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鋼と虎  作者: 釘崎バット
第1章 クロエとミオ1

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第1話

 

 カァン カァン カァン ・・・・

 ほぼ垂直にも思える崖の上から、何かを叩く甲高い音が響いてくる。


「クローエっ! どうっ? あったの!?」

 崖下で周囲を警戒しながら待つ2人のうち、弓を携えた狩人風の女性が音のする方向に声を掛ける。


「いま回収中。 もう少し待っててよシンシア。・・後、私の名前はクロエだから。」

 上空からクロエの細い声が返ってきた。


「クロエっ!急げよっ!! この辺は翼竜(ワイバーン)の目撃例もあるんだぞっ!! シンシアっ!警戒を怠るなよっ!」

 崖の下で待つもう1人、両手剣を背中に背負った戦士風の男が大きな声を放つ。


「あ~っ! もう、近くで怒鳴らないでよグスタフ。 あんたのでかい声に魔物が寄ってきちゃうわよっ。」

「ああ、スマンな。」


「・・・っと! お待たせ。」

 少しするとグスタフとシンシアの近くに降りてきたクロエが言う。

「思っていたよりも量が採れたよ。質も良さそう。 依頼分以上採れたし、さっさと引き上げよう。」

 と、背中に背負ったバックパックを重たそうにして見せる。


「あんな高いところにあったのに、よく見つけられるわね。」

「まぁ、鉱石感知は私の得意技だしね。」


「よし、引き上げだ。 シンシア、後方警戒は任せるからな。」

「任せて。 暗くなる前に急いで帰りましょう。」


 グスタフ、シンシア、クロエ・・冒険者パーティ『星夜の灯火(せいやのともしび)』の3人は、周囲を警戒しながら夕暮れに差し掛かろうとする断崖の横を急いで移動していく。


「おっと。 お客さんだ。」

 先頭にいたグスタフが、断崖を抜けたところで、前方からこちらに向かってくる一団を見つけて足を止める。


「やっぱり、そう簡単には行かないね。 野犬?結構いるね。」

 遠くに見える一団を見てクロエが呟いた。


「ああ、犬とかオオカミとかの類だな。 翼竜よりはマシだが・・。 9匹だな!! シンシアっ! 周りはどうだ!?」

 言いながらグスタフは背に背負っていた両手剣を抜き構える。

 クロエもバックパックに括っていた細身の剣を右手に持ち、左手はホルスターから投げナイフ2本を取り出す。

「後方、上空問題なしよ。 弓で先制するわっ!!」

 シンシアは、一瞬で後方から上空を見回しながら、弓に3本の矢を番え斉射する。


 矢の向かった方向から、犬の鳴き声のようなものが2つ聞こえた。

 まだそれなりに距離はあるが、2本は命中したようだ。しかし、残りの7匹は仲間の損害を気にする様子もなく猛スピードで接近してくる。


 魔物は距離にして20メートルほど手前で直進する3匹と、左右にそれぞれ2匹ずつが別れた。こちらを包囲しようとしているらしい。


「さすがに速いっ! 別れた奴らを頼む!」

 グスタフは、両手剣を正面の3匹に向けて薙ぎ払った。


 直進してきた3匹のうち2匹が血を撒き散らしながら吹っ飛ぶ。薙ぎ払いを躱した一番大きい野犬は、低い姿勢からグスタフに飛びかかる。


 グアァァァッ!!


 グスタフは、薙ぎ払いの反動で一気に一回転しつつ、アーマーと剣で辛くも野犬の鋭い牙と爪を防ぎ、その勢いのまま押し返す。


 グルルルル・・・


 群れのボスと思しき大きい野犬は、後ろに飛びのいた後、唸り声を上げながら左右にうろうろし、グスタフを伺う。


 最初の斉射が済んだ後、2射目を諦めたシンシアは、すぐさま弓を脇に放り左腰の細い直剣を抜く。そしてスルスルと前進し、2匹とすれ違いざまに剣戟を繰り出す。


 ギャウンッ!!


 一瞬で3回突かれた1匹が絶命。もう1匹は後方に走り抜けたが、すぐに反転しシンシアに向かってくる。

 シンシアは、軽く後ろに引きつつも再度刺突を繰り出し2匹目も仕留めた。


 クロエは、細身の剣を右手に、左手には小型の投げナイフ2本を持ち、相手との距離を測っていた。

「てやっ!」

 向かってくる2匹に対し、素早く2本の投げナイフを投擲し、すぐに空いた左手は右手の剣の柄を握り両手持ちにする。

 野犬の叫び声が2つ上がり地面に倒れたのを確認すると、仲間の方に視線を送る。

 ちょうどシンシアが、2匹目に突きを入れて倒したところだった。


 グスタフの前にはひときわ大きい1匹が残っていたが、配下が全て倒されたのを見て、唸り声を上げると反転し逃げ去った。


「ふぅ。」

 クロエは一息ついて、剣をバックパックの鞘に戻した後、投擲したナイフを回収する。


「よし、2人とも無事だな。」

 グスタフが、シンシアとクロエを交互に見て言った。

「ただの野犬かと思ったが、ブラックドッグじゃねぇか?」

「ええ、そのようね。 こんなにすんなりと8匹も倒せたなんて、ラッキーだったわね。」

 突剣の剣先を拭い、放った弓を拾いながらシンシアが答える。


「ところで、ブラックドッグって黒い犬のことじゃないの?」

「何? クローエ知らないの?」

「私は、鉱石採取専門だったからね。」

「ははは・・・ブラックドッグは犬の姿をした魔物だな。 その見た目からそう呼ばれているんだろう。 下手な冒険者じゃ殺られるくらいには厄介なやつだぜ。 討伐報酬も出るんじゃねぇか?」

 そう言つつグスタフとシンシアは、ブラックドッグの亡骸から左耳と左前足を切り取る。

 これが魔物を狩った証拠となり、冒険者ギルドに持ち込めばお金になるのだそうだ。


「よし、後は街につくまでに、これ以上魔物に出くわさなけりゃいいんだがな。」

「グスタフは、またそういう事を言う。」

「なんだクロエ。 言ったらマズいのか?」

「私の国では『コトダマ』って言って、口にしたことは現実になるって考え方があるんだよね。」


 それを聞いたグスタフとシンシアは

「へへっ。 じゃあ、俺は間もなく王様にでもなりそうだ。」

「私も、ドでかい財宝を見つける予感がするわね。」

 などと、またしてもフラグっぽいことを言う。


「ふふっ」

「はっはっは!!」

「だから、アンタは声が大きいんだって!」

 軽口を叩きながら3人は街を目指して歩き出した。




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