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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第1章 クロエとミオ1

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第10話

 

 ギィヤアアアアアァァァっ!


 翼竜が、叫び声をあげながら脇を掠めて飛び去って行く。

 なんとか翼竜の突進を躱した私たちは、崩壊しかけの建物(?)に飛び込んだ。


「なによコレ!? こんなイキナリ翼竜の一団に出会うなんて!! グスタフっ!!」

「シンシア!! 小言は後にしろっ!!」


 今回、猫田さんを加えて5人になった『星夜の灯火』は、アローヘッド市の北、第7国リブラの国境となる千剣山脈にある遺跡の調査に来ていた。

 名前のとおりとても険しい山脈だ。地形もそうだが、シザース高地よりもさらに手ごわい魔物が多く出現する。

 この遺跡は、発見されてからそれほど時間が経っておらず、大々的に公表もされていない上に、魔物の脅威も手伝ってまだ殆ど手つかずらしい。

 遺跡の管理は第9国が直々に行っており、入るには許可も必要だが、生半可な実力では遺跡にたどり着くのも難しい。

 グスタフは、その人脈により遺跡の存在を知ってから遺跡調査を切望していたが、戦力不足を危惧して実行できないでいた。

 しかし今回、強力な新人猫田さん加入により大幅な戦力アップが図れたため、とうとう遺跡調査に挑戦することになったのだ。

 遺跡までの道中も苦労したが、ようやく遺跡に踏み込んだ直後に翼竜の群れに襲われた。


 翼竜を避けて一時避難した建物内で、緊急会議が始まる。

「一匹ずつなら殺れるんだが、さすがにこの数は・・・。」

「空を飛んでるから、攻撃できないのナ。」

「シンシアっ!矢はまだあるんだろうな!?」

「まだあるけど、そんなに効果は見込めないわよ。腐っても竜種なんだし!」

「ヤツら、火を吐いたりとかはしねぇよな?」

「そうね。 ブレスは無いはずだけど、尻尾に猛毒があったんじゃなかった!?」

「厄介だナ。」

 グスタフ、シンシア、ミオが続けて会話していたが、猫田さんが話に加わる。

「いつまでもここで隠れていても状況は良くならないだろう。 自分が囮になって、何匹かひきつけるのでその間に魔法で数を減らしてくれ。」

「ミオも行くんだナ。」


 少し思案して、グスタフは決断する。

「今はそれしか無いか。 ミオ、ネコタ!!スマンが頼む。 死なないことを優先してくれっ!!」

「クローエもいいわね?」

「わかった。 でも私の攻撃魔法は牽制くらいしか出来ないからね。」

「無いよりはずっとマシだな。 シンシア!ミオ達が出たら目眩ましを頼む!」

「了解。」

 やるべき事が決まると、各々やるべき事を遂行するための最適行動に移る。


「行くゾ! ネコタ!!」

「ああ、任せろ!」

 ミオと猫田さんが左右に分かれて駆けていく。


 ミオ側に2匹、猫田さんには3匹の翼竜が雄たけびを上げて向かっていく。

 残りはまだ4匹もいる。


「ライトアロー!!」

 シンシアが光の矢を4本、4匹の翼竜に向けて撃った。

「バーストっ!!」

 翼竜に届く直前に4本の光の矢から閃光が走る。


 ギャアギャアと翼竜の驚き?の鳴き声が巻き起こる。

 上手く引っかかってくれたが、1匹は健在でこちらに向かってきた。

「行けっ! 石礫っ!!」

 私は、無数の小さな石を射出する魔法を発動させる。1個の攻撃力は低いが、広範囲で多段ヒットが見込める土の魔法だ。

 多数の石礫が当たった翼竜が体勢を崩して降下する。


「おらぁっ! まず1匹目っ!!」

 飛び上がったグスタフが渾身の一撃を翼竜の首に叩きつけると、断末魔を上げて地面に落下する。

 すでに目眩ましから立ち直った他の翼竜達が、すかさずグスタフに狙いを定めて突っ込んでいく。

「アイスストームっ!!」

 シンシアがグスタフを守るように放った氷魔法を2匹は回避。もう1匹も直撃は避けたが、片翼を凍らされて暴れながら落下してくる。

「2匹目! いただきだっ!!」

 自らを鼓舞するように大声で叫びながら、グスタフは再度強力な一撃を打ち込み2匹目を屠る。

 氷の嵐を回避した2匹は体制を立て直しつつ少し距離を取る。

 そのタイミングで、私は猫田さんとミオの姿を眼で追う。

 猫田さんが翼竜の頸部に槍を突き刺すのが見えた。すぐさま槍を抜き、すかさず2匹目に突進していく。仲間を瞬殺された翼竜は上昇をかける。


 ミオは・・・2匹の翼竜に挟まれ、必死で翼竜の攻撃を受けないように避け、手甲で防いで凌いでいる。手甲で攻撃を受けると小柄なミオは軽く吹っ飛ばされる。

 リーチが短いミオは、空を飛ぶ2匹の翼竜相手に攻撃に転ずる機を見つけられず、ひたすら防御を強いられていた。


 直ぐに自分たちの相手に向き直る。

「大地の鉾っ!!」

 私は、グスタフから距離を取ろうとした翼竜2匹に魔法を放つ。

 地面から尖った土の塊が3本飛び出して、翼竜に向かって飛んでいく。

 1匹は躱すが、もう1匹の翼に穴が開く。すかさずシンシアが光の矢で追い打ちをかける。命中はしたが、ダメージは少ない。


「グスタフ!!」

 私は、グスタフの少し前方の地面を土魔法で盛り上げ、ちょっとしたでっぱりを造った。

 察したグスタフは、そのでっぱりに走り込み、足を掛けると飛び上がって、翼の傷ついた翼竜に向け重い両手剣を力の限りに打ち下ろした。


 グスタフは一撃放った後、体勢崩し転がりながら着地するも、すぐさま起き上がる。

「クロエっ! ミオをっ!」

 グスタフが言い終える前に、私はミオのいる方向に駆け出す。

「ウィンドカッター!!」

 後方で、シンシアが残った1匹に向けて風魔法を放つ。

 グスタフは私の方をチラりと見て小さく頷くと、翼竜に向けて駆けて行った。


(ミオさん! ミオさんっ!!)

 私は、走りながら心の中で叫ぶ。まだかなり距離がある。

 ミオが手甲を弾かれ、よろよろと体勢を崩しながら後ずさる。

 すかさず後ろにいた1匹が狙いをつける、もう1匹はそのままミオに迫っていくのが見える。


「もう使うしかない!!」

 私は仲間に見られるのを覚悟し、誰にも話していない、とっておきの魔法を使用するために左手を突き出す。

「業火っ!!」


 ミオの背後を襲うために、降下しようとしていた翼竜の頭が、突如青黒い炎に包まれ、直後に爆発した。


 私が鍛冶の時にも使う冥府の炎『業火』は、先に使った『石礫』や『大地の鉾』のように、術者の所から飛ばすだけでなく、任意の場所に発現させることができる。鍛冶を行う際に左手付近に発生させる分には魔力消費だけで済んでいるように思うが、左手から離れた位置に発生させる場合には、『神様』の力を借りることになる。つまり、私の寿命が減ることになる。

 素でもかなり強力な業火だが、神様の力で発動した業火は、小さくても鉄を一瞬で赤熱させるほどの火力があるので、ミオを巻き込まないように、かなり絞って使ったが、この通りの破壊力だ。


「あれ・・!?」

 突如足がふらつき立っていられなくなる。歪んだ視界に地面がどんどん迫って来る。

「ミオさん・・・。」

 再びミオを視界に捉えるべく、頭を動かそうとしたけど、体が言う事を聞いてくれなかった。


 ミオの前方にいたもう1匹の翼竜の動きが一瞬止まる。

 ミオ自身も背後で突然起こった爆発に驚いていただろうが、今回の戦いで初めて訪れた好機を逃さない。ミオは、力強く地面を蹴って翼竜に飛びかかる。

 これまでの鬱憤を晴らすかの如く、翼竜に渾身の一撃を叩きこみ、空中で一回転。おまけとばかりに翼竜の背を蹴とばし、そのまま前方に跳躍して着地する。すぐに振り返ると、ちょうど黒煙を上げながら背後にいた翼竜が地面に落下するのが見えた。


 自分をフクロにしていた翼竜が2匹とも倒れたことを理解したミオは、すぐに猫田さんとグスタフ達を探して見回す。グスタフが最後の1匹にとどめの一撃を打ち込んでいるのを確認。シンシアもグスタフから少し離れたところにいるのが見えた。

 猫田さんはすでに倒し終わったのか、槍をクルクル回転させながら、ミオに向かって駆けて来ている。

(あれ・・・!? いない・・・!??)

「ク、クロエっ!!」

 ミオは叫んだ。グスタフ達と一緒のはずのクロエの姿だけが見つけられない。ミオは体をグルグル回転させて周囲を何度も見回す。

「クロエ~~~っ!!」

 ミオは何度も私の名前を叫んでいた。


「・・・こ、ここです~。」

 立て続けに魔力を使い過ぎた私は、ミオから20メートルほどの所で地面に俯せに倒れている。

 ようやく声を出せるようになった私は、俯せのままミオに話しかけた。


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