第9話
フロー市の宿屋での作戦会議から約2か月後、私たちが第10国のサウス=カプリコ市に入ってから既に1月近くが経過していた。
情報収集は、ゲオルグとエルザに任せて、私とパトリックは、密売組織の拠点と目星をつけている建物を監視を主な役割としている。
ちなみに身バレを防ぐために皆いつもとは装いを変えている。
さらに、エルザは真っ赤な髪を茶色に染めていて、私は色調変更魔法で青くしていた髪を今は金色に変えている。
中央大陸では、金色や茶色はかなりメジャーな髪色だ。
密売組織の拠点が見える部屋を2か月一括前払いで借りた(事前調査費用が依頼主から支払われていたため借りられた)。主に昼はパトリック、夜は私が監視をしている。私は魔法で夜目を効かせることができるからだ。
この間に2回ほど奴隷の搬入と思われる動きが確認できたので、この建物が密売組織のものであることは間違いないのだろう。
しかし、黒トラ娘の目撃情報は依然として無かった。
「ふぃ~。 疲れたわ~。」
エルザが汗をふきふき戻って来た。
「もう大分夜も深いってのに、まだまだアッツイわ~。」
季節は既に秋と言っていい時期だが、依然として暑い日が続いている。
「エルザお疲れ様。 とりあえず、これでも抱いていなさい。」
私は、魔法で氷の塊を作り、部屋の真ん中に置いてある大きな桶の中に置いた。
「助かるよ、カメリア。 パトリックは寝てんの?」
「ええ、こっちは2交代制だからね。 私が起きているときパトリックは寝てるか、出かけているかどっちかよ。 この1月ほど交代の時以外に起きているパトリックと殆ど会っていないわ。」
私は、建物から眼を離すことなくエルザに話した。
「ゲオルグも中々帰ってこないな。 まぁ、それだけ頑張ってくれてんのかね?」
「そうね。 せっかく頑張っているんだから、良い情報を掴めると良いんだけどね。」
「久しぶりに戻ったぜぇ~。 お、エルザもいたのか。」
噂をすればなんとやら、ゲオルグがおよそ1週間ぶりに宿に戻って来た。
「よぉゲオルグ、ちょうどお前の話をしていた所だぜ。」
「ゲオルグお疲れ様。 何か収穫でもあった?」
「ちょっと涼ませてくれよ。 エルザ、その氷を俺に貸してくれ。」
「ダメだ。 アタシだってついさっき戻って来たばかりなんだからな。」
「ちょっと、うるさいわよ。 ほら、これでいいんでしょ?」
私は、もう1つ氷塊を出してあげる。
「おおっコレコレ。 サンキューカメリア。 うぉー冷てぇ~。」
「黒い姫さんの話はいまだに掴め無いんだが・・・どうやらあの建物には地下室があって、そこに捕まっている奴らは幽閉されているようだぞ。」
少し涼んだ後、おもむろにゲオルグが話はじめた。
「地下ぁ? まぁ、ありがちな話だな。」
「おうよ。 そんでな、どうやら近いうちに何か動きがありそうなんだよな。」
「出荷日が近い・・・ってことかい?」
「その可能性は高いんじゃないかと思うな・・・」
建物を見張り始めてから、奴隷の搬入と思われるのは見たが、搬出は見ていない。
「どうにかして、地下室を見れねぇかな。 黒トラ娘がいるならいる、いないならいないのを確認さえ出来ればな。」
「正確な場所が分かれば、遠見の魔法で見れなくはないと思うけど・・・」
「本当か? カメリア。」
「ええ。 恐らくあの建物には、魔法を感知する結界のような魔法が施されているでしょうから、今まで遠見の魔法の使用は控えていたんだけど、正確な位置が分かれば探知に引っかかっても最小限で済むと思うんだよね。 なんなら、少し時間をもらえれば感知魔法の穴を見つけることも出来ると思うわ。」
「そうなのか? んじゃ、俺はちょっくら行って調べて来るわ。 2~3日もらえるか?」
「どうすんだ? ゲオルグ。」
「ここまで来たら、出入りの業者にでもなって潜入するっきゃ無ぇだろ? これでダメならあてずっぽうで出荷時を襲撃するくらいしか思いつかんわな。」
「そうだな。 国外に連れ出されたらどうにも出来んしな。 かなり賭けになるが、それしか無いかもな。 それにお前なら変装、潜入は得意だしな。」
「よし、じゃあ明日から行ってみるわ。 出入りできるやつなら目星ついてるからな。」
「よし、頼むぞゲオルグ。 慎重にな。」
「お願いね。 ゲオルグ。」
「おう、ようやく事が進めば良いけどな。」
ゲオルグがかつてなく頼もしく見えた。
「もう売られちまっていたりして・・・・な。」
「居てくれないと困るんだが。」
「そうよエルザ。 滅多な事はクチにしないで頂戴。」
「なんでだよ? 可能性を言っただけだぜ?」
「私の生まれ故郷には『コトダマ』って言って、口にしたことは現実になるって考え方があるのよ。」
「へぇ、言った事が現実になるってんなら色々便利だな。」
「ふん。 そうでもないわよ。」
翌日から私は、ゲオルグが戻るまでの間に、感知魔法の抜け穴の捜索と、遠見の魔法の練習に費やす。もちろん監視も怠らない。




