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第9話 主人公たらしめるもの

こんばんは。第9話です。今回はルガーノが少し弱音を吐きます。

 無属性魔法を使いたくない私は、家系魔法を習得しようと躍起になっていた。ルガーノさんは教えてくれないので、自分の力で探すしかない。本を端から端まで読もうとしたらさすがにルガーノさんに止められた。


「家系魔法は家族から教えてもらうものなんだよ。君の世界じゃ魔法はないみたいだから、自力で作るという方法もあるよ。」


「魔法を、作る、ですか?」


 ルガーノさんは頷いた後、本棚から皮の本を持ってきてくれた。魔法陣を作り変えて、基礎から応用する方法。全く新しい魔法陣を作り出す方法が記述されている。後者は非常にリスクが高く、危険度が高くなる。さらに何度も、四か条に基づき、作ることと書かれていた。今の私がやるのであれば、魔法陣を作り変えることくらいだろうか。


「アガサさん、早速作ってみようよ。」


「え、でも本には危険度が高いって……」


「何事もやってみなくちゃわからないよ。さ、広場に行こう!」


 ルガーノさんに肩を掴まれて、そのまま広場に連れて行かれてしまった。魔法陣を作ると言っても何を作れば良いのか。


「一度作ることができれば回路ができて、いつでも無詠唱で使うことが可能になる。これが自作魔法陣の強さでもある。回路をもっと効率化したければ魔法陣を作り変えて、魔力の循環を良くすればいい。まずは多少効率が悪くても、独自の魔法陣を作ってみるといいよ。魔法陣にも色々あって、簡単なものは他者に干渉されやすいから壊れやすい。逆に難解なものは干渉されにくいし、強力なものになる。代わりに魔力制御が難しくなるし、失敗もしやすい。」


「……一気に言われると混乱します。ん?無詠唱で使えるのは自作魔法陣だけなんですか?」


「あぁ、自作魔法陣の強みは、まさに無詠唱にある。詠唱は時間がかかるからね。」


 ということは。ルガーノさんが以前使っていた瞳を変える魔法は家系魔法ではないということになる。ルガーノさんは秘密が多い男だ。

 しかし、私がやろうとしている事は法に触れるのでは?革の本だったのも、昔は許されていたけど今は使ってはいけないからではないだろうか。まあ、面白そうだからやるだけやってみよう。

 魔法陣と言えば丸いイメージだが、干渉されない為に星型にした。真ん中に目を描いて、瞳に血をたらした。すると常軌を逸した赤黒い光が放たれた。それ以外は何も起こらない。


「見事な失敗だね。最初はそんなものだよ。」


「……何か起きそうではありましたけど、何も起こらなくて良かったかもしれません。嫌な予感がしたので。」


「他を試してみよう。君が描きたいものを描くとかどうかな?」


「そんな、絵を描く感じでいいんですか?」


「大丈夫だよ。多分ね。」


 全然駄目な気がするが、死ななければいいか。私はエメラルドカットを線で描いてみた。一番好きな宝石のカット方法だから、私を護ってくれるような気がするから。


“エメラルド、それは幸福と希望。私の行く末に幸あれ”


 魔法陣がエメラルドグリーンに輝き、私を包む。柔らかく暖かい光、体が軽くなった。これは成功したのだろうか。ルガーノさんを見ると感心したようにウンウンと頷いていた。


「成功、だね。これは、加護の魔法陣に似ているが少し違う。半永久的に続く、祈りのような魔法だ。まるで聖者のようだね。」


「聖者は、言い過ぎだと思いますけど、確かにこの魔法を使ったら体が軽くなりました。身体能力の向上も効果にあるかもしれません。」


「すごいな……時代が時代なら君は聖者として祀られていただろうね。」


 祀られるのはごめんだ。しかし、バフがかけられる魔法が無詠唱で使えたら、この世界を生き残りやすいかもしれない。無の神が何をしてくるかわからない限り、防御を固めるのは良い選択と推察する。攻めの魔法陣も作りたいが、気力が上がらない。これは魔力が減った感覚というやつなのだろう。また休んだら次の魔法陣を考えてみよう。今度は何が良いだろうか。トリリアントカットなんて強そうだ。


「……無の神が、君を主人公にした理由が少しわかる気がするよ。」


「え…?」


「君は、変化に柔軟で、新しい事に物怖じしない。知らない事は必死で習得しようとするし、興味の無いものにも手を伸ばす。突拍子もない考えが浮かび、それを実行に移す。主人公の、動きだ。僕とは全然違う。」


 ルガーノさんが困ったように微笑む。私とルガーノさんが違うのは当たり前だし、私は生き残り、無の神の思い通りにならない為に動いただけだ。それが主人公だと言うのなら、そうかもしれない。でも、変えたいと思ったら、調べて、考えて、実行するしかない。それは当たり前のことじゃないのか。


「私は、主人公にはなりたくありません。変えたいと思って動いたことはありますが、乗り越えるための努力なんてしたことがないです。いつも逃げてばかり、それが私ですよ。」


「それが、変えたいと動ける力が凄いんだよ。それは主人公たらしめるものになってしまう。」


「だって、乗り越えられないなら変えるしかないじゃないですか。壁があるのがおかしいですから。壊すか変えるしかないですよ。」


「僕は、それができなかった。家族と和解できなかった。逃げて、末の弟に押し付けてしまったんだ。」


 これはエドガー・ターコイズの事を言っているのだろう。和解できなかったのは長男だ。ルガーノさんは俯き、何も言わなくなってしまった。


「……私は、誰かの期待も背負いたくないし、困難なんて無いに越したことないです。逃げられるなら逃げたいし、隠れていいなら隠れたいです。それは当たり前だと思います。家族間で何があったかは聞きません。ただ、家族でも決して全てを理解し合う事などできるはずありません。だって他人で、別の個体なんですから。」


「そう、なのかな……」


 私たちの間には、ただ沈黙が残り、夕日は静かに夜空に消えていった。

ルガーノは家督争いの中で長男に毒を盛られたことがあり、それがきっかけで出ていくことを決意しました。

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