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第4話 主人公の行方

こんにちは。第4話です。今回は少し物語の真相に触れます。

 鏡に映った女性を見て、私は思った。この人誰?えらく私に似ているが。女性は私の困惑した顔を見て、クスッと笑った。


「私が誰か分からなくて困惑しているみたいね。初めまして、私は『クラリス・エメラルド』。小説の主人公だった。」


 クラリス・エメラルド。悪役令嬢物の小説であるエメラルドの心臓の中に出てくる元の小説の主人公の名前だ。小説内では優しく健気、聡明であり強い人物として書かれていた。その彼女が、なぜ鏡の中にいるのだろう。


「大切な話をするわね。貴方にしか伝えられないの。」


「待ってください!どうして貴方が鏡に閉じ込められているんですか?」


「………それは、物語が破綻してしまったからよ。何もかもがめちゃくちゃになってしまった。」


 物語が破綻?悪役令嬢が幸せになろうと動いたからだろうか。彼女の様子を見るに、それだけではないように思えた。


「先ほども言ったように、この物語は破綻してしまった。なぜなら、私が生まれなかったから。」


「生まれなかった…?」


 彼女は目を伏せた。生まれなかったということは彼女の両親の間に何かが起きてしまったのだろうか。彼女が生まれなければ物語の中の、そもそもの小説が始まらない。ペトラはどうなったのだろう。


「あの、ペトラ・アイアンローズはどうなったんですか?」


「……ペトラはこの世界からいなくなってしまった。貴方を犠牲にして、元の世界に帰ったのよ。」


「私を犠牲にって、どういうことですか。」


「……転移魔法にも様々な方法があるの。例えば、自身の魔力を使って数フィート先へ移動するもの。他者の魔力を媒介して転移するもの、そして、他者と場所を入れ替えるものがあるの。貴方は入れ替えられてしまった。」


 ペトラ、もとい鈴鹿マドカは人を犠牲にしてまで元の世界に戻ろうとする人物ではなかった。転移魔法なんてこの世界に来てから知った、何よりこんなに科学が発展しているのも小説内では描かれていなかったはずだ。ここが本当にエメラルドの心臓の世界なのだとしたら、破綻どころの騒ぎではないと思うのだが。


「貴方をまた混乱させてしまうかもしれないけれど、時間がないの。貴方は、私の代わりに、」


 そこで鏡に映っていたクラリスはいなくなってしまった。代わりに青ざめた表情の私が映っている。私がここに来たのはペトラが帰りたかったからなのだろうか。それはそうだ。知らない土地に、文化に置き去りにされてしまえば誰しも戻りたいと考えるだろう。最後に彼女が話そうとしていたことは何だったのか。私の代わりとはどういうことなのか。私の知る小説の内容とは随分と変わってしまったこの世界で、私はどうすれば良いのだろう。


「おはよう。早いね。」


 鏡の前で立ち尽くしているとルガーノさんが起きてきたようだ。ルガーノさんも小説には出てこない。そもそもボルトフという地域もアバナントという国も小説には出てこない。ここは小説の裏側なのかもしれない。でもここの人達は確かに生きている。それだけは確かだ。


「おはようございます。なんだか目が覚めてしまって。」


「慣れない場所にいるのだからしょうがないよ。朝食はパンと昨日のスープがある。一緒に食べよう。」


「はい!すぐに行きますね。」




 朝食の途中、玄関のドアを勢いよく叩く音が響いた。ルガーノさんがとても面倒くさそうな顔をしている。これは厄介事の予感がする。ルガーノさんが玄関に行くとはつらつとした女性の声が響いた。


「ルガーノに彼女ができたって本当なの?!」


「ハンナ、最初に言う事がそれか?そんなくだらない話なら帰ってくれ。今食事中なんだ。」


「あら、いつも貴方に野菜や果物を分けている人に失礼じゃなあい?」


 あぁ、昨日会ったイーサンの言っていたハンナさんとは彼女の事だったのか。私が玄関の方まで行くとハンナさんが光の速さで私のもとにやってきた。


「はじめまして!私はハンナ、ハンナ・アンバーよ!ふ~ん、なるほど。どうりで恋人を作らなかったわけね。ルガーノ、貴方面食いだったのね!」


 面食い…どちらかと言うと私の方が面食いだが。ハンナさんはとても元気な女性のようだ。


「ハンナ、彼女は恋人ではないよ。今は記憶がないから匿っているだけだ。」


「あら冷たい言い方。アガサでいいのよね。これからよろしく!田舎町だけど、居心地はいいと思うわ!」


「はい、よろしくお願いします。」


「やーん!可愛いわ!うちはむさ苦しいから癒しだわ~。」


「さっさと帰れ。イーサンが待ってると思うぞ。」


「あぁ!急がないとね。それじゃまたね、アガサ!」


 おや、もしかしてイーサンとハンナは付き合っているのだろうか。そんなことを考えているといつの間にかハンナはいなくなっていた。嵐のような人だったが、悪い人ではなさそうだ。ルガーノさんはため息をついているが、別に嫌いではないのだな。というか、私、ルガーノさんの恋人認定され始めているのか?それはちょっと、ルガーノさんに申し訳が立たないのだけれども。


「食事が冷めてしまったね。全く、ここの人間はアポイントを取らないから…。」


「また温めればいいですよ。それよりその、恋人みたいに噂されてしまって申し訳ないです。」


 ルガーノさんが目をパチクリさせている。その後顔が真っ赤になるものだから、私も何だか恥ずかしくなってきた。


「いや!いいんだよ。最近お見合いなんてどうだとか言われていたから、むしろ都合がいいし!君が気に病む事は何もないよ。」


「そ、そうですか。」


 その後の食事は味がよく分からなくなってしまった。気まずい空気のまま食器の当たる音だけが響いていた。

ハンナは活発でボルトフに昔から住んでいます。年は21歳で、イーサンと結婚しています。子供が2人おり、二人の事を宝物と呼んでいます。

ルガーノが食事に興味を示さないので、家で採れた野菜や果物を分けています。生存確認のためにも会いに来ています。

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