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第7話 存在しない世界

こんにちは。第7話となります。急展開が起こります。そもそも、この世界がなぜあるのか。

 無属性の魔法は使わない方針だが、身を守るものが無いというのは心許なく、家系魔法とやらを習得することを考えていた。瞳の色を変える魔法の他には何があるのだろうと、魔法基礎の本を手に取った。属性の話が主だったが、実践するように書かれているものもあった。しかし私の属性は持つ者が少ない為か、全く載っていない。家系魔法についても少しばかりしか書かれていなかった。家系魔法とは、一子相伝の魔法であり、その魔法は近年でも明かされていない事が多い、とのことだった。他の魔法についても勉強すれば、何か掴めるかもしれない。まずは自身の属性魔法について調べるのが良いだろう。それとなく、呪文を考え、本を置いた。


「“無よ、水を有せ”」


 驚くことに水球を作ることができた。水の球が確かに浮かんでいる。しかし、しばらくすると石の時のように消えてしまった。


「“無よ、火球を有せ”」


 今度は火の球が浮かんでいる。なるほど、無属性魔法は他の属性を模倣できるようだ。無と有のワードを入れていれば、どんな属性も使うことが可能かもしれない。もちろん、消えてしまうという制限付きだが、それでも余りある強さだ。もしかすると、闇が生まれる前は無なのだから、無の神もいるかもしれない。


『………やっと、私に、気付いて、くれたのね。』


 目の前には何も無いはずなのに、何か気配を感じる。男性のような女性のような、子どものような老人のような声。気持ちが悪いのに、どこか恍惚ささえ感じてくる。気を強く持たねば、引っ張られてしまいそうだった。


「貴方は、無の、神?」


『そう。闇を、光を生んだ偉大なる神。魔法なんてなかった世界に、彩りを、加えた。貴方はアガサ。ただの、アガサ。何者でも、なかった、ただの、アガサ。しかし、もう、普通には居られない。』


「どういう、意味?」


『貴方は主人公。全てを無にされた、この世界の希望。私の、力なら、きっと、うまくいく。アビゲイルは、失敗。ペトラも、失敗。クラリスは、宙ぶらりん。貴方が、最後よ。』


 アビゲイルが失敗というのは、もしやクラリスを産まなかったからだろうか。緑色の瞳を持った女の子、それを探しているのは産まなかった、もしくは産めなかったから。それなら言っていることがわかってくる。ペトラはそもそも、クラリスがいない状態では活躍できない。最初から失敗していたのだろうか。クラリスが宙ぶらりん、おそらく鏡でしか話せないからだろう。

 なんて身勝手な神だろうか。アビゲイルが産まない選択を取ることだってあり得るし、それの何が悪い。ペトラが静かに生きていく選択を取ることの何が悪いのか。大体、クラリスを閉じ込めているのはお前じゃないのか。怒りさえ湧いてくる。世界を無にしたのは紛れも無い、お前だ。


『怒るの?なんで?なんで?貴方は、主人公。クラリスの、代わり。美しい、物語を、作るのよ。素敵な話を、頂戴。面白い話を、頂戴。悲しい話を、頂戴。』


「誰がお前の言うことなんぞ聞くか。お前の魔法なんていらない。私は元の場所に帰る。」


『可愛い子、可哀想な子。主人公は、素敵、何が起きても、大丈夫だから。………幸せに、ね』


 目の前の威圧感が消える。全身をじっとりと汗が包む。ルガーノさんがいなくてよかった。こんな姿を見せれば心配させることになる。なんでこんなにも虚しいのか。ああ、家に帰りたい。寂しい、寂しいよ。


「あはは、初めてこの世界で泣いたな。」


 頬が濡れて、手が濡れる。どんどん溢れてくる。帰りたい、ずっと心では思っていた。寂しい、これも思っていたことだった。異界の地で、私は主人公にされてしまった。元の世界の家族も、ぬくもりも、優しさも、キャリアも、全部あの神に持っていかれた。私は主人公じゃなくてよかったのに。自分が、意味があると思うことを、あの世界でしたかった。


「………希望は、ある。私ならきっとやれる。してやられたままなんて、絶対に嫌だ。」


 戻るのは、ペトラの件がある、身代わりがまた増えるだけだ。きっとペトラも帰ることはできなかっただろう。この世界の法則で何かをすれば、あの神が修正するだろうから。何か抜けはあるはずだ。クラリスがあんなにも意思を持っていたのだから。操られた状態では、強い瞳で私を見つめることはないはずだから。

 この世界のことを学ばなくては、壊すことはできない。何か打開策はある。変わってしまった世界を、ぶち壊す何かが。小説にも、あの神にもない何かがきっとある。誰が世界の為に、犠牲になってやるものか。

 こんな風に衝突するのも、あの神の思う壺なのだろうか。いや、私が怒ったことに驚いていたアイツが、こんなことを私に“思わせる”はずがない。アイツは、怒りというものを知らない。これは爆発的なエネルギーを生む。よくも小説を壊しやがって。よくも私の人生をめちゃくちゃにしやがって。そうだ、ルガーノさんにも相談しよう。この世界を変える力が、“生きている”私達にあることを思い知らせてやるんだ。

綿貫 アガサ。160cm、血液型B、誕生日は3/19。新卒で入った会社がブラック企業で、体と精神を病み、医師の力を借りて何とか退職する。仕事を探すも上手くいかず、実家に戻る。

読書が好きで、近代の作家から現代、児童文学も読んでいる。SFが好きで、そういった小説を積読している。

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