1-5 下手でいい──灯をかじるのはちいさな小鬼
君が書き始めたとき、
一番最初に現れてくる敵がいる。
それは、誰かの批判でも、SNSの騒音でもない。
君の心の中に住みつく
ちいさな小鬼だ。
この小鬼はね、怒鳴らない。
暴れ回らない。
殴ってくるわけでもない。
でも、とっても、たちが悪い。
そっと、耳元で囁くんだ。
「こんなの下手だよ」
「もっと上手く書かなきゃ」
決して大声じゃない。
書いているときにふっと浮かぶんだ。
読み返したときサッと心に影を差すんだ。
それでね、この小鬼が灯をかじる。
まるで、赤ちゃんの枕元にちいさな影が忍び寄って、
そっとその柔らかな体をパクッと噛むようにね。
小鬼の正体は完璧主義のかけらだ。
どんな天才だって、最初から上手くできないのに、
小鬼だけが不思議な力で
「完璧」を要求してくる。
でも──安心していい。
小鬼はとても弱い。
ただ、声が《それっぽい》だけなんだ。
少し考えればわかるよね。
赤ちゃんがヨチヨチ歩くように、
作家の最初の文章がヨチヨチしていて当たり前だって。
でもさ、小鬼はそれを笑おうとするんだ。
ほんとおかしいよね。
だから、君はこう言って追い払えばいい。
「下手でいい。これは育つためのミルクだから」
すると、小鬼はしゅん、と小さくなる。
だって、下手な文章は、《灯が育っている証》だから。
好きを聴いて下手なまま書きなぐった一行は
君の灯を守り、育む力、そのものだよ。
だから、覚えておいてほしい。
上手くなる人は《下手でいい》を受け入れた人だけだってことを。
大事なことだし、直ぐに分かることだと思うけど、もう一度言うよ?
『上手くなる人は《下手でいい》を受け入れた人だけ』
小鬼は耳を傾けるとどんどん大きくなる。
でも、無視すれば弱くなる。
笑い飛ばせば一瞬で消える。
小鬼の囁きに負けた時、灯が弱る。
恐ろしいのはね、こんな小鬼すら、作者の灯を《殺せる》ってことさ。
怖かったね。
でも、大丈夫。
下手でも書くだけで、君の灯は必ず強くなるから。
だから、今日も書こう。
小鬼が耳元で何を囁こうと、《下手でいい》って笑うんだよ。
灯はその一行を飲んで、育っていくんだから。
この小鬼は、将来、《大鬼》になって戻ってくる。
その時に負けないように、ちゃんとすくすく育っていくんだよ。
大丈夫だ。しっかり育った未来の君は、必ず灯を守れるようになる。
大鬼からの守り方も、ちゃんと教えるからね。




