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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第1章 クロエとミオ1

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第11話

 

「みんなケガしてないわね?」

 シンシアの問いかけに、皆黙って頷く。

 星夜の灯火メンバーは、翼竜との戦いの後、遺跡の入り口付近で小休止を取っていた。


「着いて早々に、大ハズレを引いちまったな。」

「大アタリとも言えるんじゃない?」

 グスタフの発言に、シンシアが返す。

「ああ。 翼竜もドラゴンの仲間にゃ違いねぇからな。 素材としては結構な値が付くだろうが、いくらマジックバッグがあるとは言え、さすがに9匹丸ごとは持って帰れないだろう。」


 冒険者の必須アイテム『マジックバッグ』。 様々な形状のものがあり、容量も様々だ。

 元となるバッグの3倍程度の容量のものなら比較的安価に入手できるが、容量が増えるにつれて値段は跳ね上がる。

 ちなみに、私のバックパックは叔父のお下がりであるが、かなり優秀なもので、見た目の10倍くらいのものが入れられるけど、翼竜丸々なら1匹でも入り切らないのではないだろうか?


「それよりも・・・」

「そうだな。」

 シンシアとグスタフは、ミオの膝枕で寝ている私の方を見る。


「クローエ、あの黒い炎みたいなの・・・アレは何? あんなの今まで使ったことなかったじゃないの?」

「・・・やっぱり、それ気になりますよね?」

 私は、シンシアの質問に質問で返す。

「はぁ~。 クロエっ。ちゃんと答えてくれ。」

 グスタフに困ったような顔をされて、やはり話すしかないと思った。


「猫田さん。 私の左手の手袋を外してもらっていいですか?」

「わかった。」

 一言だけ言って、猫田さんは私の左手から籠手を外し、続いて手袋を取る。さらにその下に巻いてある包帯も外した。

 黒い炎のような痣のある左手があらわになった。

 一同は痣を見てちょっと驚いたようだが、思っていたものとは違うと感じているように見えた。

(やっぱり痣が少し大きくなったような気がする。)私は痣をみてそう感じた。


「その彫り物・・・痣か? お前が左手から手袋を外さない理由がそれか?」

「クローエ。 そうじゃなくて、さっきの黒い炎の話よ・・・」

 ミオと猫田さんは口を開かなかったが、2人は何かを察知したようだ。


「出来れば、笑わないで聞いてほしいんだけど・・・」


 私は、左手の痣の由来から『神様』『業火』のこと、神様の力を使うと寿命が削られることなどを話した。

「クローエ、あなたの左手が妙に怪力なのは知っていたけど・・・本当なの?」

「シンシア、知ってたの?」

「いや、あなた無意識だったんでしょうけど、たまに左手で石とか砕いていたわよ。」

「えっ!? 本当に?」

「おい、話が逸れてきているぞ。 クロエ、お前の左手に『神様』だか『悪魔』だかが憑いているのかは分からんが、あの黒い炎みたいなのが相当ヤバい代物だってことは分かった。」

 グスタフは話を続ける。

「寿命を削るってんなら、おいそれとは使えねぇし、だから隠していたってのも分からんでもない。 でもなぁ・・・。」

「そうよ。 私達が便利にその能力を使わせようとすると思ったの?」

「いや、そうじゃないけど、気味悪がられるかな?と。」


 そう、黒い炎なんて如何にも不気味だろう。 特にオーディアを信奉するこの中央大陸においては、邪神の使徒などと認定されかねない。

 別に白や光が善で、黒や闇が悪って訳ではないのにね。


「しかし、抑えに抑えてあの威力の魔法が、瞬時に任意の場所に発現できるというのは、なんらかの人外の力が働いていると言われると納得できるわね。 とすれば・・」

「おい、シンシア。 なんか悪い顔になってるぞ。」

「ゴホンっ。 ・・・なっていないわよ。」

「まぁ、クロエが力を使ってくれたお陰でみんな無事だったんだしいいじゃないか。」

 今まで黙っていた猫田さんが口を挟む。


「しかし猫田よ。 お前こそ本当に何者なんだ? 1人で翼竜3匹も倒しやがって。」

 良い頃合いと見たのか、グスタフが猫田さんに話題を振ってくれた。

「本当よ。私らは連携プレーでなんとか倒せたっていうのに。」

「いや、君たちも知っていると思うけど、自分は記憶が無いんだ。 だから自分が本当は何処の誰かはわからない。 すまないね。」

「お前のその飄々とした態度も本物なのかね?」

「連携プレーと言えば、特にグスタフとシンシアは凄いじゃないか。 長年連れ添ったパートナーのように息ピッタリだったぞ。」

「見てないクセに。」

 3人がいつものような会話に切り替える・・・けど、私はさっきから全然喋らないミオの顔を覗いてみた。


 私と目が合ったミオは、泣きそうな顔でようやく口を開く。

「クロエ。 寿命ってどの位減ったんだナ・・・?」

「ミオさん・・・。大丈夫です。 具体的なところは私にも分かりませんが、痣が少しだけ大きくなったかもしれないって程度ですから。 この痣が心臓まで達すると死ぬってことらしいですよ。 まだまだ余裕です。」

「でも、でも・・・クロエ~~~。」

 ミオはとうとう泣き出してしまった。私は体を起こすとミオを抱きしめる。

「ミオさん、大丈夫ですよ。 本当に痣は大きくなったかもわからない位です。 大丈夫なんです。」

「クロエ~っ!!」

 ミオも私のことを抱きしめてきた。

「あ、あのっ! ミオさん!! 痛いです!!」

 ミオが泣き止むまで少しの間、私はこの心地よい痛みに耐えるしかなかった。



 ミオが泣き止むのを待って、これからのことを話し合う。

「さっきの翼竜を持てるだけ持って戻るってのも選択肢としてはアリなんだが。」

「そうね。遠征費用以上にはなるわね。 多分だけど。」

「しかし、自分は借金もあるからな。 稼ぎが多い方がありがたい。」

「ミオは全然活躍していないんだナ。」

「クロエは?」

「碌に遺跡調査していないんで、もっと探索したみたいと言うのは正直あるけど。」

「そうだな。 俺も入り口で引き上げるってのはちょっとな。 ミオも猫田も先に進みたいって考えでいいか?」

「うん。」

「そうだな。」

「シンシアは?」

「正直言って、私は引き上げるのはアリだと思っているわ。 でも、皆が行くというのであれば一緒に行くわよ。」

「よし、決まりだ。 今のところさっきの翼竜以外に魔物は出てこねぇし、何か見つけるか、3時間経過するまでは探索してみようぜ。 あとヤバそうなのに出会ったら即撤収だ。」

「「「了解。」」」」


 翼竜から角や翼膜、猛毒の尾、鉤爪、ウロコなどお金になりそうな部分を頂戴して、私たちは遺跡を進むことにした。


 ~第1章 クロエとミオ1 終わり~


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