剣術の稽古
カキーン……キンッ、キンッ、キンッ……カッキーン!!!!!!!!
放課後、俺と璃乃は学校からほど近い海岸の砂浜の上で弁慶の出してくれた霊刀で剣術の稽古をしていた。
辺りには俺の霊刀と璃乃の霊刀が激しくぶつかり合う音が、とめどなく鳴り響いている。
ちなみに悪霊は真っ二つに切れる真剣の霊刀とは言っても人間の体が切れることはない。
だが霊刀が体に当たればそれなりに痛みはある。
スッ……
璃乃が霊刀を上段に構え直した。
その瞬間、俺は璃乃の脇腹に開いた隙を見逃さなかった。
俺は踏み込んだ……
「あっ!」
俺の剣先を無理やり避けた璃乃はそう叫び後ろへ仰け反り倒れそうになった。
俺はその瞬間、咄嗟に自分の霊刀を投げ捨て、後ろへ倒れる璃乃に抱きつき右手を璃乃の腰の下へあてがったまま、左手で璃乃の頭の後ろを支え、璃乃が頭を地面に打ち付けないようにした。
ザザーッ……
俺は左手に鋭い痛みが走ったが気にせず璃乃に話しかけた。
「璃乃、大丈夫か?」
「ええ、ありがとう瑠鬼、瑠鬼こそ大丈夫?」
「ああ、俺は大丈夫……」
そう言って璃乃の目を見た瞬間、俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。
なぜなら俺を心配そうに見つめる璃乃の表情がなんとも美しく、その普段見せないような表情の中に、なにか、艶めかしいものを感じたからだ。
しかも俺は璃乃の体の上に覆いかぶさり密着している……
突然、璃乃は両手を俺の背中にまわしてきた。
俺は一瞬驚き璃乃を見つめると、璃乃も見つめ返してきた。
俺は抱き合いながら璃乃を見つめているうちに情欲をそそられ思わず、その恥ずかしさを悟られないように視線を外した。
だが璃乃の柔らかそうな唇を見ると、俺は再び自らの体の中に芽生えた激しい渇きを感じ戸惑いを覚えたのだった。
璃乃は俺の視線の先が自分の唇であることで全てを悟ったようだった。
「瑠鬼……いいよ……」
絞り出すような、でもどこか甘い声でそう言った璃乃を俺は愛おしく感じた。
「璃乃……」
俺は溢れ出る自らの想いと衝動を抑えきれず、頭の中のスポットにいる野獣が、紳士を押しのけ雄叫びをあげるのを聞いた。
見るからに柔らかそうで魅惑的なその璃乃の唇に、もし自分の唇が触れたとしたら……
俺は、その璃乃の甘美な唇によって、一瞬で璃乃に溺れ自らが璃乃の虜になるであろうことを予感した。
だがもはや、誘惑に駆られた俺はその璃乃の一挙手一投足に心と体が震え、目の前の璃乃を激しく求めていたのだった。
俺は自らの欲望の赴くまま璃乃に顔を近づけると、璃乃の虜になるべく自らの唇を璃乃の唇に押し当てようとした。
だが、俺の唇が璃乃の唇まであと2cmまで迫った次の瞬間、背後から清盛の声がした。
「瑠鬼、大丈夫か? 血がでているようだが」
その瞬間、俺の中の野獣は子犬となった……
俺は璃乃を抱いたまま起き上がると自分の左手の甲を見て言った。
「えっ、あっ、ほんとだ、血が出てる……」
俺の左手の甲は擦りむいて血が出ていた。
璃乃は優しく俺の左手を取り、俺の左手の甲に付いた砂を払うと言った。
「ごめんね、私のせいで……」
「なんで、璃乃が謝るんだよ、俺が璃乃を守りたいって思った瞬間、咄嗟に俺の手が動いたんだから璃乃は全然悪くないよ、それに大好きな璃乃にケガがなくてほんとに良かった」
「瑠鬼、優しいのね……私も瑠鬼が大好き……」
璃乃はそう言うと俺の頬にキスをしてくれた。
俺は急に照れくさくなって微笑むと璃乃もそれに応えるように微笑み返してきた。
突然、璃乃の 背後から弁慶の声が聞こえてきた。
「璃乃姫様、そのように瑠鬼殿と長いこと戯れ合っておられるようですが、剣術の稽古はどうされるのですか?」
璃乃はその声を聞いたあと俺から視線を外し、ため息混じりに言った。
「剣術の稽古は、もういいわ……弁慶……清盛もありがとう」
するとそれを聞いた弁慶が嬉しそうに言った。
「はっ! またいつでも剣術の稽古にはお付き合いいたしますぞ! ですが、さすが源氏の子孫であらせられる璃乃姫様! あっという間に剣の腕が上達なされましたな! あっ、平氏の子孫の瑠鬼殿も、それなりに……」
「なんだよ、それなりにって……結構、璃乃と互角に渡り合ってたと思うけどな……」
「まあまあ、瑠鬼、怒らないで、私と一緒にもっと上達すればいいわ……それより瑠鬼、明日の卒業旅行の準備は出来てるの?」
「えっ? あっ、うん、出来てる出来てる、準備っていっても学校の制服で行くんだし、日帰りだしね……」
◇◇◇◇
そして次の日の朝、つまり卒業旅行当日の朝、俺と璃乃が待ち合わせ場所である大台場海岸公園へ行くと、そこには、俺と璃乃の仲の良いクラスメイトである男女8人の友達が制服姿で待っていたのであった……。




