竜騎士を目指すと伝えると怒り出した幼馴染が固まったのだが?(中)
ヴェルサルユスがどうやってラトムと関係を築いたのか……それは5年ほど前、戦場での戦いに飽き始めていた彼女が下流階級の者達が住む住宅街に赴いた事がきっかけだった。
好奇心で周辺をうろついていたヴェルサルユスは汚らしい住まいや身なりの者達が多かった為、さっさとその場を立ち去ろうとしていた。
どこか冷めた様子で彼らを見ていたヴェルサルユスは貧富の格差を幼い頃から理解していた為、自分とは違う世界の者達だと気にも止めていなかったのだ。
こんな汚らしい連中からはさっさと離れよう
ヴェルサルユスはそう思い自分が暮らす高級住宅街の有る方向へ向かおうとする途中、妙な光景を見たのだ。
大の男が悔しそうに少年の前で頭を掻き毟っているのだ。何をしてるのかと覗いてみるとチェスで賭け事をしているようだった。
娯楽としてレーベル山脈にいた頃チェスをしていた彼女はそこでも負け無しのプレイヤーであり、盤上の様子を見るに少年の圧勝である事が一目で分かった。
ふと横に置いてある缶を見るとかなりの銀貨が入っており相当の金額を稼いでいるようだった。興味を持ってもっと近づいてみると少年が話しかけてきた。
「興味有るの?でも頭を使うゲームだから君じゃ無理だよ」
ふと少年は自分にそんなセリフを吐いてきたのである。
竜族の中でもエリートとして生きてきた少女にとって下等な人間にコケにされたのは我慢ならなかったのである。
「なら勝負しましょ。負けたらそこのお金全部貰うわよ」
馬鹿な人間に身の程を弁えさせてやろうと少年との対局を始めるが、彼女は勝利を確信していたのだった。
賭けチェスなので対価を持っていなかったヴェルサルユスはもし負ければ全裸になって着てる衣服を全部差し出してやると豪語していた。
しかし、いざ対局して見ると少年の圧倒的な実力を前に全く勝ち目が無い彼女はあっさりと敗北寸前まで追い込まれてしまったのである。
衣服を全部差し出すとまで豪語してしまったヴェルサルユスは己の浅慮に後悔したが人間に負けを認めるしかない屈辱は初めての挫折だったのだ。
屑辱と後悔で頭の中が真っ白になりながらも服を脱いで差し出そうとする彼女だったが、あと少しという所で少年が手を滑らせて盤の駒がバラバラになってしまった。
「しまった。手が滑っちまったわ。この勝負は次に持ち越そう」
そう言うと少年はそそくさと道具を持ち退散してしまった。
とりあえず助かったと安堵の表情を浮かべたヴェルサルユスは何とか家に帰ってからリベンジマッチを決意するのだった。
翌日から同じ条件で勝負しろと毎日のように少年に賭けチェスを挑むものの全て敗北してしまうのだ。
もっとも正確に言うならばヴェルサルユスが負けそうになると何だかんだと理由を付けて勝負が中断されてしまう日々が続き、遂に彼女は少年から情けをかけられている事に気がつき顔を真っ赤にして怒るのだった。
敗北ならば潔く受け入れる覚悟を持っているもののお情けでチャラにされてしまうのは同年代に負けた事の無い彼女には屈辱意外の何物でもなかった。
烈火の如く少年に怒りをぶつける彼女は理由を問い質すと
「母さんに女の子には優しくしろと教わっただけだよ」
懐かしそうに、そしてどこか悲しそうな表情で答えたのだった表情で答えたのだった。
この時初めてヴェルサルユスは自分が女として扱われた事に気づいたのだ。
多くの人間達や両親を含めた同族らから自分の事を裏で化物と言っているのはヴェルサルユスも知っていたが、女の子として扱われた事はなかったのである。
それに気づいた瞬間、先ほどまでの怒りが消え去り、恥ずかしさのみが込み上げてきた。
これを機にヴェルサルユスとラトムの交友関係が始まったのだ。
ちなみに彼女は現在に至るまであらゆるゲームでラトムに勝利した事が無い。自身より優れた者など同年代どころか年上にも殆ど居なかった彼女にとってラトムの存在は新鮮だったのだ。
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