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第1話 こんにちは、新しい世界

こんにちは。こちらには初めて投稿いたします。初めて書くジャンルなので、至らぬ点もあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

 アガサ。私の名前はミステリー小説好きな婆ちゃんがつけた。父さんは撫子、母さんはエルモと名付けたかったらしい。アガサで本当によかったと思う。最近体を壊して仕事を辞め、実家に戻ってきた。医者からは無理がたたったのだろうと言われた。久々に家の鏡で顔を見たら目の下に隈がこびりついていた。疲れた顔で帰ってきた私を見ても、話したくないのがわかっているのか両親は何も聞かないでいてくれている。

 戻ってきて数ヶ月が経ち、少し調子が戻ってきた。病院から帰る途中、婆ちゃんの家に寄った。久々に会った婆ちゃんは白髪が増えていて寂しくなった。しかし、相変わらず本の部屋(書斎というには狭い)にはところ狭しと本が溢れていた。その中に今までなら絶対になかったであろう、異世界転生物の小説や漫画があった。題名は“エメラルドの心臓”と書かれていた。“鈴鹿マドカ”という少女が物語の世界に転生し、イケメン達と交流しながら物語をハッピーエンドにしようと奮闘する話のようだ。登場人物の名字は宝石の名前がついており、マドカは“ペトラ・アイアンローズ”に転生することになる。婆ちゃんに聞くと近所に越してきた人と仲良くなり、教えてもらったという。私はこの手の本には苦手意識があったが、折角だからと婆ちゃんに勧められて読んでみるとなかなか面白かった。婆ちゃんと二人で本を読みながら何時間も話した。

 婆ちゃん家から帰る途中、道から血のような赤い光が現れ包まれると知らない場所にいた。バロック調の家具が置いてあり、部屋の作りも西洋風で日本とは全く違った。呆けていると本を読んでいたらしい男性が眼鏡を外してこちらを見ていた。





「・・・アガサ・ワタヌキ、いい名前だね。年齢は24、血液型はB。誕生日は3月19日・・・僕と同じだね。ということは魚座か」


「あの、星座とかの情報って必要なんですか?」


 目の前の男性、ルガーノさんは私から聞いた情報を反芻し、タブレットにメモしている。この部屋には到底合わない電子機器に戸惑いながら質問した。


「今聞くことがそれ?もっと聞くことがあると思うけど」


 確かにその通り。ここは何処なのかとか、もっと聞くべきことがあった。ルガーノさんは目が合うと微笑みを返してきた。目の前のこの男性は金髪碧眼の、先程まで読んでいた小説の登場人物のようだった。


「もちろん、僕にとっては大事な情報。世間一般的にはいらないものだけどね」


「はぁ・・・あのー、ここって何処なのでしょうか」


「ん?ボルトフだよ。炭鉱が随分と前に閉鎖されてから静かになったよね」


 全く知らない町の名前が出てきた。もしかしたらラノベやコミックを読みすぎたのかもしれない。私がぐるぐると思考を巡らせているとルガーノさんがタブレットで地図を見せてくれた。


「ほら、ここだよ」


 地図の一点を指差す。そこには見たことのない文字が書かれていた。しかし読むことができる。間違いなく“ボルトフ”と書かれている。北部の端に名前が書いてある。ボルトフと書かれている所から視線を下に移すと大きく国の名前のようなものが載っていた。


「アバナント・・・」


「アガサさん、転移魔法に失敗した?失敗した人がこの部屋に落ちてくるの、時々あるんだ。だから家賃が相場より安いんだけどね」


「は、はい?魔法なんてあるんですか?」


「忘れちゃった?・・・転移魔法の失敗で脳に影響が出ることは僅か0.003%って言われているのに。ある意味運がいいね」


 困った。転移魔法なんて使えないし知らない。本当にここは異世界かもしれない。アバナントなんて国名も聞いたことがない。


「うーん、脳に影響が出ているなら病院に行かないと。保険証は持ってる?できれば情報チップの方がいいけど、持ち歩いてないよね?・・・まさか保険証もない?」


 元の世界の保険証なら持っているが、使えるかわからない。


「な、ないです・・・」


 ルガーノさんはため息をつくと腕に着けている時計、スマートウォッチのような端末を操作した。


「はい、予約したからとりあえず病院に行こう。後で医療費は出してもらうからね」


「すみません・・・」


 異世界転生ってもっと楽しい感じになるんじゃないのか。病院の予約はスマホでやるのと変わらない。賢者とか聖女とか、もっとRPGみたいな展開になるものだと思っていた。服装もよくある異世界みたいなものと違う。ルガーノさんの格好は現代風、アイビーな感じだ。


「ねぇkai。窓の施錠をしてくれる?」


 コートを羽織りながらルガーノさんが機械に向かって言った。


「わかりました」


 カチャンと鍵が閉まる音が聞こえた。こっちの世界は随分と進んでいるようだ。


「ほら、アガサさん行くよ」


「は、はい」


 外に出ると驚いた。部屋の中とはうって変わり、スチームパンク好きにはたまらないであろう町並みが広がっていた。しかし、どれも作動しておらず、道に廃棄されている機械が回収されていた。回収車に乗っている人がルガーノさんに声をかけてきた。


「ルガーノ!久々に外に出たな。ハンナがなかなか外に出てこないから心配していたぞ」


「やあ、イーサン・・・」


「お?そっちのお嬢さんはどうしたんだ?」


「転移に失敗した人、アガサ・ワタヌキさん」


「また落ちてきたのか!アガサさん、初めまして。俺はイーサン、イーサン・アンバー。よろしくな!」


 車から降りたその人は筋骨隆々で無愛想に見えながら、亜麻色の髪と目、くしゃっと笑った顔が親しみやすい雰囲気を与えていた。握手に答えると力強く握ってきた。


「どうも、アンバーさん」


「さん付けはやめてくれよ。あと、ここら辺に住んでる奴らは殆どアンバーだからイーサンって呼んでくれ! 」


「はい!よろしくお願いします、イーサン」


「外から来る奴はあまりいないんだ。アガサはどのくらいここにいるんだ?」


「あー、えっと・・・」


「・・・悪いけどイーサン、これから病院に行くんだ。世間話ならまた今度にしてくれないか?」


「おぉ、そうだったのか。病院なら通り道だし、乗せてってやるよ。ほら後ろ乗りな」


 後部座席に置いてあるものを退かしながらイーサンは席に促してくれた。私が乗るとルガーノさんも乗った。


「・・・社用車に社外の人間を乗せて問題ないのか」


「えっ、これ社用車なんですか?私達乗っちゃいけないんじゃ・・・」


 ルガーノさんの言葉に驚いたが、すぐさまイーサンが笑いながら心配するなと言った。


「そんなの気にする奴、この田舎にいねぇよ」


 先程と雰囲気が変わったルガーノさんに戸惑いつつも、私達は病院に向かった。






「しっかしルガーノが落ちてきた人に親切にするなんて珍しいな。いつもはすぐさま追い出すくせに、どんな風の吹き回しだ?」


「・・・僕がそれに答えると思う?」


「いや?でも聞くだけならいいだろ。アガサ、こいつ愛想がなくてびっくりしたろ?いつものことだから気にするなよ」


「いえ、そんなことは・・・」


 イーサンの言葉に引っ掛かる。ルガーノさんは最初からとても親切だった。突然出てきて座り込んでいた私に手を差し伸べてくれたし、呆けて名乗ることもしない私に名前を明かし、おまけにお茶まで入れてくれた。質問を沢山されたのには驚いたけれど、愛想がないなんてことはない。


「・・・前を見て運転しろ」


「へいへい・・・」


 ルガーノさんの方を見ると視線に気づいた彼が笑ってくれた。少し開けた窓から入る風で少し髪が崩れている。改めて見るとルガーノさんはとてもイケメンだ。少し癖のあるブロンドの髪にくっきりとした二重、少しタレ目気味、よく見ると瞳には青色だけでなく緑色も少し入っている。服装も上品だし、この人モテそうな気がする。


「見すぎだよ」


 あんまり見つめていたのかルガーノさんに小突かれた。

 わりと早く病院に着いた。車から降りたルガーノさんがイーサンに軽く感謝し、私もそれに続いた。イーサンはまた会おうと手を振ってくれた。

 病院の看板は錆びており、かろうじて読めた部分にアンバー総合病院と書かれていた。ルガーノさんが扉を開けるとそれも錆びているのかギーっと音を立てた。

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