2人の高校生
街中から海岸線に出た次の瞬間、俺たちは一瞬にして潮風に包まれた。
(なんて心地いいんだろう……)
◇
俺たちは西暦2124年2月のある日の早朝……。ああ、俺たちとは、東京の晴明高校を卒業間近の俺、平瑠鬼とクラスメイトの源璃乃のことだ。
その俺たちは今、反重力自転車に2人乗りをして海沿いにある学校に向かっていた。
えっ? 反重力自転車とは何だって?
ああ、それも言い忘れていたが、今から90年前の西暦2034年に常温での反重力装置が開発され、その後この地上から浮いている反重力自転車が出来たってわけ。
この反重力自転車は、浮き浮き気分で浮っき浮き~! のコマーシャルのフレーズ通り、乗り心地は最高でさ……ん? おっと、話を元に戻さないと。
俺は潮風に包まれながら前方の煌めく海に浮かんでいる点々と連なる島々の雄大な景色から、眩しく暖かいポカポカとした陽の光が照る大空へと目を向けた。
大空には1隻の巨大な宇宙船が存在感を示していた……
今から25年前の2099年、突然その宇宙船は現れた。
最初は恐れおののいていた国民も、宇宙船から出てきた宇宙人が人類と変わらない姿であり、また礼儀正しく敵では無いことが分かると国民も宇宙人たちを歓迎したのだった。
そして何よりその宇宙人たちが国民に受け入れられた理由は、当時、度重なる環境汚染と温暖化により地球上の氷が全て溶け始めており、あと数年で70m近く海水面が上昇し、東京、神奈川、埼玉、千葉が高層ビルなどを残し全て水没することが分かっていたのだが、宇宙人のおかげで解決したことにあった。
それは、宇宙人の持つ科学技術力で東京、神奈川、埼玉、千葉の各県ごとに県全体を金魚鉢のような耐水耐圧の地球外物質で作られた透明なものに丸ごと入れてしまう計画だった。
金魚鉢の壁は、地面からの高さにして、およそ200mという説明だった。
そして数年後、宇宙人たちは見事にそれをやり遂げた。
ただその代償は大きく県から県外へ移動するには1本の地下トンネルしか使用出来なくなったため、物資の輸送が滞り、ほとんど県内での自給自足で生活しなければならなくなった。
それにより首都は東京から大阪へと代わり関東平野の各県は日本政府の手を離れ特別自治県として、孤立してしまったのだった。
◇
「ねぇ……ねぇ、ってば瑠鬼!」
突然後ろから璃乃の声がした。
源璃乃……俺のクラスメイトでありミス晴明高校の璃乃のことは前から気になってはいたが俺は中々声がかけられなかった。
だが、ある日、ひょんなことから璃乃も俺と同じように霊が見え、しかも霊とコミュニケーションがとれる能力を持っていることが分かり、意気投合した。
俺はその勢いのまま告白したところ、璃乃も俺のことが気になっていたらしく即承諾つきあうこととなったのだ。
但し、璃乃が俺のことが気になっていたというのは、後から聞いた話では俺が平氏の末裔だからだそうだ。
(そりゃそうだよな、まあ、そうかもな……でも! でもさ、俺だってイケメンの部類に入るしさ、性格だって、こう、なんて言うか……ん? また話が脱線した、まあ、とにかく璃乃も源氏の末裔だから照れてそう言ったのかもね)
「ねぇ! ちょっと瑠鬼! 聞いてる?」
後ろから、また璃乃の声がした。
今度は少し苛立っているようだ。
俺はバックミラーにうつる美しい璃乃の顔を見ながら思った。
(……ったく、何だよ、人が感傷に浸ってんのに)
俺は反重力自転車をその場に止め振り向くと気持ちとは裏腹に猫なで声で言った。
「なあに? 璃乃ちゃん」
「何よ、気持ち悪いわね! ちゃん付けなんかして……すぐに返事しなさいよ! またエロいことでも考えてたんでしょ!」
「は? なんだよ、またって! 俺がいつエロいこと考えたって言うんだよ! そんなの璃乃に分からないだろ!」
「分かるわよ! 瑠鬼ってすぐ顔に出るから!」
「そ、そんなことないだろ! 璃乃のこと考えちゃいけないのかよ!」
「えっ? 私にエロいことしようと考えてたんだ……」
「だ、だって俺たちキスだってまだ……」
その途端、突然俺の言葉を遮るかのように璃乃の背後から巨大な薙刀を持った大男が飛び出してきたのであった……。