私の小さな理想の世界
優しい朝日がカーテンの隙間から零れ落ちて、私は目を覚ましました。
今日はいつもよりずっと身体が楽です。つらいことや苦しいことばかりの毎日だって、たまには良いこともあるのだわ。——嫌なことが続く時こそ、努めて明るいことを考えるべきなのです。お父様が亡くなった時も、お母様が亡くなった時も、住んでいた屋敷を追い出されて森の中の小屋に引っ越した時だって、お兄様は、いつだって『良いこと』を考えて、笑顔にさせてくれました。だから、私もそれを見習って生きています。
それにしても、普段と違う印象の天井です。私はいつも煉瓦造りで、もう何年もお掃除をされていないような、今にも壊れてきそうな天井を見上げていたはずです。けれど、今朝私の目の前にあるのは木で作られた、どこか懐かしい気がする天井でした。二年前のあの日まで、毎日見ていた光景のようです。——だけど、違うわ。天井から吊るされた小さなランプは私のお気に入りで、お兄様がいつも奇麗にしていてくれたはずですもの。こんなに埃を被ってはいなかったはずです。
私は、多少は良いとはいえ、やっぱり重い身体を必死に起き上がらせました。そして、床ではなくベッドの上で眠っていたことを知りました。ふわふわとして寝心地の良いベッドです。
重力に従ってシーツが肩から落ちていきました。そして、私は真っ白なネグリジェを着ていることに気づきました。そう、服を着ていたのです。ぼろぼろの布切れを着ていたのでなければ、裸のまま置いていかれたのでもありませんでした。きちんと洗濯して皺を伸ばされたネグリジェは、私の感情を大きく揺さぶりました。
だってこれは、二年前の私の十四歳の誕生日に、お兄様が贈ってくださったものだったからです。森を抜けた先にある町の服屋で、私が目を惹かれたのを見たお兄様が、その場で買ってくださったのです。私、嬉しくて嬉しくて、小屋に帰るなりすぐにネグリジェを着て見せたのでした。
一度泣き出してしまえば、もう涙が止まるはずはありません。朝日の差し込む小さな窓も、今まで寝かされていたベッドも、埃を被ってしまったランプも、よく見知ったものでした。ここは、私がかつて兄と二人で暮らした森の中の小さな小屋だったのですから。
「お兄様……!」
しゃくりあげながら私が声を零せば、願い続けた相手は扉を開けて飛び込んできました。酷く焦った顔をしています。
「どうしたエマ!」
私は、裸足のまま床を駆けて、彼の胸の中に飛びつきました。会いたかった。とても会いたかった。いつかあなたがあの地獄から助け出してくれることを、私はずっとずっと夢見ていた。
勢いまかせに飛び込んだ私の身体を、お兄様はきちんと受け止めてくださいました。そうして私が泣き止むまでずっと抱きしめてくれたのです。
「お兄様。助けてくださったの。私のお兄様。……夢ではないですよね。本当にお兄様ですよね」
実のところ、こういう幸せな光景は何度も夢の中で見ていたので、私は半信半疑でした。幸福な夢を見た次の日は、いつもより何もかもが苦痛に感じられましたし、喜びから絶望に叩きつけられるので、警戒するようになっていたのです。
「現実だよ。俺はお前のお兄様だ。……エマは相変わらず泣き虫な女の子だな」
兄の声は記憶より少しだけ低くなっている気がしました。私が二年前はまだ十四歳だったように、お兄様だって二年前は十六歳だったのです。互いに多少成長しているのは、当たり前といえば当たり前でしょう。記憶のままではないということは、これは夢ではなくて現実だという証拠でもあります。夢の中に出てくるお兄様はいつだって最後に会った十六歳の頃の姿のままでしたから。
お兄様が変わったように、私だって少しは成長しているのです。もうあまり泣き虫ではなくなっていたはずです。私は、何をされても泣かない大人の女性になっていたはずでした。というより、結果的にそうなってしまっていたのです。泣いたり喚いたりすると、余計に相手は喜んだものですから。私は表情一つ動かしてなんてあげないと、毎夜思っていたのです。
「あんまり驚いたので泣いてしまっただけです。もう泣き虫ではないわ」
「そうか、お兄様はお前を思って毎日泣いていたが、エマは泣いてはくれなかったのか」
「……! 本当は、ちょっと泣いていました。毎日ではないけれど」
焦って言えば、お兄様は噴き出して笑っていました。
「悪い。俺も毎日は冗談だ」
「冗談ですって、酷いわ」
少しだけ拗ねてみせたら、お兄様はまた笑いました。ああ、こんな何気ないやり取りすら懐かしくて仕方がないわ。
私はお兄様の髪に手を伸ばしました。お兄様は私よりずっと背が高いので、頑張ってどうにか届くかどうかといったところです。私と同じ金色でふわふわした髪。これも記憶とはちょっと違って、昔より伸びました。意図的に伸ばしたのか、忙しくて切り忘れているだけなのかは、私にはわかりませんが。——乱雑にまとめたままになっているのは、ちょっとお兄様らしくない気がしますから、切り忘れている可能性が高そうです。
お兄様はくすぐったそうにしていました。今度は私は彼に口付けたくなって背伸びをしていたのですが、どうにも届きそうにありません。やがてお兄様はようやく私の意図に気が付いて、腰を屈めました。お兄様の頬に口付けることに成功した私は、大満足です。
お兄様もお返しとばかりに、私のおでこに口付けてくださいました。そして、唇を離すと、珍しく真面目そうな顔をしたのです。
「エマ。今日一日くらいは無理に動かずにベッドの上で過ごしなさい」
「私、そんなに疲れていないわ。一日中ベッドの上だなんて、つまらない」
「お兄様が真剣に言っていることには従いなさい」
「いやです……」
「聞くんだ。いいね。反抗するな」
いつも優しいお兄様がこうもはっきり言い切るときは、私が何を言っても意見を変えてはくれません。
「……はい」
ああ、寂しいわ。せっかくお兄様に会えたのに、このまま眠って、次に目覚めた時にまたあの牢獄の中だったら、私は今度こそ本当に死んでしまいたくなるでしょう。だから眠りたくないのです。離れたくないのです。
「いい子だ。ご飯を作ってくるから、お兄様が呼びにくるまでもう一度寝ているんだ」
「……お兄様。口付けてください」
そうしてくれたら、寂しいのを我慢できる気がします。
「さっきしただろ」
お兄様の返答はなんとも意地悪です。私はちょっと考えて、そして良いことを思いつきました。
「さっきはおでこでした。——エルバート、意地の悪いことを言ってはいやだわ」
拗ねた顔をしてみせたら、お兄様は顔を近づけて、私の唇に口付けてくださいました。唇が離れてから互いににっこりと微笑み合います。よく交わしていた行為のはずなのに、二年ぶりだからか私はほんの少し気恥ずかしさも覚えていました。お兄様は幸せそうな顔をしています。相変わらず、最高の職人が丹精込めて作り上げた彫刻のように美しい人です。そんな人を幸福な気持ちにできているのだと思うと、さっきまでの気恥ずかしさもどこへやら、私はたまらなく満たされていきました。
お兄様は私の頭をなでると、髪を手慰みに弄んでいました。ゆっくりと動いていく指の動きに意識を向けていると、『眠りたくない』という意思に反してやがて瞼は重くなっていきます。
「目覚めたら何が食べたい?」
「……お兄様が作ってくださるものなら何でも」
「前みたいに我が儘を言って良いんだぞ。この小屋ではお前が唯一のお姫様だ」
遠慮したんじゃありません。私は本心から、お兄様の作るものなら何でも良いと思ったのです。お兄様が作るのなら、焦がしてしまったパンケーキだって、とびきりの御馳走なのですから。
私がぼんやりしていて何も言葉を返せないでいたら、お兄様は「スープにしよう」と言いました。スープならよほどおかしなことをしなければ失敗しないはずです。火加減をよく間違えていたお兄様でも素敵なものが作れるでしょうから、心配はありません。
「私がお姫さまなら、お兄様は何になってくださるのですか」
「俺はお姫様の唯一の騎士だよ」
「……あら、それじゃあお姫さまはずっと幸せになれないわ。お兄様は王子さまになってくださらないと。私を救い出してくださったのは、お兄様だったのですから」
そう、おとぎ話のお姫さまを王子さまが迎えにきてくれたように。
「——俺が王子じゃお前が可哀そうだ」
あら、どうしてですか。そう言いたかったはずの私の唇は、微睡みのいざないにこれ以上抗うことはできませんでした。
〇〇〇
私が愛する我が家に戻ってきてから、もうかれこれ二ヶ月は経っているはずです。
私はここ数日続けている試みがありました。外へ出かけたいのです。身体中にあった傷はお兄様が塗ってくださった薬で大分良くなりました。もうスープではなくても、何でも食べられますし、最近はお兄様より私がキッチンに立っていることの方が多いくらいです。——二年経っても、お兄様の料理の腕はあまり上達していなくて、私が作った方がまだいくらか良い出来だったものですから。
家の中が苦痛という訳ではありません。お兄様は私にずっと付き添ってくださっています。私が望めば、朝目覚めた瞬間から、夜眠るまで。いいえ、眠った後もずっと一緒にいてくださいます。
けれど、ふと、思ったのです。お兄様は森を抜けた先にある町の工場で働いていたはずでした。もちろん時折はお休みもありましたが、大抵は朝出かけて夜暗くなるまで帰ってこなかったものです。私ももう幼くはありませんから、人は働かないとお金を手に入れることはできず、お金を手に入れないと生きてはいけないということは充分理解しています。だというのに、これは一体どういうことでしょう。
お兄様はちっとも外へ出かけません。もしかして、仕事を辞めさせられてしまったのでしょうか。それとも、帰って来たばかりの私の世話をしているために、なかなか外へ出られないのでしょうか。
どちらにせよ、本人に聞いてみないことには何もわかりません。私は、焼き上がったばかりの——実をいうと私もそこまで料理上手という訳ではないのですが、今回は無事焼き上がりました——クッキーを木皿に広げて冷ましながら、ホットミルクを鍋から二つのカップに均等に移しました。そして、お兄様が座っていらっしゃった向かいに座ると、テーブルの上にそれらを置きました。
「奇麗に焼けたな」
「まあ、お兄様もそう思われますか。私も今回は良い出来だと内心嬉しく思っていたところなのです」
お兄様の方へカップを移動させると、「ありがとう」と言い、口を付けられました。すぐに焦った表情をしたので、温度がまだ熱すぎたのだろうとわかります。顔には出るものの、声には出さずに取り繕ったつもりでいるのが、お兄様らしいです。
「ねえ、お兄様」
「どうした」
私は頬杖をついて窓の外へ一瞬目をやってから、とうとう切り出しました。
「お兄様、お仕事へ行かれないのですか」
「深刻そうな表情で話し出すから、何かと思ったが、そんなことか。——大丈夫。エマが心配することは何もないよ」
「何もないなんてことありません。お金が入るあてがないのにどうやって暮らしていくと言うんです。お兄様、もうあの工場へは行かれていないのでしょう」
お兄様は小さくため息をつきました。
「だったら何だ。お前に関係はない」
「お兄様……!」
どうしてこんなに突き放したような言い方をされるのでしょう。
「もう良いです。お兄様はいつも勝手だわ。——お兄様が外へ働きに出られないなら、私が行きますから」
私は本気でした。二年前は十四歳でも、今はもう十六歳です。充分大きくなりました。大人と言っても差し支えないはずです。少なくとも私はそう思っています。
それに、私はこの二年間一日も休むことなく働かされていたのでした。あの地獄のようなつらいばかりの日々に比べれば、町へ出て働くことなんて、天国のようなものです。
私は自分が本気であることを示すために、お兄様と向き合って座っていた椅子から立ち上がりました。廊下へ出た辺りで、お兄様が椅子から立ち上がる音が聞こえたので、私はできる限り急いで走って、とうとう玄関のドアノブに手をかけたのです。
外開きの扉に自分の体重をかけます。二年前の時点で建て付けが悪くなってきていたこの扉は、やはり今はもっと開けにくいようでした。私が全体重をかけると、外の明るい光が一筋、ちょうど顔の辺りに差し込みます。想像以上の明るさに瞼を閉じたのと、お兄様が後ろから腕を伸ばして扉を閉め切るためにドアノブを引いたのは、ほとんど同じ時でした。
私は精一杯の非難を込めてお兄様の顔を睨みました。
しばらく黙って私を睨み返していたお兄様は、少しするとたった一言「悪かった」とだけおっしゃいました。
もう知りません。私は今お兄様と話したくありません。
ですから私は、お兄様の胸を精一杯の力で押しました。呆然とした顔を一瞥して、腕の中をすり抜けると、自室に戻って扉の前につっかえになるよう椅子を置きました。
どうしたというのでしょう。優しくていつだって楽し気に振舞おうとしていたお兄様は一体どこへ行ってしまったのでしょう。私は楽園へ戻ってきたのだと思っていました。けれど、それはもしかしたら幻で、私が大好きだったはずの小屋も、最愛だったはずのお兄様も、もうどこにも存在していないのかもしれません。
私は机に突っ伏してしばらく悲しみに暮れていました。夕飯の時間を知らせにきてくださったお兄様のことも、意図的に無視しました。
そして気づいたときには、私はきちんとベッドの上で眠っていました。
椅子一つでは大したつっかえにならないのだということと、たとえお兄様がどんなに変わってしまったとしても、嫌いになることなど到底できないということを、私は身に染みて理解したのです。
〇〇〇
お仕事に行かなくなってしまったお兄様ですが、時折は小屋を開けることがあります。買い出しに行くためです。食料も日用品も、生活していれば勝手に減りますが、勝手に増えることはあり得ないので、当然といえば当然でした。
お兄様が私を意図的に外に出さずにいると気づいてから、数ヶ月。私は頭の中で色々と作戦を練っていました。
灯り取りのための小さなガラス窓から外の様子を伺います。窓に使うガラスは貴重品ですから、ほんの小さな窓でした。空が少し覗けるだけですが、それでも天気くらいはわかります。今日は晴れています。そして今の季節は秋のはずです。寒くも暑くもない良い気候。最高の作戦決行日和です。
作戦といいつつも、私は元々あまり賢くはないですし、お兄様が助けてくださるまでの二年間は頭がおかしくなりそうな日々でしたから、余計に賢さからは遠ざかっている気がします。ですから、そんなに凝った作戦ではありません。
お兄様の不在の瞬間を狙うこと。森の小道は普段よく歩いていた方ではなく、逸れた道の方を使うこと——これは森の中でお兄様と出会ってしまう確立を下げるためです。町では長居せずに、様子を伺うだけですぐに戻って、何事もなかったかのようにお兄様の帰りを待つこと。
私の作戦はたったこれだけです。
町に出てさえしまえば、わりと人が多いですから、お兄様に見つかってしまう可能性は減るでしょう。それに、もしお兄様の姿を見かけても、お店に入ってやり過ごすこともできますし、町には何人か顔見知りもいますから事情を離せば助けてくれるはずです。兄妹喧嘩をしていると思われて笑われてしまうかもしれないことが懸念点ですが、それくらいの恥ずかしさはきっと乗り越えられるでしょう。ですから、森さえ抜けられれば後はどうとでもなるはずです。とはいえ、私に関することには目ざといところもあるお兄様ですから、一見私らしくない服を着ていくことにしましょう。
いつも淡い色使いのワンピースを着ている私は、今日は真っ黒のワンピースを選びました。町の女性たちは暗い色の服を着ていることも多いですから、うまく溶け込めるはずです。
玄関の扉の建て付けは、もはや職人さんを呼んで修理が必要な程でした。私は二度も三度も勢いをつけて飛び込んで、どうにか開けることができました。ここまで大変なのですから、いくら私よりお兄様の方が力があるからといっても、お兄様にとっても開けづらいものになっていることでしょう。
久々に浴びた太陽の光は、少々明るすぎるくらいでした。作戦決行が秋で正解でした。これが夏なら、もしかしたら一歩外へ出た途端に諦めて小屋に逆戻りしてしまっていたかもしれません。
私はまだ薄れ切っていなかった記憶を頼りに、町の方角と森に住む動物たちが使っている道を見極めました。そして、目印にしていた切り株を見つけ出したのです。ここまでしっかりとわかれば大丈夫。あとはこのまま進むだけで、町に辿り着きます。
鳥の鳴き声も、兎が通るたびにカサカサと揺れて音をあげる草木も、私にとってはひどく懐かしいものです。ああ、そうでした。私はこんなにも明るい世界で生きていたはずだったのです。毎日毎日暗い牢獄の中で、光など浴びることもなく今が朝か夜かもわからずに、悲鳴と涙ばかりを零していた日々はもう遠いのです。
町の人々は私を覚えているでしょうか。私には友人と呼んでも差し支えないほどに仲良くしていた女の子たちもいたのです。彼女たちは、二年経った今でも私をまだ仲間として迎えてくれるでしょうか。一人で小道を歩いていると、次第に期待と緊張が高まってきました。
だから、森を抜けた先で信じがたい光景を目にした私は、しばらく立ち尽くしてしまったのです。
誰もいません。
人が一人もいないのです。
いつも賑やかで、外からくるお客さんもいる町だったはずです。
笑い声で溢れていたはずの広場は静まり返り、子どもたちがはしゃいでいたはずの公園の遊具は土埃を被り、客を引き入れようとする声が絶えなかった商店の通りは開店の札すら一店舗も掲げられていません。
「どうしたというの……」
私は幻を見ているのでしょうか。皆どこへ行ってしまったのでしょう。
私は町中歩き回りました。そして人が全くいないことを確信せざるを得ませんでした。
——こうなったら作戦変更です。隣町の方まで行ってみましょう。もしかしたらこの町は何らかの事情で皆住むのを辞めてしまったのかもしれません。以前、とある町で病気が流行した際に、その土地に問題があったことがわかって、全員が別の町へ越していったという話を聞いたことがあります。ここでもそういった経緯があったのかもしれません。
お兄様は仕事を辞めたのではなく、雇い主が引っ越したから辞めざるを得なかったのでしょう。それに、賑やかだった町に人がいなくなっていることも、私はちっとも知りませんでした。お兄様は何一つ私に話してはくださらなかった訳です。
幸い、まだ歩けそうです。
私が小屋にいないことを知ったお兄様は怒るかもしれませんが、私もお兄様に対して怒っているので、それは考えないことにしましょう。
もう私は守られるばかりの女の子ではないのです。一人で遠くまで歩いて町に人がいなかったことの真相を知ってから、無事に小屋に帰ることで、私は自分で行動できる大人なのだと証明したいという気持ちも、心のどこかにはありました。
隣町へは、何度か行ったことがあります。それほど大きな町ではなく、親切な人が多い場所でした。買い物と遠足を兼ねて、お兄様と出かけたものです。顔見知り程度なら何人かあてもあります。
多少歩き疲れたことを感じながらも、私はそう時間をかけずに隣町に辿り着きました。
そして、ここでもまた同じ理由で立ち尽くすことになったのです。
「何かがおかしいわ」
私は違和感を覚えました。私が訪れた町が、偶然人が住まなくなっていたという話ではない気がしたのです。
これは、もっとそんなものではなくて——私が想像しているよりもずっと恐ろしいことが起きているのではないでしょうか。
「いいえ、まさか。偶々よ、きっと」
たった二つの町を見ただけで決めつけるのは早すぎます。私はふと思いつきました。そうです、王都へ行ってみましょう。王都は毎日大勢の人で溢れかえっていて、外国からも多くの人が訪れる場所でした。——そして私がほんの少し前までいた場所でもあります。
たった一人で行くのは怖くて気が進まない部分もあるのですが、なぜだかお兄様に声をかけに戻ろうという気は全く起こりませんでした。誰もいない町の中で、私たち兄妹だけが、なぜか普通の生活を続けている。冷静になってみるとちょっと尋常ではない状況です。お兄様は信頼に値する人だと思っていますが、信頼と盲信は別のものだと私は知っています。私はお兄様を盲信はしていません。ですから、信じるに値しない時は、きちんと自分の目で真実を確かめなければならないのです。
それに、ここでそんな甘えを見せてしまえば、つけこまれて一生真相に辿り着けずに終わる予感もしていたのでした。
ここから王都へは、馬車で丸一日かかる距離でした。この状況では馬車を動かしている人にはなかなか出会えないでしょうから、歩くしかありません。歩いたらどれくらいかかるでしょうか、一週間くらいみておけばどうにかなるでしょうか。
私は頭の中で考えながら、近くにあったかつて雑貨屋であったであろう店に入り込みました。黒いワンピースを脱ぎ捨てて、もっと簡素で動きやすい服を拝借します。それから、いくつかのパンと水を一瓶手に取ると、肩掛けができる鞄に詰めました。旅に必要なのは、これくらいでしょうか。
私は店内をざっと見回すと、誰もいない帳場机を見つけて、小さく頭を下げました。
「——ごめんなさい、後で支払います」
もっとも、この店の店主に出会えたらの話ではあるのですが。
ここから王都へは、ずっと整備された煉瓦作りの道が続いています。森の中を通らなくて良いので獣の心配はありませんし、このひとけの無さをみると盗賊に襲われることもしばらくは考えなくて良いでしょう。途中には定期的に町もあるので、食料に困ることもありません。女一人でもお気楽な旅です。心配点は距離が長いことと、私の体力があまり戻っていないことだけです。
私は疲れ切ってはいましたが、歩みを止める気は全くありませんでした。
準備を整えて町から出る時に、私は一度だけお兄様がいるであろう小屋を振り返りました。——お兄様、私はあなたを愛しています。けれど今、あなたを信じて良いものかわかりません。
暗くならないうちに、歩けるところまで歩いてしまいたいわ。私は意を決して、長い長い道のりを歩き始めました。
〇〇〇
六日間の旅を終え、私はついに王都へ辿り着きました。
そして内心そうではないかと予感していた状況そのままの光景を目にしたのでした。王都には王族から庶民までたくさんの人がいたはずですが、やはりどこにも誰の姿も見えません。それどころか、海外からのお客で溢れていた港すら、人一人いなかったのです。
私はもう立ち尽くしたりはしません、そもそもここまでの道中で誰ともすれ違わなかった辺りでなんとなくの予想はついていました。——さあ、困りました。もしかして私は、私とお兄様は、この国で、いいえこの世界でたった二人の生き残りの人間になってしまったのではないでしょうか。
「そんな作り話のような現実があるかしら」
やはりこれは夢なのでしょうか。私は実はあの牢獄から抜け出すことはできていなくて、長い長い夢を見続けていたのでしょうか。あの懐かしい小屋も、助けてくださったお兄様も、全ては幻だったのでしょうか。
王都をふらふらと彷徨い続けていたら、気づくと少しはずれた場所にある森の入り口に立っていました。そこで、私は壮大で恐ろしい生き物に出会いました。それは形を持たない霧のようで、暗く黒く、普通の人であればすぐに逃げ出してしまうであろうものだったのです。
「こんにちは、魔物さん。人が一人もいなくなっても、あなたたちはまだいたのね」
私はにこりと微笑んで挨拶をしました。彼——彼女かもしれませんが——は微動だにしません。せっかく人が挨拶をしているのに、冷たいわ、と少しだけ思います。ああ、でも、私が『魔物さん』と呼んだのが気に食わなかったのかもしれません。私が覚えていないだけで、もしかしたらどこかで出会ったことがあったのかも。私は人の顔を見分けるようには彼らの区別をつけることができなかったので、魔物は皆『魔物さん』とまとめて呼ぶことにしていたのです。
「エルバートの妹か」
あら、人の言葉を喋れる魔物さんだったようです。これは初めて出会うパターンです。
「そうよ、よくご存知ね。私はエマよ」
私が名乗れば、彼——声から『彼』だと私は判断しました——は、頷いたようでした。ずっと見上げた先にある、頭のような霧の塊が少し動いたのです。
「エマ、お前は真実を知りたいと思うか」
「真実とは、私が自分の住む小屋を出てから今まで、誰にも出会えていないことの答えで合っている?」
私が問えば、彼は少し悩んでいるような仕草をしました。
「我が話す真実はそれではない。しかし、話していくうちにお前が求める真実に繋がっていくことだろう」
意味がわかりません。まあ、仕方がありません。私は以前にも何度か魔物さんたちと話したことがありましたが、そのことを思い返すと言葉を使って会話を交わせている今の状況すら奇跡のようなものでしたから。
「それなら聞かせていただきたいわ、魔物さん」
私の周りを暗い霧が覆いました。そして次に目を開いた時、そこは二年前にほんの数日だけ見た豪勢な城の中だったのです。私は思わず足が震えそうになりましたが、必死に冷静さを取り繕いました。
「お前は二年前、ここに聖女としてやってきた」
魔物さんは私が近くにあった椅子に腰かけたのを見ると、話し始めました。
「ええ、そうです。偽物の聖女でしたけど」
「そうだ、だから我々は本物の聖女をよこせと、お前を送り返したのだ」
そう、そして、私の地獄の日々は始まったのです。
「王女様はお元気?」
「この世界に、お前たち以外の人間は一人もいない」
あら、そうなのですか。聖女とあろう方でも、特別扱いにはならないのですね。
この国には古くから人ならざるもの——魔物が住んでいました。彼らは古くはよく人を襲ったとされています。それを抑えるために、人々は捧げものをすることにしたのです。王家に生まれた金髪で淡い青い瞳を持つ少女を、聖女として魔物たちに引き渡していたのです。その伝統は今も続いていました。
ですから、十六年前、金色の髪と青い瞳を持った王女様がお生まれになったその瞬間に、次の聖女は決定したのでした。
王女様と実際にお会いしたことはありませんから、私が王女様について知っていることは僅かですが、大層お美しく、大層聡明で、そしてとても気位の高い我儘な方だったそうです。——ちなみにこの最初の『大層お美しく、大層聡明で』は、王族や貴族の女性について話す時に決まってつく枕詞のようなものです。私も幼い頃はそう評されていたものでしょう。
つまり高貴な女性の本当の人柄を知りたければこの枕詞は気にしないのが正解なのでそた。
「王女は、聖女となる役割を放棄したがった」
「ええ、そうね」
私は、魔物さんの本体——霧のようなもの——は、物がすり抜けるのか、それとも実体があってすり抜けはしないのか、が気になりつつも、答えました。
自分の意見を臆さずに言う気質であられた王女様は、聖女として捧げられる十四歳の誕生日の数日前、聖女という役割を拒みました。そしてそんな王女を溺愛していた国王と王妃は、娘の頼みを聞き入れてしまったのです。
しかし、王女様の代わりを務めることができる人間はそう多くありません。まず、金の髪と淡い青の瞳を持っていなければなりません。それから、王女と近い年齢・身長・体型である必要があります。加えて、王女のふりをするのですから、礼儀作法を知らない庶民の娘ではいけないですし、とはいっても貴族の娘から恐ろしい魔物への捧げ物を出す訳にはゆきません。そんなことをしては瞬く間に話が広がって、国民から大顰蹙を買うことになってしまいます。
しかし、全ての条件を満たすことができる都合の良い娘がいたのです。——それが、私でした。
「本来なら認められるはずのない願いだ。しかし、その我儘な願いは叶ってしまった」
随分と物知りな魔物さんのようです。人間はほとんどがそんな経緯があったことを知らないはずです。それとも、魔物内では常識だったりするのでしょうか。
私は金の髪に淡い青の瞳を持っていました。それから、王女様と数日違いに生まれた同い年で、身長や体型も似通っていたそうです。それに、私はお父様とお母様が生きていらした頃は、立派な屋敷に住み、豪華なドレスを着て、侍女や家令に『姫様、姫様』と呼ばれていた人間だったのでした。小屋では貧しい暮らしを送っていましたが、幼い頃に教え込まれた礼儀作法はもはや習慣のようになっていました。
白羽の矢を立てられたことなど露知らず、その日も私はいつも通り、町へ買い物に出かける途中だったのです。夜遅くまで働いているお兄様の代わりに、家事は私がこなしていたことが多かったものですから。
お兄様のために、何を作って待っていようかしら。あまり贅沢はできないけれど、いつも訪れているお肉屋さんは今度はおまけしてくれるとおっしゃっていたから、とりあえずそこへ行こうかしら。
頭の中でお兄様の喜ぶ顔を想像すると、私はそれだけで嬉しくて、近くから聞こえる鳥の声に耳を澄ませながら、呑気に鼻歌なんて歌って森の小道を歩いていたのです。
すると、突然見知らぬ男たちに私は攫われたのでした。
「全てにおいて都合の良い存在だったお前は、目をつけられて攫われた」
そうです。布で視界を奪われ、馬車に押し込まれて一日。辿り着いた先は王都のお城の中でした。王都は私がかつて住んでいた屋敷があった場所です。そしてお城は、一文無しで誰にも助けてもらえず困ったお兄様が私の手を引いて嘆願書を届けた先なのでした。続けさまに両親を亡くし、右も左もわからずにいた不幸な子どもたちを、王様も王妃様も助けてはくれませんでしたが。
その王と王妃の前に、私は跪かされました。そして、王女の代わりになれと言われたのです。さもなければお前の兄を殺すと、言われたのです。ですから私、必死に王女の代わりに聖女を演じました。
数日で色々な知識を叩き込まれると、すぐに魔界へ送られました。そこで私を見た魔物たちは何やら喚き始めました。残念なことに言葉の意味は全く理解できなかったのですが、私が首をかしげていると、あれよあれよという間に私は城へと戻されていたのです。そして、本当の聖女であった王女が魔界へ向かいました。
私は王様と王妃様の願いを叶えられなかったことで、お兄様の命が危ういのではないかと、そればかり危惧していました。ですから、私は騎士たちに助けを求めました。『お願いします。兄の元へ帰してください』と頭を下げたのです。お兄様に一目でも会えたなら、危ないからどこかへ逃げてと伝えるつもりでした。
騎士たちは一瞬考え込んだ風な顔をしました。ですから、彼らが私の願いを叶えてくれる望みがあるように思われたのです。何度も頭を下げました。そして、願いを叶えてくれるなら、何でもすると言ったのです。
愚かな娘でした。幼すぎました。男の人があんなに恐ろしいものだとは、少しも思いませんでした。これまでどれほど甘やかされて育ってきたのか知りました。私が担うはずだった苦難全てを肩代わりし続けてくれていた人がいたことも理解しました。
何度も何度も殴られて、蹴られて、それから言葉にするのもおぞましいことを一晩中されて、気づいたときには私は牢の冷たい床の上で一人泣いていました。
世の男性たちというのは皆こんな酷い人たちだったのでしょうか。それとも、私は彼らが何度も言ったように、醜くて最低で生きている価値のない娘だったのでしょうか。——そして気が付きました。ああ、お兄様。あなたは私を心の底から愛していたのですね。そして私も彼を愛していたのです。私がこれまでお兄様を一度も怖がらずにいたのは、お兄様が私を宝物のように扱ってくださったからだったのです。
王女様は我儘なことで有名でしたが、信奉者の多いことでも有名でした。きっと城で働く若い男たちは一人残らず王女のことを愛していたことでしょう。可愛い王女の願い虚しく、偽物の聖女がまともに仕事をせずに数日で戻され、愛しい王女が魔界に行かされてしまったとなれば、その憎しみたるや想像するに余りあります。
それから二年、お兄様が私を助け出してくださるまで、私の世界はその牢の中だけでした。
私は時折思い出したように歌を歌っていました。お兄様が私の歌声を好きだと言ってくださったことがあったことが忘れられなかったものですから。惨い現実から目をそらしたくて、私に手を伸ばしてくる男たちから必死に目を背けて小さな声で歌い続けていたら、頬を殴られました。
光の一切入らない牢の中、重い入り口の戸が昼間に開けられた瞬間だけ、思い出したように輝きを取り戻す自分の髪を、私はどこか心の拠り所にしていました。お兄様と全く同じ色の髪だったことを覚えていたからです。毎日のように、お兄様が洗い、梳かしてくだった髪です。自分の髪は適当でしたのに。けれどある日、いつものように私を苦しめ遊んでいた騎士たちが、面白半分で無残に切り落としました。私がこれまでの人生で初めて死にたいと思った日でした。
私に惨い乱暴をするのに飽きた男たちは、代わりに、鞭で打って遊ぶようになりました。私は痛いことは何より嫌いでしたので、毎日悲鳴をあげていました。彼らは大変楽しそうでした。
それから、これまで日に一度は床に投げ捨てていっていた残飯は数日に一度貰えるかどうかというようになりました。お腹が空いて仕方がなくて、床に頭をつけて『何か食べるものをください』と頼み込んだ日のことを思い出します。男たちは、まず手始めに私の首を絞めて遊んでいました。それから『お前がこれからの数日を耐えられるなら考えてやろう』と言いました。それから私、毎日のように殺されるのではないかという思いを味わいました。そして、やっぱりご飯は貰えませんでした。
苦しい日々の中で、私は毎日お兄様を思っていました。それだけが頼りでした。お兄様、ご飯を食べるって、そのために働くのって大変なのですね。私は毎日とても苦しいのです。私たち、貧しい暮らしでしたが、私は食べるものに困ったことなど一度もありませんでした。
今となってはわかるのです。そのためにお兄様がどれだけ苦労していたことか。こうして離れ離れになってようやく思い出したのです。幼い寒い冬の日、暖炉に入れる薪すら買えず、寒さを凌ぐために二人でベッドの上で抱きしめ合って暖を取っていた時、お兄様は私にパンを食べさせてくださったけれど、自分自身は何も食べずにいたことを。——お兄様、まだ私のことを覚えていてくださいますか。まだ、私を愛してくださいますか。
最後の半年ほどは酷く衰弱していたものですからあまり記憶がありませんが、時折『殺してください』と口走っていたことははっきりしています。だって、もう戻れない気がしたのです。お兄様が愛してくださった妹には戻れないと思えたのです。お兄様は純真無垢な可愛らしい妹を愛していたはずなのです。こんな汚れ切った醜い女を愛していたはずではないのでした。
そうでした。私はもう一人で立ち上がることもできないほど弱っていたのでした。それが、お兄様に助けられたすぐ後には一人で歩いていたのです。そんなことが現実にあり得るのでしょうか。
それに、私が命じられた役目を果たせなかった時点で、お兄様は殺されていたのではないでしょうか。私が攫われたのは小屋から出てすぐの森の小道の中です。私たちの小屋の場所はとっくに王の知るところとなっていたはずなのです。危険を察知して場所を移して生き延びたのならわかりますが、私たちはまだあの小屋に住んでいます。私をこれほど痛めつけて——そしてきっと最後はそのまま牢の中で殺してしまうつもりだったであろう彼らが、妹を心配し探し回っていたであろう兄の方は見放しておくことなどあるはずがありません。身寄りのない兄妹二人、どちらも殺してしまえば事の真相を永遠に闇に葬り去ることが可能だったのですから。
極めつけはこの世界です。人一人いません。現実的に考えて、半年足らずのうちに世界中から人が全くいなくなるなんてあるはずがありません。
ここまで考えて、私は全てを説明づける結論に至りました。
ああ、私、本当はもうとっくに死んでいたのだわ。
牢から出られずに、最後まで会いたかった愛する人には会えずに、死んでしまっていたのです。
それなら、このおかしな世界は納得できるものでした。だって私はお兄様に再会することだけを望んでいたのですから。他の人のことなんて少しも考えていなかったのですから。
ここは私にとっての天国なのでしょう。私はお兄様と二人きりの、理想の世界を作り上げたのです。
帰ろう。私は思いました。一刻も早くお兄様に会うことが重要な気がしてきました。
そして、謝らなければいけません。お兄様が殺されてしまったのは、私がうまく立ち回れなかったからなのです。それから、こんなおかしな世界で私とずっと二人きりなのも、きっと私のせいなのです。
「妹がいなくなってしまったことに気づいた兄は慌てた。それから——」
魔物さんは重々しく勿体ぶって充分な間をおいてから口を開きました。けれど、私はそれを途中で遮りました。今更、他の人から聞かされることなど何もなかったからです。
「魔物さん。世界の真相はお話いただかなくて大丈夫よ。私は自分で答えに辿り着けてしまったから」
「……そうか」
私が椅子から立ち上がったのと、お兄様が部屋の重い引き戸を開けて飛び込んできたのはほとんど同時でした。
「エマ!」
たった数日離れていただけなのに、なんだか泣いてしまいそうでした。私はこの人から離れて生きていけるようにはできていなかったのです。長く離れていたから死んでしまったのです、きっと。
「お兄様、勝手に出てきてしまってごめんなさい。悪いことをしたと思っています」
「……良いんだ。それより、無事か。どこも怪我はしていないか」
「ええ、怪我なんて少しもしていません」
一通り私の無事を確かめたお兄様は、何も話さずに私たちの様子を眺めているようだった魔物さんの方へ一瞬視線を向けました。その視線が酷く冷たいものに見えて、私は少し怖かったのです。けれど、すぐにいつものお兄様の顔に戻ったので、見間違いだったのかもしれません。
「帰ろう」
お兄様は、私が外へ勝手に出たことを叱ることもなく、人が一人もいないおかしな世界になっていることに触れることもなく、ただ一言そう言いました。
私は泣きそうなのを我慢して、にっこりと微笑むと、お兄様の手を取って歩き出しました。
それから長い道のりを戻り、そしてもう二度と私が小屋から出ることはありませんでした。
私は小さな理想の世界の中で、愛するお兄様と二人きり、いつまでも仲良く幸せに暮らしたのです。
二話完結ですので、あと一話お付き合いいただけると嬉しいです。後編は真相になります。(お兄様目線)




