第8話
引き続き、宿の部屋にて
私は、自分の使っていたベッドに腰掛けている。向かいのエルザのベッドには同様にパトリックが。窓際にある机のイスにはゲオルグが座り、エルザは入り口側に立ったままだ。
エルザはドアの外を警戒しながら話を始める。
「今回は、少し長期になりそうなんだ。 危険も伴うし、事前調査なんかもやらんとならんのでな。 その代わり報酬はかなりいいぜ。」
報酬がいいのは借金返済のためにもありがたい。
「今回向かうのは、お隣り第10国の港町『サウス=カプリコ』だ。 移動に1月、事前調査には・・成果次第だが1月から2月はかかると見込んでいる。」
「へぇ~。 ワリとデカい山じゃないか。」
「ああ、ゲオルグその通りだよ。 特にお前には活躍してもらうからよ。」
「で、肝心の依頼内容は?」
「おっと、そうだな。 カプリコーン王家が教団にベッタリってのは知っているだろう?王家が教団に対して上納する税以外にも多額の寄付をして、色々と便宜を図ってもらっているって話だ。」
「そんな噂話は聞いたことはあるな。」
「パトリック。 実際、噂じゃないみたいなんだよ。」
「エルザ、話を進めてよ。」
「ああっ。 それで、サウス=カプリコにゃこの中央大陸では禁止されているオーディア教国の国民(=中央大陸の住民)を奴隷として密売している組織があるらしいんだよな。 主に外国への輸出用としてだけどな。」
この中央大陸にも奴隷はいる。だが、基本的に奴隷は中央大陸以外の出身者ということになっている。確かにそういう奴隷もいるのだろうが。実際には借金を払えなくなった国民が奴隷に堕とされることは多々ある。
中央大陸つまりオーディア教国は、秩序神オーディアを信奉する国だ。奴隷制度自体は昔から残っているのだが、そもそもオーディア教国創世の伝説において、現在に生きる6種族の人間は、元々は魔導帝国の奴隷として使うために造られたとされている。それを秩序神の力で魔導帝国から解放したことになっているので、オーディア教国の国民を奴隷にすることは、秩序神の行いに反することにもなる。
そのため、中央大陸内でオーディア教国民を奴隷にすることは表面上禁止されている。
「この奴隷売買に第10国の王家が加担しているって話らしいんだよな。」
「ちょっとエルザ、貴族どころか王家がらみなんて危険すぎない?」
「仮に奴隷売買組織を潰したとしても、しっぽ切りにどこぞの貴族が生贄にされて終わりだろう。さすがにアタシらがいくら暴れたって王家にまでは届かないだろ?」
「でも、奴隷売買で上がった利益から教団上層部に寄付するお金を捻出してるってことよね?」
「さすがカメリアだ、理解力があって話が早いわ。 それだから、アタシらの素性はバレないようにしないとならんな。 装備なんかも普段とは変えていく。」
「情報の出所はどこなの?」
「国名までは出せんが、とある王家の重鎮の娘が誘拐されたんだとよ。」
「確かな話なの? 嵌められているって可能性もあるんじゃない?」
「まぁな。 確かな筋からの依頼ではあるが、そのための事前調査期間だ。 少なくとも、その娘の安否がはっきりしないうちは行動を起こせないな。」
「そう・・それで、その娘の特徴は?」
「これがな・・・世にも珍しい黒毛のトラ娘なんだとよ。 こりゃあ、確かに高く売れそうだ。」
「トラ獣人か・・・トラ種の獣人が国の重鎮ってことは・・・」
「おい、カメリア。 それ以上の詮索はやめときなよ。」
「そ、そうね。 分かったわ。 でも、モタモタしていたら先に売られちゃったりしないかしら?」
「いや、そんな珍しくて目立つ娘はそう簡単には売りに出さないんじゃないか? しばらくはどこかに隠して、ほとぼりがさめるのと値が上がるのを待っておくと思うぜ。」
「そ、それもそうかも知れないわね。」
「目標は、黒い毛のトラ娘、御年11才。 彼女の救出が絶対条件だ。 ついでに組織を潰して欲しいってことだが、こっちは出来たらで構わない。」
「了解したぜエルザ。 そんじゃ、早速俺は伝手を当たってみるとしよう。」
「頼んだゲオルグ。 くれぐれも慎重にやってくれよな。」
「ああっ。 分かってるさ。」
早速、ゲオルグが席を立つ。
「パトリックは、アタシと一緒に旅に必要な物資の調達だな。」
「ああ。了解した。」
(黒毛で11才の娘・・・未沙柄よりも1つ下になるかな・・・黒い髪ってのは同じね。)
「それで、カメリアは・・・」
「ええ、私は何をすればいいの?」
「金貸してくんない?」




