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第5話 市場へようこそ!

こんばんは。第5話です。ボルトフの市場で一悶着あります。

 朝食を終えて、私は手持ち無沙汰になってしまった。掃除は魔法具で簡単に終わってしまうし、ルガーノさんには、家事はしなくていいと言われてしまった。居候の私は何かしなければ追い出されそうで、ただ椅子に座ってソワソワと腕を組んだり、足を組み直したりしていた。それに気づいたルガーノさんは読書をやめた。


「そんなに気になるならボルトフを紹介しよう。君もしばらくはここにいるのだから、知っておいた方がいい。」


「良いんですか?ありがとうございます!」


 私の返事を聞くとコートを羽織り、私にコートを着せてくれた。思ったが、ひょっとして私は子供だと思われているのではないだろうか。まあ、何も知らないので子供扱いの方がありがたくはある。


「僕は車がないから徒歩で案内するけど、いいかな?」


「大丈夫です。足腰には自信がありますから。」


「なら良かった。じゃあ行こうか。」


 やはりあらためて見ると、このスチームパンクな町並みはすごい。語彙力が何処かに行ってしまう。どれも少し前まで煙を出し、金具はピストンをして動力を作り出し、様々な機械達が各々の仕事に就いていたのだろう。炭鉱だったそうなので、炭鉱夫のような機械がいたのかもしれない。今はイーサンが機械達を回収しているが。また使えたりしないのだろうか。


「そんなにこの機械が気になるのかい?旧時代的でスマートではないと思うけど。」


「確かにスマートではないですけど……ロマンがありませんか?」


「君、オジサンみたいな事を言うね。」


 失礼な。皆好きだろうこういった機械は。コードがいっぱい繋がれた機械や石炭で動く汽車、魔法よりも私には魅力がある。


「ほら、そんな顔しないで。市場に行こう。」


 市場!いろんなスパイスや野菜があるかもしれない。ここではおなじみの食材達がどんな不名誉な名前が付けられているか見てみたい。

 市場に着くとルガーノさんは町娘たちに囲まれ、私は弾き出されてしまった。とても無愛想なルガーノさんが見える、が、今は市場探索だ。早速野菜コーナーを見ると先程会ったハンナが店番をしていた。


「あら!さっきぶりね!買い出し?」


「まぁ、そんなところです。あの……このブツブツした野菜は何でしょうか?」


「それはうちの畑で採れたキュウリよ!何故か家で育てるとそんな姿になってしまうのよね〜。味は良いわよ!」


「……面白いので一つください。いくらでしょうか?」


「毎度あり!一つ百リッチよ。あ、でもお金あるの?突然ここに来たって聞いたわよ?」


 保険証の時のように財布を確認してみる。見たことない紙幣と硬貨が入っている。この銀貨が……百リッチだろうか。


「これでいけますか?」


「大丈夫よ!良かった、ある程度は持ってるみたいね。記憶も曖昧って聞いたから何かあったらいつでも頼って頂戴。あと、これ、キュウリね。」


 ハンナの優しい言葉に泣きそうになる。優しくて素敵な人だな。


「ありがとう、ございます。大事に食べますね。」


「ええ、そうして頂戴!……また買いに来てね、今度はオマケするわ。」


 パチンっとウインクされる。なるほど、だからイーサンは彼女と付き合ったのだな。こんなに優しくて元気な女性、世の男性が放っておかないだろう。

 ついでに、ハンナにスパイスのお店を教えてもらったので、早速そちらに向かった。近付くにつれて様々なスパイスの香りが鼻をかすめる。スパイスのお店には人が賑わっていた。なんでも新しいスパイスが入ったという。店主に聞いてみれば、スパイスを見せてもらえた。


「ほら、独特な香りだろう?なんでもルオメイからの輸入品でな。最近都市で流行ってるんだ。名前はサンショウ!向こうの人は焼き魚にかけるらしい。」


「山椒、ですか。」


 ちょっと残念だ。いや、こんな未知の場所で馴染みのある食品に会えたのは嬉しいが、もっと異世界感のあるスパイスが欲しかった。他にもないかと見ているとメルバグリーンというスパイスを見つけた。店主に聞けば、どうやら甘みのあるスパイスらしく、水菓子に使われることが多いと言う。煮詰めたり、焼いたりなど、熱を加えると緑色になってしまう為、料理では使われないとのこと。


「ん?緑色になってはいけない理由でもあるんですか?」


「お嬢さん知らないのかい?緑は未だに貴族の色だからね、庶民が使うのはまだいい目で見られないのさ。………これは忠告だが、アンタのその目、隠したほうがいいかもしれない。なんでもあの有名な『エメラルド家』のご主人と奥様が、緑色の瞳を持った女の子を探しているらしい。養子にしようとしてるんだってよ。」


「養子、ですか?それの何が悪いんですか?」


「なんでも無理矢理養子にさせられた子が居るらしいんだ。実の両親と引き剥がされたらしい。」


「そんなことが………」


 小説内のエメラルド家、エメラルド子爵家は由緒正しい家で、一度王族に見初められて伯爵家になったこともある。しかし、後に自ら子爵家に戻ることを宣言し、今に至る、と小説には書かれていた。クラリスの両親は仲が良く、クラリスが当主になることを期待していた。もちろん、クラリスはイケメン達と協力しつつも家の為に努力し、服飾事業を成功させ、家を復興していった。ペトラはクラリスと親しくなることで、クラリスをデザイナーとして自身の商会の長にして、ペトラはお金を手に入れていた。ペトラとクラリスは最初こそビジネスパートナーだったが、次第に本当の親友になり、クラリスは自身で商会を持ち、ペトラと決別する。しかし、二人の友情は変わらず、お互いに危機が訪れれば必ず助けようとする女の熱い友情があった。エメラルドの心臓はそういったシスターフッドも人気の一つだった。

 今は子爵家の評判は地に落ち、クラリスもペトラも居ない。何だったら人攫いの真似事をしている始末。ルガーノさんは、身分制度はなくなったと言っていたが、まだ根強く残っているようだ。


「アガサ!」


 慌てた様子のルガーノさんがこちらに駆けてくる。声を掛ける寸前、抱き締められた。………何が起こっているのだろうか。


「こちらに、緑の瞳を持った子がいると聞いたのだが、いらっしゃるかな?」


 ルガーノさんのコートの隙間から身なりの良い男性が目に入る。ルガーノさんの手が目を塞いでくる。何か温かいものを感じると手を離された。スパイス屋の店主は知らないフリをしてくれている。この町の人は優しいな。


「おや、そちらにいらっしゃるのはターコイズ家のご子息ではありませんか。」


「………久しいですね。リア・エメラルドさん。」


 リア・エメラルド、クラリスの父親だ。緑色の瞳を持った女の子を探しているのは本当だったんだ。というか、ルガーノさん、ターコイズって名字だったのか。ん?ターコイズ家って小説に出てくる二番目キャラの家名だったような。

 エドガー・ターコイズ。クラリスを愛した二番目キャラだ。確かターコイズ家の三男坊で、若くして騎士爵を貰っていた。クラリスを密かに想い、気持ちは伝えず、一番目のキャラとの恋を応援していた。兄弟仲はあまり良くない為、長男との対立がよく描かれていた。


「あぁ、失礼。今は母君の家名を名乗っているのでしたね。ルガーノ・アメジストさん。そちらの腕の中のお嬢さんはどなたでしょう?ご紹介願えますか。」


「断らせていただく。」


 一刀両断だ。しかし、だいぶピンチだ。私の瞳は緑色になっている。このままだと連れて行かれてしまう。しかし、ルガーノさんにこれ以上迷惑はかけられない。腕から離れようとすると、より強く抱き締められる。何とか顔を出し、リア・エメラルドを見る。あぁ、クラリスの父親だ。すっかり頬がこけて、眼光が強くなっている。クラリスが生まれないとこうなってしまうのか。小説内では娘思いの優しい父親だったのに。私が見ているのに気づいたリアは一瞬動きが止まった。多分妻であるアビゲイルと私が似ているからだろう。しかし、すぐに微笑みに戻ると、ルガーノさんに向き直った。


「ここに緑の瞳を持った女の子はいないようですね。またあらためて伺います。では、また。」


 最後の挨拶は私に向けたもののように感じた。クラリスの両親に何があったのだろう。

 ルガーノさんはホッと息を吐いた。しばらく抱き締められた状態だったので、腕を軽く叩くとすごい勢いで離れた。


「すまない!咄嗟にとはいえ、急に抱きしめるなんて!本当にごめん!」


「いや、大丈夫ですよ。私を守ろうとしてくださったんですよね?ありがとうございます。」


「う、すまない………」


 この人はシャイなんだな。しかし、ルガーノ・ターコイズ、ではなくアメジストだったとは。教えてくれなかったのは事情があったのだな。これはいつか話してくれるまで待とう。


「そういえば私の瞳、緑色のはずですよね?なぜ連れて行かれなかったのでしょうか。」


「それは、僕が魔法で変えたからだよ。許可なく変えて悪かった。」


「魔法、ですか。……便利ですね、魔法って。」


「いや、瞳の色を変える魔法は一部の許された者しか使えない。僕の……昔の家が使えるだけなんだ。」


 なるほど、確かに犯罪に使われるかもしれない魔法が法律で縛られないはずがない。魔法の法律を調べるのも面白いかもしれない。しかしまあ、ルガーノさんは元貴族だったようだ。もしかして、小説に出てこなかったターコイズ家の次男だったのかもしれない。


「兎に角、今日はもう帰ろう。他の場所はまた案内するから。」


「はい……」


 さすがに、今の彼に昔の事を聞くのは気がひける。彼に手を引かれながら私は市場を後にした。




???『貴方は主人公。これからは貴方が物語を作っていくのよ。』

ルガーノ・アメジスト(ターコイズ)。183cm、血液型A、誕生日3/19。瞳の色:ターコイズ色。

ルガーノはターコイズ家から出て、母方の名字を名乗っています。ターコイズ家の争いに疲れ、出ていきました。

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