第10話
ゲオルグが潜入を開始してから2日が経過していた。
ゲオルグからの連絡はまだ無いが、私は感知魔法の穴をいつくか見つけていた。
「ふぃ~。 昼間はまだまだ暑いぜ。 もうとっくに夏は終わってんだろうによぉ~。 なぁ、カメリア~氷出してくれよ。」
もうすぐ夕食時だというころ、エルザが戻って来る。
「はいはい。」
戻って来るなりエルザがそう言うので、例の桶に氷の塊を出す。
「今日は、何か変な奴らが街中にポツポツいるんだよな。」
「どんなヤツよ?」
「ああ。このクソ暑い中フードの付いたマントを頭から被っているヤツを何人か見たんだよな。 明らかにマントの下は鎧を着てたぜ。」
「そんなおかしな格好のが1人じゃなくて複数居たの!?」
「そうなんだよな。 奴隷売買と関係あるってのは考えすぎかねぇ?」
「奴隷を運ぶルートの確保のため・・・とか?」
「ん~。 どうかねぇ・・・ところで、お前の方はどうよ。 魔法魔法っ!」
「そっちは万端よ。 後はゲオルグからの連絡待ちね・・・あれっ?」
「どしたん?」
「なんか身なりの良い、貴族みたいのが建物に近づいて来るわよ。」
「どれどれ~? ・・・・っ・・・あいつはっ!!」
「知っている方?」
「アイツは、カシアスだ! 奴隷売買でかなり稼いでいるっていう・・・没落しかけていたのにいきなり羽振りの良くなった貴族だな。 確か子爵だったか?」
「ふぅん・・・」
「やばいな。 アイツは黒幕の1人だぜ。 今日現れたってことは・・・」
「そうか。 商品の出荷かもしれないわね。」
「ああ、商品の確認か・・それとも出荷に同席するのか? マズいな。 街の鎧マントも気になるのに・・・」
「どうするの? まだ目標を確認できていないけど。」
「カシアスが出てきたんだ。 なにか特別な商品があるんだろう。 目標がいると信じて出荷前に確保するしかないか? どうすっかな・・・?」
「踏み込むかどうかは後で決めましょう! とにかく行こうっ!」
「そ、そうだな! おいパトリック! 起きろ!! 行くぞ!」
エルザは、隣の部屋で寝ていたパトリックを蹴り上げる。
「ん・・・? ああ・・・ああっ!! はい・・・」
「寝ぼけてんじゃねぇ!! すぐに出るぞ!!」
「分かりました・・・エルザ様・・・」
パトリックはまだ寝ぼけているのか、エルザを様付けで呼んでいた。
10分後、私とエルザは例の建物からほど近い家の屋根の上にいる。姿を隠す魔法で身を隠しており、よほど注意を向けられない限り見つけられないだろう。
パトリックはデカいのでここにはおらず、少し離れた所で待機中だ。
建物内には人の動きがあるが、今の所商品は見えない。
段々と日が落ちて来て、そのまま夜になる。
「おいおいおいおい・・・マズいぞ・・・止めてくれよ・・・」
エルザが焦った感じで、しかし、小声で話し出した。
「なによ。 どうかした?」
私はずっと建物を見ているが、エルザが焦るほどの状況変化はない。
「勘弁してくれホント・・・例の鎧マントが集まって来てるんだよ・・・」
「えぇっ?」
「20人以上はいるぞ・・・オイ、裏口の方にも回ってんぞ? どうなってんだコレ??」
エルザのぼやきに続いて、ガチャガチャと多数の鎧がこすれる音が私にも聞こえてきた。
「騎士団かな?」
「いや、この密売は王家が絡んでんだぞ? この国の騎士団が動くわけが・・・!?」
「なに? 途中で話をきらないで。」
正門前に集結した鎧マントたちは、一斉に被っていた外套を投げ捨てた。
「あれは!?『ホーリーオーダー』じゃねぇか!?」
脱ぎ捨てた外套の下は、白銀の鎧に秩序の槍がでかでかとあしらわれた赤いマント姿だった。
ホーリーオーダーとは、教団が保有する直属の騎士団のひとつだ。
彼らは、オーディア神への忠誠が特に強い者の集まりで、オーディアの教えに沿っているのであれば、死をも恐れない。
しかし、オーディアの教えに反するような命令には従わなくてもよい『拒否権』を持ち、また、教団の承諾を得ずに武力行使も可能な『独自行動』が認められている。
過去には、教えに反する行為を行っていた教団幹部を独自行動で捕縛したこともあり、教団内部でも恐れられている存在だ。
「なるほどな。 奴隷売買の情報を掴んでヤツらも独自に動いているんだな・・・」
建物の正門、裏門で同時に戦闘が始まる。密売組織の連中も抵抗するが、武闘派であるホーリーオーダーの敵ではない。
「あ、ゲオルグ・・・」
ホーリーオーダーが戦闘を開始してから少し経った頃に、建物を囲む塀の上から、ゲオルグが顔を出している。変装はしていたが、間違いなくゲオルグだと確信した。
ゲオルグは、塀の上から下を見回しているが、壁の下にも数名のホーリーオーダーが立っている。
「あいつ、なんか抱えているよな?」
「そうみたいね。」
「カメリアっ! 足の速くなるヤツをくれっ!」
「りょ、了解っ! 疾風の加護っ!!」
「デカブツっ!!」
事前に決めてあった、パトリックの偽名を叫んだかと思うと、エルザは屋根を飛び降りゲオルグに向かって倍速で駆けていく。
「ちょっと・・・!」
私も釣られて飛び出してしまった。ゲオルグの方を見ると、彼も壁から飛び下りたところだった。
落ちてきたゲオルグを見たホーリーオーダーが、剣を抜きながらゲオルグに近づいて行く・・・そこへ・・・
「オラっ!!!」
ゲオルグを見ていたホーリーオーダーの頭をエルザが後ろから思い切り蹴飛ばす。
思わぬ所からの不意打ちをまともに喰らったホーリーオーダーが両膝を地面について倒れる。
「ガリボソっ!!」
エルザが、ゲオルグの偽名を叫ぶと、エルザに気づいたゲオルグがニヤリと笑ったように見えた。
「尻軽っ!! 頼んだっ!」
今度は、ゲオルグがエルザの偽名を叫んだかと思うと、すれ違い様に抱えていたものをエルザに投げ渡す。エルザはソレをうまくキャッチして肩に担ぎ直しながら、いまだ倍速で街中に駆け込んでいった。
ゲオルグはそのままエルザとは反対方向に走る。つまり私がいる方に走って来る。そして、私の手前で街の方向へ直角に曲がる・・・その瞬間
「冷血っ! 合流場所だっ!!」
と、私に声を掛け街中に消えていく。
『冷血』とは私に与えられた偽名で、『合流場所』とはサウス=カプリコ市の東側から第9国に向かって伸びている街道途中にある森のことだ。その森に私たちの通常装備などが隠してある。
「クソっ! なんだイキナリっ・・・!」
エルザに蹴られた騎士が頭を振りながら起き上がり・・私を認めたかと思うと近寄って来た。どうやら怒り心頭のご様子だ。
「うわっ!」
思わず私は声をだしてしまったが、すぐにゲオルグの消えた方向に向き直り・・・
「疾風の加護~~っ!」
倍速で走れる魔法を唱えて、私も一目散に逃げる。
私は、ゲオルグとは少し違う方向に力の限り走った。
「クソっ!ぶっ殺す!」
「行かせてやれ。」
蹴られた騎士がカメリアかゲオルグを追おうとしていたところを、別の騎士が制止する。
「おい、逃がして良いのか?マシス。」
「ああ、アイツらは奴隷商人とは関係がなさそうだ。 誰かを助けに来たんだろう。」
マシスと呼ばれた騎士の顔は兜に隠れて見えないが、その騎士の腰にはほかの騎士とは違った反りのある細身の剣があった。




