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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第2章 カメリアとクー1

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第6話

 太陽が頂点に達する頃、宿屋の私の部屋には、正座をして俯いて座るゲオルグとパトリック、そして2人を見下ろす形で腕を組み仁王立ちをする私の3人がいた。


 この状況になってから、既にかなりの時間が経過している。

 仁王立ちのまま微動だにしない私の方は見ないで、沈黙と足の痺れに堪りかねたゲオルグが声を発する。


「カ・・カメリアさん。 エルザの奴はどうしたんですか?」

「エル・・・いえ、あの()()()()()()は私の服を洗濯しているわっ!」

「ははっ! そうでしたか。 まったくあの女にも困ったもので・・・」

「やさしくっ! 手洗いでね!! 破ったりしたら殺すって言ってあるわ。」

「全くっ! カメリアさんの仰るとおりです。」

「ゲオルグ、言いたいことはそれだけ?」

「いやっ・・・その・・・カメリアさん。 その格好はどうなさったんで?」

「言ったでしょう? 私の服が洗濯中だからよ。」

 今の私は、普段の格好ではなく例の酒場の給仕係の服を着ている。


「あぁ~。 そうですね。 はははっそりゃそうだ・・・ハハハ・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「あんたら、覚えていないとでも言うつもり?」

「いや、そのぅ・・・なんといいますかねぇ・・・俺・・じゃなくて、私もパトリックも目が覚めたらこのような状況でして・・・覚えていないのでは無く・・・知らないと言いますか・・・」

「!!!!!!!」

「す、すみません。 カメリアさん・・・いえ、様!! ほら、パトリックも早く頭を下げろ!! 早く!!」

 2人とも床に頭を擦り付けるようにして頭を下げる。

「はぁ・・・少し出て来るわ。 あんたらは、私が戻るまでそうしていなさい。 エルザにもそう言っておいて!!」

 そう言って、私はドカドカと足音を鳴らしながら部屋を出た。


 カメリアが部屋から出て行った後

「おい、パトリック。 一体どうなってんだ?」

「いや、俺にもさっぱり分からん。 分かるのは体中が痛いってことと気分が悪いってことだけだ。」

「ああっ、それは俺も同じなんだが・・・()()()()()のあの怒り様・・・普段おとなしいだけにとんでもねぇ・・・あんなの初めてじゃねえか?」

「そうだな。 昨晩何かあったのだろうか?」

「そうとしか思えねぇな。 昨晩は・・・酒か・・・?」

「酒・・・だな。」

 2人は、昨晩(正確には今日の朝だが)のことを思い出せなかったが、心当たりはありそうだった。


 私は階段をドンドンと下りて、宿の受付の所にある待合イスにドカっと勢いよく腰を下ろす。

 途中、裏口の水場で服を洗っているエルザを確認したが、ちゃんと言いつけ通りに洗っているようだった。

「ふぅ・・・まったく。 これだから酒飲みはキライだわ。」

 まだ完全に怒りの収まらない私は、周りにも聞こえる声で独り言を言う。

 普段の私を見ていた宿の主人も、私の怒り様を見て眼を合わせないようにしている。


 5分も経ったころに、私はおもむろに立ち上がって宿屋の主人に声を掛ける。

「少し出かけて参ります。 裏口にいる女に、服が皺にならないように干したら、部屋で待っているようにお伝えいただけますか?」

 出来るだけ普段通りのつもりで言ったが大丈夫だったかな?


「わ、分かりました。 お伝えいたします。 お任せくださいっ!」

「そうだ。 後、私が戻るまで絶対に部屋から出て出歩かないように見張りもお願いしてもよろしいでしょうか?」

「もちろんですお客様。 この私の名誉にかけて部屋から出しません。」

「ふふっ。 ありがとうございます。 お願いしましたよ。」

 主人に微笑みを返し、私は給仕服のまま宿を出た。


 宿を出た私は、冒険者ギルドに向かう。

 手持ちのお金が無くなったので、現金を引き出すためだ。


「さてと、まずは酒場ね・・・はぁ・・・」

 ギルドで貯金を引き出した私はため息をついた。


「あれっ? カメリアさん?」


 誰かに声を掛けられた。声の主を見ると昨日のクエストで一緒だった魔法士の娘だ。後ろには治癒士の娘もいる。

「あぁ、昨日の。 えっと・・・(確か名前は・・う~ん・・なんだっけ?)」

「ハイっ。 エッタです。 覚えていてもらえて光栄です。 ちなみにこっちの治癒士は『テリア』ですよ。」

 どうやら、私が言った「えっと」を「エッタ」に聞き間違えてくれたようだ。ついでに治癒士の方の名前も判明した。


「あなたたち昨晩は大丈夫だったの?」

「えっ? 昨日何かあったのですか?」

「カメリアさんが出ていくのが見えたので、私たちもその少し後に帰りましたので。」

「そ、そうだったのね。 それは何よりだったわ。」

「私たち、報酬もいただけたんで次の街に移動するつもりなんです。」

「カプリコーン国に行ってみようかと思っています。」


 テリアが言った『カプリコーン国』とは、第10国カプリコーンのことだ。私たちが今いる第11国と以前にいた第9国との間にある。

 カプリコーン王家は、腐敗しきった現在のオーディア教団には批判的な王家が多い中、いまだにベッタリしているとの噂のある国だ。


「そうなのね。 では、またいつか会えるといいわね。 道中気を付けてね。」

「はい。 エルザさんにもよろしくお伝えください~。」

 エッタとテリアは私に手を振りながら去っていった。

(2人とも私よりも年上よね? まあ、旅慣れはしていそうだから大丈夫か。)

 ちなみに私は現在15才で一応成人しているが、その外見からか大抵20才位に見られる。


「はぁ・・・さて、行きますか・・・」


 重たい足取りで、酒場に向かう。

 酒場に着くと、引きつった笑顔の店長から請求書を渡される。

 請求内容は・・・閉店時間以降の飲食代金、従業員の残業手当、破壊した備品の数々、清掃代金、店を再開するまでの保証金・・・そして、買取となった私の給仕服。

 思っていたよりも多額の請求が来た・・・朝に訪れた際に有り金をすべて渡していたが、それでは全然足りていなかった。

 先ほどギルドで引き出してきたお金も大半を失うこととなってしまった。


 次にフロー市で唯一の風呂施設に向かう。行水だけではエルザにかけられたゲ〇の匂いが取れていないような気がしたからだ。

 風呂といっても、八州国やサジタリウスにあったようなお湯を張った湯船がある訳ではなく、蒸し風呂・・・いわゆるサウナである。

 ゆっくりサウナで汗を流し、水風呂に浸かってから念入りに髪を洗った。


「お風呂に入りたいなぁ・・・」

 私は、故郷の温泉やサジタリウスの浴場を思い出す。

「あ、着替えを持ってくればよかった。」

 せっかく全身洗ったのに、またさっきの給仕服を着ないといけないとは、何かもったいない気がしたけど仕方ない。


 なんだかんだ言っても、サウナでさっぱりした私は、少し溜飲が下が・・・ってはいなかった。

「必ず取り立ててやる!!」

 決意を新たに、宿に向う。


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