2-5 物語創作論・最初の一歩・理論編
――最初に学ぶのは《心》だけでいい
次なる敵、承認欲求を描く前に、最低限の創作論を君に伝えておこう。
なぜなら、承認欲求は、君の創作方針をグチャグチャにする存在だからだ。
それと出会う前に、軸だけはしっかりと固めておきたい。
ここまで、灯を守って一行書く。
それしか言ってこなかった。
深度2の比較を凌げた今、創作の一番大事な軸を知るべき時が来た。
そこで、最低限物語を書く上で、必要なものを3点だけ、説明するよ。
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◎1. 物語は《心が動けば》勝手に生まれる
物語は設定から生まれない。
テンプレからも生まれない。
物語の正体は《心の変化》だ。
迷い、怒り、誤解、後悔、祈り──
その一滴一滴が《次の行動》を生み、
そこから物語が動き始める。
君が何かを見て心が揺れた瞬間。
キャラの心を見つめて感情が震えた瞬間。
その小さな揺れこそ、物語の始まりだ。
設定も技法も、《心の揺れ》を描くために後から必要になるだけ。
■深度2の例(心がある物語)
彼は小説を投稿した。
宣伝ツイートに勇気を振り絞って書いた。
リプがついた。
《クソ小説乙》
胸が痛み、視界がにじみ、
彼はスマホを投げ捨て、そのまま布団に潜った。
これは心(内面)があるから、物語になる。
■深度0の例(心がない偽小説)
彼はスマホを触っている。
少し止まる。
突然スマホを投げる。
ベッドに倒れ込む。
これには人間がいない。
ただ起きた現象が並んでいるだけだ。
だから深度0(心がない文章)は読者の心に届かない。
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◎どんな世界でも、心だけは《人間として》描け
ファンタジーでも、宇宙でも、SFでも、異種族でも、君が選ぶ舞台はどれでもかまわない。
だが、そこに立つ存在の心は、必ず、人として描いてほしい。
なぜなら、小説は心を持つ人間が読むものだからだ。
寂しいときに寂しさを抱える。
悲しいときに涙をこぼす。
嫉妬したり、憧れたり、逃げたくなったり。
息をするような自然さで、人間の《心》を持って動くキャラ。
読者と物語を結びつけるのは、
どんな世界観でも異能力でもない。
心だ。
心さえ人として描ければ、
どんな世界でも、どんな物語でも、芯のある作品になる。
逆に、心が嘘なら、どれだけ舞台を豪華にしても読者の胸には届かない。
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◎人間を観察し、《内面(=心)を言語化》する修行を始めよ。
創作を始めたばかりの頃は、文章力や構成力を鍛えようとする人が多い。
だけど、最初に鍛えるべきはそこじゃない。
人の内面を見る力だ。
表情。
喋り方。
声の高さ。
立ち方。
ほんの少し元気のない背中。
それらの観察できる事実から、
その人が抱えている心の内側を言葉にしてみるんだ。
「いつも笑っている。(外面)楽しそうだ(内面)」
「声は強い。(外面)でも、怖がってみえる(内面)」
この外と内面の連結。
これが、キャラを立ち上げる最初の力になる。
内面を言語化できる作家は強い。
どんどん台詞が自然になり、物語が勝手に動き始める。
逆に、外側だけ真似しても、
内面が空洞ならどんなキャラも薄っぺらくなる。
君は、いまここから、
心を言葉にする修行を始めればいい。
見て、思ったことを書く。これだけだ。
笑っている。楽しそう。
走っている。やけに急いでいるみたいだ。
慌てている。教科書を忘れたのかなぁ?
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◆少年へ
難しい理論や、複雑なテクニックはいらない。
小説用語を覚える必要もない。
まずはこの三つだけでいい。
1. 心が動けば物語が生まれる
2. 心だけは《人》として描け
3. 人の内面を観察し、言語化する修行を続けよ
これだけで、君は十分に書ける。
君が物語を書けない理由は、
技術が足りないからじゃない。
書くべき中心軸が決まっていないからなんだよ。
それは《心》だ。
《心》を書く。
最初はこれだけあればいい。
描きたい《心》を書くためにどうすればいい?
この問いが、小説を上達させていく。
創作論の第一歩は以上だ。
次は具体例を1つ紹介する。




