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幼馴染だからって

作者: 155

「それで、ミーがさぁ朝っぱらからうるさいのなんのって」

「はいはい、幼馴染のミーちゃんね。いい加減お前もそのミーちゃんとやらと付き合っちまったらいいんじゃねーの」


「んなわけあるかよっ! あいつとはかれこれ幼稚園の頃からだから10年以上の腐れ縁だし、今更そんな気分にはなれないよっ。もう家族か空気かって感じだしね」

「ふーん、そんなもんなのかね」


 こいつは俺と同じクラスで知人枠の一人、大久保信人(おおくぼのぶと)って男。ほかに話す話題がないのか、何かというと幼馴染のミーちゃんという女の子の話をしてくる。

 それがその子に文句を言われただのしっかりしろと注意されただのっていうよくわからないし一つも面白みのない話なんだけどな。


 話半分だとしても信人の方はそのミーちゃんに気があるみたいなのが丸わかり。ミーちゃんの方はどう思っているのかよくわからん。信人がハナシを盛っている場合も大いにありうると思うので断定はできない。


『ミーは僕が進学するからって、同じ高校をこっそり受験してあとついてくるんだよ。まったく、ストーカーかよってね』


 そんな話っぷりからして、ミーちゃんは俺等と同じ高校に入学しているらしいが生憎と他のクラスみたいなので、一体誰のことなのか未だにわからないし、正直気にもならない。



 それもこれも俺には中学の頃から付き合っている可愛い彼女がいるので他の女のことなんて全く眼中にないからなんだけど。

 俺が先にこの高校を志望したら、可愛いことに彼女も同じ高校を選んでくれたんだ。彼女の方が、少し学力が足りなかったみたいだから塾とか通って一生懸命に勉強してくれた。

 中学校自体は彼女と俺は別だったので毎日会うことは出来なかったけれど、気持ちはいつもそばに寄り添ってこれたと思う。



 俺達が出会ったのは中学2年の夏の大会の日。俺達は共にバレーボール部に所属していたので、大会は同じ体育館で行われていたんだ。

 初めは俺の方から声をかけたんだけど、彼女も警戒とかしないで普通に喋ってくれたし、いろいろと話しをしている間に意気投合していった。そのときはその場でお別れとなったんだけど秋季大会で再会したときに彼女から告白された。


『夏の大会の日からあなたのこと忘れられなくて』

『俺も君のことがずっと頭から消えなかった』

『でも変なの。お互いまだ名前も知らないよね?』

『ははは、そうだな。俺は中條大志(なかじょうたいし)っていいます』

『わたしは宮村亜沙美(みやむらあさみ)です。大志くん、よろしくね』


 初めて買ってもらったスマホに連絡先を登録して、そこからはほとんど毎日のように連絡しあっていたし、週末の部活のない日は朝から日が暮れるまで一緒に過ごしていた。



 交際は順調そのもので、よくドラマや漫画であるような第三者の邪魔や気持ちのすれ違いイベントなんかも一切起こらなかった。日頃からお互いに隠し事とかしていなかったのが功を奏したのだと思う。


 唯一の懸念事項としては亜沙美の昔なじみに目にも鼻にもつくだらしない男が一人いるってことぐらいだった。あまりにも目に入ると苛つくので思わず文句の一つや二つをそいつに言ってしまうなんて彼女はこぼしていたが、恋愛云々にはどうやっても発展しそうになかったので俺も静観していた。


 亜沙美とはクリスマスの日にキスしたし、彼女の家でご両親が不在の時にエッチなことも済ましてしまった。一時期は二人してそれに嵌まってしまい事あるたびに体を重ねあっていたけれど、今は週に2~3回だから落ち着いたし普通だと思っている。



 高校に入ったら同じクラス。なんて思っていたけれどこれまた漫画のようにはうまくはいかない。残念なことに亜沙美とは別々のクラスになってしまった。しかも教室自体が離れているので休み時間ごとに会うのも時間的に無理なんだ。


 俺は高校でもバレーボールを続けていたので放課後もそんなに暇じゃない。一方の亜沙美は俺に旨い料理を食べさせたいってことで調理部に入部したんだよ。可愛いところあるよな。


 だからデートは最終下校時刻が過ぎてから。バイトも週2でしかも短時間なのであまりお金に余裕がないからデートと言っても公園で駄弁ったり、お互いの家に行ったりするのがほとんど。お出かけは月に1回程度がせいぜい。


 それでも幸せ気分は十分すぎるので俺たちに不満は一つもなかった。


 そういう交際だったからか、周囲には俺たちが付き合っていることは知られていなかった。わざわざ言うことでもないと思っていたので、これといって公表することもなかったしね。





「中條、見てくれよ。ミーが今朝、僕に弁当をくれたんだ」

「へー。で?」


「なんか照れているんだか、『毒見役だから味の感想をしっかりと教えなさいね』なんて言ってさ。もう僕好みにする気満々だと思うんだよなぁ」

「あっそ。そりゃ良かったね(棒)」


 見たら弁当箱がただのタッパーだったのでミーちゃんの言う毒見役と言うのも当たらずとも遠からずって感じではないだろうか。

 おかずの並びを見ても、彩りなどよりも各おかずをパーツごとに並べただけで、しかもご飯は入っていないという徹底ぶりだから俺の想像もあながち間違いじゃない気がする。


「ご飯を入れ忘れるなんて、ミーも相変わらずドジっ娘だよなぁ」

「……へぇ」


 俺は登校がてらコンビニで買ってきたパンに齧りつきながら信人がアホのように喜んでおかずだけの弁当を食いながら一つ一つのおかずにレビューをメモっているのを見ていた。


(そういえば亜沙美も『お料理もう少しで披露できそうだから、こんどお弁当を作るね』なんて言っていたな)


 そうしたらお昼休みぐらいは一緒にご飯を食べて同じ時間を過ごそうなんて話をしている。


「どうだ、レポートはうまく書けそうか?」

「ああ。この玉子焼きはきれいに焼けてはいるけど僕の好みはもう少し甘いやつだね。こっちのほうれん草のおひたしはもう少し味が濃いめじゃないと」


「お前の好みじゃなくて、ミーちゃんは一般的な評価を望んでいるんじゃないのか?」


「そんなことないだろ? それなら僕に弁当を渡す必要なんてないじゃないか?」


 本当にお前のために作ろうとしていたら、評価を頼むんじゃなくて最初からちゃんとした弁当を作って渡すはずだろ、という言葉は(すんで)のところで飲み込むことが出来た。


 一応こんなやつでも大まかには友人だしクラスメイトだからな。変な軋轢をわざわざ生むのもおかしなもんだし。

 信人とはたまたま席が前後というだけなので、俺は昼飯を食べ終わったら早々に部活の昼練に向かう。くだらない彼の話にいつまでも付き合っている必要性は感じないんでね。


 昼練だってたかが30分程度の練習だからなんの意味があるのだろうと思いながら参加しているんだが参加しないと先輩の一部がうるさいこともあって仕方なく出ている。昼休みの少しの間でも亜沙美と一緒にいたほうが絶対に有意義だと思うのだが、ここはもう学校社会のしがらみだと思って諦めているんだ。


 しかし亜沙美が弁当を作ってくれるようになったら昼練もサボることにしようと決めている。それで文句言われるようならいっそのこと部活を辞めるのも致し方なし。別に春高とかインハイを目指しているわけでもないし。




 [今日はコンビニでパンは買わないでね]

 朝飯を食ったあと制服に着替えていると亜沙美からメッセージが入った。

 [もしかして、例のやつが出来たのか?]

 [あたり。お昼休みは楽しみにしていてね♡]

 [OK! 屋上で待っているよ]

 [(≧∇≦)/]



 昼練に出ないってことは部活仲間の疋田に言っておいた。先輩には伝言しておいてくれるらしい。無断でサボるよりはまだマシだと思うんでね。



「中條、どこ行くんだ? 飯は?」

「いや、俺がどこに行こうとお前には関係ないだろ。飯は彼女と食ってくる」


 昼休みに入ったのですぐに屋上に向かおうとしたら信人が飯に誘ってくる。誘ってくると言っても自席でただ飯を食うだけなんだが。


「中條に彼女なんかいたのか!」

「いるさ」


「そんなの聞いていない」

「なんでお前にいちいち言わないといけないんだよ。ンなもん知ったこっちゃない。じゃ、急ぐから」


 まだブツブツと言っている信人のことは放置する。今までも確かに一緒に飯は食っていたが、それは昼練があるから自分の席から場所を移動するのが面倒だっただけ。たまたま目の前の席に信人が居たに過ぎない。


 本当ならば亜沙美と一緒がいいし、最悪クラスのもっと仲の良い友人たちとお昼は共にしたいが如何せん忙しいので偶然、あくまでも偶然、信人と一緒になっただけである。

 俺的に信人がいようといまいと普段の学校生活に大差変わりはない。本人には申し訳ないので言わないけれど。




 屋上に来た。うちの学校の屋上はフェンスで囲まれていて安全なため生徒に開放されている。ただ、日差しを遮る場所が殆ど無いためにお昼ごはんスポットとしては不人気であり俺が屋上に来た際にも誰もいない状況だった。


 数少ない日陰になるベンチを早速確保して亜沙美が来るのを待つ。どんな弁当が食べられるのか朝からワクワクが止まらない。


「大志、ごめん。待った?」

「いや大丈夫。待ちきれなくて俺が早く来ただけだけだから」

「えへへ。喜んでもらえると嬉しいなぁ」

「口が曲がるほど不味くても俺は嬉しいし、完食するつもりだから問題なんて皆無」

「ちゃんと美味しいから大丈夫ですよーだ」


 ちょっと頬を膨らます亜沙美が可愛い。中学の部活を引退した頃から伸ばし始めた髪も背中の真ん中あたりまで伸びてパッと見はお淑やかに見えるので、本当はこんなにも可愛らしい女性だってみんな知らないんだろうなと思うと優越感さえ覚える。


 亜沙美からお弁当を受け取ると早速包みをほどいてみた。

 弁当箱はわざわざ俺のために用意してくれたみたいで新品だ。彼女の負担にならないように後で弁当箱代とせめて食材費くらいは俺が出さないといけないな。


「お弁当箱はわたしからのプレゼントだから余計なこと考えなくていいからね」

「亜沙美は何でもお見通しだな」

「ふふ、だって大志の彼女だもん。そんなことわからないでどうするのよ」

「そっか。だよなぁ」


 他に誰もいないので、いちゃいちゃ仕放題である。


 半分は自分で食べて、半分は亜沙美に食べさせてもらう。反対に俺も亜沙美に食べさせてあげたわけで、この行動は傍から見れば見事なほどの超バカップルだと思われる。当然だが、誰もここにいないからやったのであって、誰かひとりでもいたらこんなことはしないので安心してくれ。


「明日はどうする?」

「もしかして明日も弁当を作ってくれるのか?」

「うん。何かない限り毎日作るよ。自分の分も作るから負担じゃないから大丈夫だからね」

「ならば、せめて材料費くらいは負担させてくれ」

「いいのに。他のもので大志にお金出させているものあるから全然平気だよ。ほんと気にしないでほしい」


 もとよりデート費用などは折半なので、他のものとはあのときに使う薄いアレのことを言っているのだと思うが基本装着するのは俺だし迷う。


「だーめ。そっちは任せているんだから、これはわたしに任せてよ」

「……わかった。ゴチになります」


 よし、明日からは昼練は出ないことが確定した。昼休みは亜沙美といちゃつく時間とする! うるさい先輩は無視するか最悪〆れば大人しくなると思う。おっと、亜沙美のことになると少しばかり野蛮になるのは気をつけよう。



 亜沙美の膝枕でのんびりしていたらあっという間に昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。


「もう午後の授業かよ。午後も頑張らないとな」

「そうだよ。前は大志のほうが勉強できていたのに今はわたしのほうが、成績順位が上に行っちゃってるからね?」

「へーい。勉強も頑張りまーす」

「良い返事なので、ご褒美上げちゃいます。ちゅっ♡」


 もの凄く頑張れる気がしてきた。






 翌週の火曜日。今日は朝から雨だった。昼練はあれからサボっているけれどこれと言って先輩からは何も言われていない。たぶん疋田が上手いこと言ってくれたのだと思う。彼には今度なにか奢っておこう。


「中條!」

「なんだよ、朝からうっせーな」


「ミーが僕から連絡しても返信の一つもないんだよ。どうしてだと思う?」

「……しらねーよ。お前のことウザいだけじゃねーの」


「そんなわけ無いだろ! 中條、言っていいことと悪いことの区別はつけたほうがいいと思うぞ」

「へいへい」


 早く席替えしてくれないか。確か今日の4限目のLHRで席替えするって先生が言っていたような気がするんだよな。ならば後もうしばしの辛抱だ。



 席替えで俺の席は窓際の一番うしろになった。主人公席じゃん、とちょっとだけハイになる。信人の方は廊下側2列目の最前なので遥か彼方といっていい距離になれた。短い付き合いだったがサヨナラだな。


 LHRは各種委員会の報告などを経てそのまま昼休みに突入。今日は雨だから、屋上には行けないので亜沙美が弁当を持って俺のところに来るという。


 とうとう周囲にも俺たちが付き合っているのもバレてしまうのだろう。まあバレてもいいし、なんなら亜沙美のことを思いっきり自慢するまでアリだと思っているので問題など微塵もない。




 亜沙美が教室の前の扉から顔をのぞかせてキョロキョロと俺を探している。

「おーい、こっ——」


 声をかけようとした途端、信人のやつが亜沙美の前に立ちはだかる。

「何してんだ、あいつ」


「ミーちゃん! なんで連絡しているのに返事をくれないんだい? あ、そうか! 急に僕に会いに来て驚かせようとしているんだな? そのお弁当は僕のだろう。さあ一緒に食べよう!」


 信人は亜沙美に対して何か意味わからないことを言っているが、彼女が会いに来たのは俺だし、弁当も俺のものだ。お前なんて全く関係ないのだが?


「おい、信人。なに邪魔してんだよ」

「何が邪魔だ。中條こそ、僕とミーとの間を邪魔しに来たんだろう?」


「ミー? 誰が。まさか亜沙美のことをミーとか言うんじゃないだろうな?」

「何言っているんだ? 宮村亜沙美こそミーちゃんだろうが! 亜沙ミーちゃんだ」


 あらビックリ。こいつの言っていたミーちゃんが亜沙美だったとは。


「なぁ亜沙美。そうなのか?」

「そうだけど、この男にミーちゃん呼ばわりされるのホント嫌なんだよね。というか、なんで大久保がいるの? わたしは大志にしか用事ないんだけど」


「え? ど、どゆこと?」

「ま、そういうことなんだけど。端的に言うと、亜沙美は俺の彼女。お前はなんでもないただの幼馴染ってだけの人。おーけー?」


 口をパクパクしている信人に教えてあげたけど、理解できたのかな。目がくるくるしているし、大丈夫なんだろうか? ああ、そういえばこいつミーちゃんに恋している風だったんだっけな。自分じゃ認めてなかったけど。


「中條、キサマ横取りしたな! 僕がミーちゃんのいいところを紹介したから欲しくなったんだろ!」


「悪いな。亜沙美とは中学の頃から付き合ってんだわ。要するに信人と知り合うずーーーーっと前からってこと」


「え…………そんな……うそ……」


「亜沙美。早くしないと昼休み終わっちまうから早く食おうぜ。今度から俺の席はあっちだから、何かあったらまっすぐ来いよな」


「うん! 今日も美味しく出来たと思うからたくさん食べてね」


 なんだか虚空に視線を向けてなにやら喋っている信人のことは放おっておいて、俺らはさっさとお弁当にありつくとする。



 俺たちが付き合っていることも同時にバラしたせいかクラスのみんなにチラチラ周りに見られているけど気にしないことにする。どうだ? 羨ましいだろう。

 どれだけ亜沙美が可愛くてとても素晴らしい彼女なのか一つ演説でもしていいとは思うが、そこまでやるとさすがにクラスで浮くことになるだろうし、若干一名には致命にもなりかねないので残念だけどやめておく。




 信人とはそれっきり話すこともなくなったが、以前よりもやつはクラスで浮くようになっていた。いや、どちらかと言うと沈んでいるのか?

 そもそもクラスの中では俺以外で信人と話すやつ自体いなかったからな。今回のことで余計に誰とも話さなくなったのは致し方なしってこととなるだろう。



 そもそも幼馴染という関係に胡座をかいて、勝手な思い込みで自分に都合よく行動をしていたのが原因の根本なのだから信人には何も反論する余地なんかありやしない。独りでブツブツ嘆いていればいい。その嘆きだって勝手なもんなんだけどな。


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 主人公にしてみれば親友と彼女が幼馴染、ていうのは少し気に食わない設定なのかな?
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