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竜騎士を目指すと伝えると怒り出した幼馴染が固まったのだが?(下)

「いや~ヴェルの部屋は久しぶりだな」

 ラトムは後ろにいるヴェルサルユスに話しかけるが、彼女に無視されて頭をかく。


 ヴェルサルユスがドアを閉めたのを確認したラトムは

「やっぱり怒っているよね。ごめん」

 と素直に頭を下げる。


 一時無言であったヴェルサルユスであるが、ため息をつくとやっと口を開く。

「何に対して私が怒っているのか解る?」


「ヴェルに何も相談せずに竜騎士候補生の試験を受けた事――かな?」

 ラトムが自信なさげに答えると、ヴェルサルユスはため息もつく。


「まあ……それもあるわ」


「それも?」

 ラトムは首を傾げる。それ以外の事は思い当たらないからだ。


「ラトム、私に隠し事していない?」


「隠し事?いや、ないけど……何故そう思うの?」

 ラトムが戸惑いながら答えるとヴェルサルユスは綺麗な長い金髪を弄りながら

「少し長くなりそうだからソファーに座ってから話さない?」

 と答える。

 そして、ヴェルサルユスは気づいたように

「あっ。喉とか渇きそうならメイドに何か持って来させるけど……」

 と続けた。

 ヴェルサルユスの態度から少し時間がかかると判断したラトムは紅茶をお願いした。




 ヴェルサルユスの部屋には2つのソファーが対面に置かれており、その間には小さい正方形テーブルのテーブルが置かれている。

 テーブルに紅茶が置かれ、ラトムとヴェルサルユスは対面に座った。

「で、何故俺が隠し事していると思ったの?」

 ラトムは両手を組みながら早速尋ねる。


「あなたが兵士になると言った後に私が魔法を教えると言った事あったじゃない?」


「あったね。ヴェルに全く才能がないと言われたけど」

 ラトムが懐かしそうに答える。


「魔術適正以前の問題でオト(保有魔力)が少ないから仕方ないわよ。――まあ、でも軽い肉体強化の仕方は教えたじゃない?」


 ヴェルサルユスの言葉を聞いて

「それはそうだけど……習得には苦労したよ」

 ラトムは苦笑を浮かべながら答える。

 ヴェルサルユスは感覚で魔術を行使する天才肌タイプであったため、人に教えるのは致命的に下手であったのだ。

 まあ、でも無料で教えてくれたのはラトムも感謝していた。普通に学ぼうと思えば軍の一部の学院以外では有料なのだから。まして、1から学ぼうとすればとんでもない費用となる。


 ヴェルサルユスは苦笑を浮かべながら

「それはあなたの才がなかっただけ……」

 と述べた後、真剣な表情となって続けた。

「話がそれたから戻すけど……その時に気づいたのよね」


 ラトムは首を傾げながら

「何を?」

 と答えた。


「あなた、魔術を少し齧っていたでしょう?しかも人間ではなく魔族の魔術系統の物を」

 ヴェルサルユスは黄金色の瞳で見つめながらそう尋ねた。


「何言って……」

 ラトムが戸惑いながらも答えようとするとヴェルサルユスが途中で遮る。

「ラトム知っていた?魔族と人間の魔術系統は違うのよ。人間と魔族はオト(体内魔力)は差はあまりないけど、マナ(対外魔力)を扱える能力には大きな差があるのよ。」

 ヴェルサルユスは若干苦笑を浮かべて「だから」と続ける。

「あなたは魔術を扱えなかった。まあ、オト(体内魔力)も魔術戦を行うなら全く足りていないのだけど」


 ラトムの顔から表情が消える。ヴェルサルユスが何を言いたいのか、だいたい察してきたからだ。


「あの時ラトムが身に着けていた術式は魔族の物だった。なら、1つの推測が成り立つわ」

 ラトムが綺麗な左手を前に出し、人差し指を上げる。

 そして、ヴェルサルユスが口を開こうとした瞬間、ラトムが

「魔族の魔術系統を身に着けていた俺は魔王軍のスパイだと言う事だろう?」

 と言葉を発した。


「ええ。当然その推測が成り立つわよね。軍部が知れば普通に監視するでしょう?」

 ヴェルサルユスと言いながら微笑を浮かべながら

「もっとも私はあなたがスパイである可能性は3割切っていると思っているけど」

 と続ける。


「へっ」

 ラトムが戸惑って意外そうな表情をすると、ヴェルサルユスも簡単に説明する。

「簡単な話よ。連合軍も魔王軍も捕虜で解剖実験等して研究しているわ。当然、私が述べた事は彼らも知っている。なら魔王軍が人間のスパイを育成して、中途半端に魔族の魔術系統を教えて送り込むなんて普通に考えたらあり得ないわよね」


 ラトムはヴェルサルユスの言葉を聞き「成程」と頷く。

 ヴェルサルユスはそれを無視して続ける。


「そうだとしても疑問は残る。何故あなたが魔族の魔術系統を齧っていたのか?――そして、それはあなたが竜騎士を目指した事に関係があるのではないかと推測したのだけどどうかしら?」


「それは……言えない。」

 ラトムが表情を曇らせながら答える。


「そう……私がそんなに信用出来ない?」

 ヴェルサルユスが少し不機嫌そうに言うとラトムは首を横に振る。

「そうじゃない。俺の唯一の親友だから信用しているし、何より信じたい。」

「でも」とラトムは言葉を続ける。

「これは絶対失敗する事は出来ないし……何よりこんな事に親友を付き合わせる訳にはいかない。だから……」

 ラトムが申し訳なさそうに

「ごめん。何言っているか訳解らないよな」

 と続けるとヴェルサルユスは優しく答える。


「何となく言いたい事は解ったわ。まあ、確かにあなたが私の事を完全に信用出来ないと言うのも解らなくはないしね……」

 ヴェルサルユスは一息ついて続ける。

「でも何だかんだで甘いわね。こんな事で言うぐらいだから世間的に見れば悪い事なのでしょう。私を利用しようと思わないの?」


 ヴェルサルユスの問いにラトムは苦笑を浮かべて続ける。

「ヴェルを騙すのは難しいし。それに……」


「それに?」

 ヴェルサルユスが尋ねるとラトムは少し恥ずかしそうに

「他人を利用するのはともかく初めて出来た親友を利用するなんてできないかな」

 と答える。


 その答えを聞いたヴェルサルユスは柔らかな笑みを浮かべて

「そう。まあ、ラトムがそう言うなら私は一時見守るだけよ」

 と言う。


「あ。ヴェルから見れば俺はとても怪しいんだけど、それでも軍にはこの事を報告しないでくれると助かるな……なんて甘いかな?」

 ラトムが申し訳なさそうに言うとヴェルサルユスは微笑を浮かべて

「大丈夫よ。私はあなたを信用しているもの」

 と答える。

 もっとも、ラトムが魔王軍のスパイだとしても、例え連合に害をなすつもりでもヴェルサルユスはそれを軍に報告するつもりはなかった。

 何故ならば、彼女にとって連合なんかより彼の方がはるかに大切であったから。




 日は流れ翌月

 結局、評議会と駐留軍の慰留をなんとか断り、お見送りに来てくれたはずのヴェルサルユスも旅に出る服装をしていた

「何?」


「私も行こうかなと思って」

 

「いやいや。リュベルの安全は?」

 ラトムが突っ込むと、ヴェルサルユスは小悪魔のような笑みを浮かべる。

「竜騎士を派遣してくれるそうよ。まあ、私が騎竜になった方が都合が良いと連合軍上層部も思ったのでしょう」


「さようですか」

 ヴェルサルユスが押しきったのだろうと予想は出来るが、まあラトムは口には出さなかった。

「しかし、ヴェルサルユスが騎竜になりたいなんて何があったんだよ。明日雨降るんじゃない?」

 ラトムは苦笑を浮かべながら尋ねると、ヴェルサルユスは信じられないと言った表情になった。

「気付きなさいよ、バカ!」

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アルファポリス様でも先行公開中

https://www.alphapolis.co.jp/novel/839347574/216934439

 

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