ろすぞ。」

 包みを下ろして、布を開くと黒い髪のカワイイ獣人の子供が出て来た。

「また、暴れられるとこまるからな。 猿轡でもかましとくか?」

「おいゲオルグ。 人さらいの顔してんぞ。」

「うるせーな。 しかし、魔女ちゃんいつ頃着くかねぇ?」

「あいつは体力無いからな。 私が担いで来るべきだったか?」

「いや、あの状況じゃムリだろ。 こうしてみんな無事で、目標も確保できたんだぞ。 十分すぎるだろうが。」

「ま、そうだな。 ただし、カメリアが無事だったら・・・だけどな。」

 そんな話をしている間に黒毛のトラ娘が眼を覚ます。


「ぐももおおおお・・・っ!!!」


 トラ娘は、起きるなり籠った叫びを上げながら暴れだす。 猿轡をしてなお凄い声だ。 さすがトラ種だ!?

「お、おい・・・静かにしろって。 アタシらはアンタを助けてやったんだぞ。」

 ドスっ!

 暴れる足がエルザの腹に入る。


「うおっ!いってぇ~。 さすがトラだ、すげーキック力。 おいゲオルグ押さえろっ!パトリックは足だ足!!」

 3人がかりでトラ娘を押さえに入る・・・その時!


 ゴンっ!ゴンっ!ゴンっ!っと、騒ぎで眼を覚ました私が3人の頭を杖で殴る。


「いってぇ~!・・・カメリア!? いつ来たんだ?」

「何、3人がかりで子供をいじめてんのよ。 それにね、ここに着いたのは私が一番だったわよ。」

「え~~?」


 不満げな顔をするエルザ達を散らして、私はびっくりして動きの止まっていたトラ娘の前に座り抱き寄せる。

 トラ娘は、少しジタバタしていたが次第に大人しくなった。


「かわいそうに。 あんたらみたいな悪人顔に迫られたら子供はみんな泣いちゃうでしょ? 私に任せなさい。 私妹もいたんだからね。」

 頭を撫でながら、続けてトラ娘に語り掛ける。


「ゴメンね。 いま外してあげるから。 その前に・・・私たちはあなたの敵じゃないの。 まだあなたを捕まえようとする悪いやつらが来るかもしれないから、静かに・・ね? お願い。」

 トラ娘は私の顔を見て驚いた様子をみせながら何度も頷いた。私が猿轡を外すと・・・


「ル・・ルーナ様・・・?」

 と、トラ娘は私に向かってそう呟く。


「ん??ルーナ様って?」

「おい、カメリア知らねぇのかよ。 月の女神さんのことだろ?」

 エルザが注釈を入れてくれた。

「あ・・・でも・・眼の色が違う・・・」

 またしてもトラ娘は意味ありげなことを言う。


 私は、エルザの顔を見て

「エルザ、説明をお願い。」

「何だよソレ。 いいか、月の女神さんであるルーナさまはな、金髪に青い瞳なんだよ。 今お前の髪は金色だろ?でも瞳は赤いから・・・って、そう言えばアタシも初めてお前に会った時、ルーナさまの絵に似てんなって思ったんだよな。」

「何ソレ? ようやく私の美しさが女神級だって分かった訳? 遅いんじゃない?気づくの。」

 なんて返してみたけど・・・私は別のことを考えていた。


(私と月の女神・・・ルーナが似ている? 金髪に青い瞳って、まるでお母さんじゃない? お母さんの名前は『(めい)』だったけど・・・鳴って字は『なる』とも読むわよね。 逆に読んだら『るな』・・・って、それは考えが飛躍しすぎているわよね?)


「そんなに似ているの? そのルーナさまに?」

 トラ娘に尋ねる。

「うん。 眼の色以外そっくりだよ。 ねぇ?おばちゃん?」

 トラ娘は、()()()()()()()()同意を求めた。

「え? お?・・・おば!?・・・えっ?・・おば・・・!? ウソだろ?」

 ショックのあまりエルザは膝から崩れ落ちた。


 この後、おばちゃんと呼ばれたエルザがゲオルグ達に当たり散らしたため、この話は立ち消えになったけれど、後に私は月の女神ルーナを描いたとされる絵を目にすることになる。その絵に描かれていたのは、母の肖像画だと言われたら普通に納得できるほど母に似ていた女神さまだった。


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