第7話
私が宿に戻ると、宿の主人から声をかけてきた。
「お客さんの言いつけ通り、皆さんずっとお部屋でお待ちですよ。」
「そうですか? ありがとうございます。」
主人に笑顔で礼を言って部屋に向かう。
ノックもせずにドアを開けると、ベッドの上で肩肘をついて横になっているエルザと、私のベッドに足を組んで腰掛けているゲオルグ、床で胡坐をかいて座っているパトリックが何かを話し合っていた。
突然開いた入り口の方を見た3人は、一様に青ざめてサっと3人並んで床に正座で座る。
「カ・・カメリアお帰り。 随分速かったわね。」
「そのまま待てって言わなかったかしら?」
「いや、その~。 この正座? 正座を長時間すると足がね、こう痺れてさぁ・・・いざと言うときに困ると言いますか・・・その・・・なんですよ。」
エルザはしどろもどろに答える。
「エルザ。 私の服は?」
「ええっ、あちらに干してございます。 今日は天気も良かったもんで、言いつけ通りに陰干しにしましたが、以前よりも着心地抜群でございますよ?」
「はあっ?」
「いえっ。 以前よりッてことはないですかね。へへへっ・・・」
「まあいいわ。 それよりコレ。」
エルザに酒場の請求書を渡す。請求書を見たエルザの顔がみるみる青ざめる。
「お店のオーナーがすぐに払えって言うんで、私が立て替えてきたわ。 あんたら3人で私に返しなさい。」
「いや、魔女ちゃん・・・じゃなくって、カメリア様ッちょっと待ってくださいよ。 いくらなんでも・・・ヒィっ!!」
ゲオルグが請求書を見てクチを挟んでくるが、私の顔を見たとたんに俯いて黙る。
パトリックは、心配そうにエルザを見ていたが、やはり私の方を見てから俯いたままだ。
しばらく沈黙が続くが、耐えきれなくなったエルザが口を開く。
「カメリア・・・様。 そもそもこの請求書おかしくないですか? 飲食料金は街で出すはずだろう? なんで請求されてんだよ?」
「エルザはお店の閉店時間って分かる?」
「はあっ!? まぁ、それはもちろん・・・知っていますが・・・」
「そうなの? じゃあ、私に説明して見て?」
「えっと、お店が閉まる・・・営業が終了する時間のことです。」
「あら、本当に知っていたのね。 あのお店って何時が閉店だったのかな?」
「確か・・日付が変わるまでだから夜の12時ですね。」
「あらあら、本当に知っていたのねエルザ。 さすがはリーダーだわ。」
「そ、それが何か?」
「あなた言っていたわよね。」
「な、何をですか?」
「乾杯の時に『今日の払いは街が出してくれるそうだから、日が変わるまで好きなだけ飲んで食ってくれよ』って。」
「そんな・・・ニュアンスのことは・・・言ったかも・・・知れません。」
「街で払ってくれるのは、閉店時間までの分だって。」
「そ!そんな話があるかよ!? 皆が帰るまでが飲み会だろ!?」
「普通は、閉店時間には帰るものよっ!」
「うっ!・・・はい。」
「他には? 何かある?」
「今の流れで従業員の残業手当ってのも分かった。」
「あら? 察しがいいわね。 賢い人間は好ましいわ。」
「だけど、備品代? 清掃代? 保証金? 訳が分からん。 特に備品代高すぎだろ!?」
「・・・あんた・・・お店の・・・お店の惨状を覚えていないの?」
エルザのとぼけた発言に、さすがの私もブチギレそうになるが、なんとか抑えた。
「いや・・・どうだったかな? ちょっと記憶が曖昧でして・・・」
「ふ~ん。 じゃあ、何か思い出せることはあるかしら?」
「いやぁ・・・え~っと・・・確か・・・みんなで楽しく飲んでいて・・・・」
「ふ~ん。 他には?」
「いやぁ・・・え~っと・・・確か・・・誰が一番強いのかって腕相撲大会が始まって・・・?」
「そうだ! 腕相撲だ。 やってたな確か。 そんで、エルザとパトリックが勝ち進んでいって・・・?」
「そ、そうだな、腕相撲はやったな。」
今まで黙っていたゲオルグと、珍しくパトリックも口を挟む。
「そうなのね。 誰が優勝したの?」
「優勝・・・優勝? おい、お前ら・・・誰が勝ったんだっけ?」
「待て・・・ちょっと待てよ・・・・そうだ! 思い出してきたぞ・・・確か、途中でエルザに反則だとかケチをつけてきた奴が居て・・・?」
「そうなの? エルザ?」
「あ~?・・・ああ!! そうそう居たわ! いたいたっあのクソ野郎っ!!」
「そうなんだ。 本当にクレーマーって嫌よね。 で、エルザはそいつをどうしたの?」
「えっ!? ・・・えっと・・・・・・あ!?」
「何? ちゃんと話して頂戴?」
「・・で・・・殴りました・・・」
「ゴメンねエルザ。 もう少し大きな声で話してもらえるかしら?」
「イスで殴りましたっ!!」
「そう。 じゃあもう理解できたわね?その後どうなったかも。 それとも説明が必要かしら?」
「あ~。もうわかったよ。 勘弁してくれ。」
「そう。 じゃあ私への返済の方は3人で話し合ってお願いね。」
「その・・・スグには無理だから、しばらく待ってくれ・・・くださいっ!」
「仕方ないわね。 それじゃ早速次の仕事で返してもらうわ。 エルザ、昨日言いかけていた次の仕事のことを話して?」
「だけどよ・・・この最後の給仕服ってカメリアが着ているやつのことだろ? なんで私等が払うんだよ! これはカメリアが・・・」
あわててゲオルグとパトリックがエルザの口をふさいだ。もしもエルザが最後まで口にしていたら、私はエルザを殺してしまっていたかもしれない。




