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転校生

「ねぇ、瑠鬼、今朝のことなんだけど……」


俺と璃乃は、学校の帰り道、ファストフードでハンバーガーとジュースをテイクアウトし誰もいない公園のベンチに2人で座って食べていると突然璃乃が話しかけてきた。


「えっ、何?」


俺は返事をし璃乃の方を向いた。


「瑠鬼、今朝さや夏先輩が、瑠鬼の胸に飛び込もうかなって言った時、喜んだでしょ」


「喜んでねーよ!」


「本当かしら……でね、あのね、ちょっと、あれを今、もう一度ここでやってみてくれる?」


「あれってなんだよ」


「さあ、ってやつ」


「さあ、ってやつって?」


「えっ、分からないの? 今朝、こっちこいよ、さあって私に向かって両手を広げたでしょ」


「ああ、そうだけど、あの時、璃乃は嫌がったじゃん……」


「そ、それは、あの時は先輩たちの前だったから……それで、今ここでなら抱きついてあげてもいいかなって思って」


「えっ!!!! ほんとに?」


「ええ……」


そう返事をした璃乃のちょっと照れたような表情が、俺には、たまらなかった。

俺を上目遣いで見ながらも俺が真っ直ぐに見つめると何度も視線が下がった。

その璃乃の仕草に俺は一瞬で惹き込まれたのだった。


ミス晴明高校である璃乃はとにかく美しいのだ。その上、高校生ながら、早くも上品な色気を醸し出している。しかもおどけた時などに見せる可愛い表情。そして、しなやかで美しいスタイル。さらに学年トップの頭の良さ。優しく思いやりのある性格。まさに俺にとって璃乃は完璧な彼女であった。


俺は内心ドキドキしながらも、その緊張を璃乃に悟られないようにしてベンチから立ち上がると言った。


「じゃあ、璃乃も立って」


璃乃は俺の言葉に黙ってうなづくとゆっくりとベンチから立ち上がった。


「じゃあ、璃乃、いくよ、いい?」


「ええ、瑠鬼、いいわよ」


その言葉を聞いた俺は一度意識して息を吐くと、嬉しさをこらえながら両手を広げ璃乃に言った。


「璃乃……好きだ!!!!!!!!」


(あっ、こっちこいよ、さあって言うつもりが思わず好きって言っちゃた……どうしよう)


「えっ? う、うん……私も瑠鬼が好き」


そう言って璃乃は俺の胸に飛び込んできた。俺は璃乃を体全体で受け止めるとギューっと力強く抱きしめた。


(ああ、璃乃、いい匂い……そして柔らかい……幸せだ……)




璃乃と抱き合っていると突然、俺たちの頭上から声がした。


「あのー、抱き合ってるとこ悪いんやけど、ちょっと聞きたいことがあるねん」


誰もいないと思っていた俺と璃乃は、その声に驚いて、ほぼ同時に声のした方を向いた。


「えっ?」


俺は驚いた。なぜなら、そこにあるジャングルジムの上に腕組みをしながら微動だにせず立っている晴明高校の制服姿の女性がいたからだ。

しかも背中には大剣を背負っている。


そしてその女性と目が合った次の瞬間、突然その女性はジャングルジムの上から飛び降りたのだ。


「トォーッ!!!!!!!!」


声を上げながら飛び降りたその女性は一回転して地面に着地した。


「す、すごい……」


俺と璃乃が驚いていると、その女性は言った。


「ちょっと聞いてみるんやけど、あんたら晴明高校の生徒さんよね? うち晴明大学まで行きたいんやけど晴明大学の場所教えてくれへん?」


「えっ、ああ、いいけど……あの、その大剣って……」


璃乃もその大剣が気になったらしく、俺の言葉にかぶせるように言った。


「それ霊剣でしょ」


するとその女性は心底驚いた様子で言った。


「えっ!!!! あんたら、この霊剣が見えるん? それなら、ただもんやあらへんね……もしかして晴明大学の藤原さや夏さんの関係者?」


「えっ、藤原先輩のこと知ってるの? たしかに俺たちは藤原先輩の関係者っていうか、巻き込まれたっていうか……」


「ふーん、まあ、ええわ。なら、いずれまた会うんちゃうかな。ああ、忘れとったわ。うちは今度大阪の高校から晴明高校へ転校してきた九条宙晴くじょうそらはっちゅうもんやねん、よろしく。まあ、転校っちゅうても、すぐ卒業するんやけど」


「そうなんだ、じゃあ俺たちと同じ3年生ってわけだ。俺は晴明高校3年の平瑠鬼、よろしく! でもなんでわざわざ首都の大阪から東京へ?」


「瑠鬼、宙晴そらはさんに初対面で失礼よ! ごめんなさいね、これ、私の彼氏なの、私は源璃乃よ、よろしく」


「ああ、そうだな、ごめん、宙晴そらはさん」


「瑠鬼君、まあ、ええがな、ええがな! 瑠鬼君に璃乃さんか……いやー、それにしても美男美女のお似合いのカップルで、ええがな、ええがな! ところで藤原先輩の関係者で晴明高校ならおそらく進学してタイムトラベル研究会に入るんやろ?」


「なんでそれを?」


「まあ、ええがな、ええがな……それなら、おいおい、うちのことも、分かるやろ……」




俺と璃乃が宙晴に晴明大学の場所を教えると宙晴は礼を言って行ってしまった。


宙晴を見送りながら璃乃が俺に言った。


「瑠鬼、宙晴さんって一体何者かしら? あの身体能力とあの霊剣……」


「そうだな、何者だろう……今度藤原先輩に会った時に聞いてみるかな」


「はっ? なんで藤原先輩? 瑠鬼、藤原先輩に会えることで、また喜んでるでしょ!」


「えっ? だから喜んでないって! 俺が好きなのは璃乃だけなんだって!!!!!!!!」


「瑠鬼、そんなに興奮しなくても分かってるわよ……まあ、冗談はさておき、あれいいわね」


「はっ? 冗談かよ! それであれって何だよ」


「あの霊剣の大剣よ。今度私も弁慶に頼んで霊刀みたいなの出してもらおうかな……」


「霊刀ね……」


そう言いながら俺は想像した。


(ん? 璃乃が制服で刀か……絶対いいじゃん! かっこいいじゃん! やばっ……興奮してきた……)


俺は興奮を鎮めるためにベンチに座ると残っていたジュースを一気に飲み干したのだった……。

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