第3話 僕(主人公)+僕(悪)
とりあえず、これは父の体であると確信した。
父はこの日、有給休暇を取っていたのであろう。
この時、僕の異能力は死後にタイムリープしながら"他者"に憑依する異能力ではなく、死後にタイムリープしながら"家族にのみ"に憑依する能力であると確信した。
そして時間を確認しようと時計を探そうとした。
すると、また“誰かに睨まれている”感覚に陥った。
周りを見渡しても誰もいない。
これ以上考えても仕方がないのでこの感覚の正体を探るのをやめた。
それ以上に優先するべきは今の時刻を確認することだ。
改めて、時計を探そうとする。
しかし、「あっ、そうだった」と気づいた。
みんな不思議がるかもしれないが
うちの家族はリビングに時計を設置していない。
『どうせテレビをつければ画面の右上か左上に時間が表示してあるからだ。』
僕の家族はいつもそのテレビ画面で時間を確認する。
全く…うちの家族は不思議だなと今更思う。
とりあえず、時刻を確認するために父の黒いガラケーを探すが身の回りにはない
おそらく、寝室で充電でもしているのだろう。
父は外務省で働いているのでスマホは持たず、黒いガラケーを所持している。官僚関連の仕事をしている人はサイバーテロやケータイが盗まれたことなどによる情報漏洩を防ぐために普段ガラケーを所持している職員が少なからず存在すると父から聞いたことがある。そして父がその一人だ。(電話すること以外には特に用途がないため)
なので、普段スマホ依存症の我々とは違い手の届く範囲にケータイを置いておくことはしないのだ。
時間はこうしている間にも刻一刻とすぎていく。
タイムリープした後の時刻をなるべく早く知りたいため
やむを得なく近くにあったリモコンを取り、テレビをつけ、時間を確認することにした。
テレビ越しに“有名女優”と男性芸人が宮崎県の新田原(読み方:にゅーたばる)でグルメロケをしている“収録放送された番組”が流れていた。そして右上に表示されていた時刻を見た。13時15分と表示してあった。しかし肝心の日にちがわからなかった。
僕は違うテレビ局のボタンを押し、“日にちの情報”のある番組を探した。
しかし、妙なことが起こった。
チャンネルを変えても変えても新田原のグルメ番組しか映らない。
「ん?誰かによってテレビ局が電波ジャックされているのか?」
僕はそう思ったが今はどうでもいい。
「それより早く今の時刻を確認しないと!」
リモコンのdボタンを久しぶりに押した。
そして今の時刻が“2024/6/13 時13時15分”であることが確認できた。この時刻は刑事から伝えられた母の死のちょうど6時間前になる。
しかし、僕の記憶によると母はこの時間の“17分後”に死ぬことになる。
そして僕は考えた。今、父の体のまま自殺をすれば「前世の僕と母」そして母の死後におそらく殺めているであろう「一般人たちの命」が助かる。
死ぬことは未だに怖いが時間がないのでやるしかない。そう決心した。
自殺の方法はどうしようかと考える。
一方、テレビでは
有名女優がラーメンを食べたあとの感想を述べていた。
「このラーメン美味しすぎる!『新田原は動き出す』グルメ業界が黙ってないよ!この店はこれから忙しくなるね」。と。粋なコメントをしていた。
すると突然、父親の体の様子がおかしくなった。
体にビリビリっと“電撃が走る”感覚がした。
「あれ?この前も似たようなことがあったかな」そう思った。
体が動かない。
そして、テレビで一緒に同行していた男性芸人が「『新田原は動き出す』?なんやそれw」とツッコミを入れた。
僕はこう考えた。
あの言葉だ!
「父を怪物に変えたのがこの暗示なのか」そう思った途端
テレビの有名女優が恥ずかしながら「『新田原は動き出す』は言葉の通り『新田原は動き出す』ってことですっ!』
テレビの男芸人が「『新田原は動き出す』」って地名が珍しいから、ただ言いたいだけですやん!」とツッコミをいれる。
『新田原は動き出す』という暗示を計5回も聞いてしまった。
僕の目の前の世界が歪んだ。酷い体調不良を表すために歪んだと表現しているわけではない。実際に物理的に顔が歪んでいるのだ。
突然、体の自由が効かなくなった。
感覚としては僕の自我は精神世界にあるが、もう一つの自分の自我が存在し、そのもう一つの自我が父の体のコントロールしている状態だ。
要するにこういうことだ。
父の体には僕という人格が2つ存在している。
「僕は思考することは可能だが精神世界という檻の中に拘束されている状態で“思考すること”と“五官を感じ取ること”以外は何も許されていない。」一方、「体のコントロール権は新たに芽生えたもう一つの僕という人格が支配している状態だ。」
※これからの物語は前者の人格を“僕(主人公)”とする。後者の人格を“僕(悪)”と呼ぶことにする。
僕(悪)は僕(主人公)と同じ思考パターンを持っていて、生まれてからのすべての記憶も共有している。
まるで自分を鏡に写したかのような存在だ。
そして、父の顔は液体金属を纏った蓮の形となった(中心にはカタツムリのような目が2つある)。
僕(悪)はこの液体金属の使用感を確かめるべく、液体金属をいろんな形に変形したり、デスクトップパソコンのキーボードを液体金属の触手のみでタイピングしたりした。
~約6時間後~
親の寝室で轟という音がした。
母がワープして来たのだ。僕(悪)はその事実を知っている。
そして、僕(悪)は次にとんでもない行動にでた。
親の寝室に行きは母親の胸を貫いたのだ。
僕(主人公)は落胆した。僕(主人公)は疑似的にだが自らの手で母を殺めてしまった。
僕(主人公)は普段であればこのような行動は絶対にとらない。僕(悪)は僕(主人公)と同じ行動思考をもっているが、何か外的な要因によって邪悪な行動をとっているのだ。
ある「使命」を与えられていてそれに向かって進むよう僕(悪)はプログラムまたは洗脳されているに違いない。
寝室には母の姿はなく、血痕だけが広がっている。しかし、母が死んでいることはこの身で体験済みだ。
母を殺し終わった後、
僕(悪)は液体金属の顔を元の顔に戻し、
僕(悪)はすぐさま官僚手帳を父のバックから取り出し、大阪国際空港に電話を掛けた。
電話越しに空港のスタッフに「官僚手帳に記されている個人番号」と「所属している課」と「父親の名前」を伝えた。そして「20時10分のロサンゼルス行きの優先チケット」を手に入れた。外務省の人たちはしょっちゅう海外に行くので、「電話で外務省として予約を入れること」と「搭乗ゲートで官僚手帳を見せること」この2つの行動をとれば優先して飛行機に乗れることを知っている。幼い頃に父の仕事に同行したときにこの方法を使って搭乗したことがあるからだ。
実家は父の仕事上「大阪国際空港」と「外務省大阪分室」のちょうど中間地点に位置していてどちらとも車で8分以内に着く。
家の金庫番号“31087”を打ち込み中に入っている500万円をバックパックに入れた。
暗証番号をなぜ知っているのかについてだが、
小学校3年生のころよく親と一緒に寝ていた時
たまに親が金庫を開けることがあるのでその都度ちらっとみていた。
そして、空港に行く道中にATMに立ち寄り
1日の最大引き出し限度の50万円を引き出し(ATM暗証番号は父の携帯番号の下4桁)
“2024/6/13 20時10分”バックパック1つで僕(悪)は大阪から離陸し、アメリカのロサンゼルス空港へと向かった。
大阪国際空港からロサンゼルス空港までのフライト時間は約11時間だ。
僕(主人公)はこの時間を使い頭の中で、
「今までのことを整理した」
Ⅰ〜母に関しての事実について〜
1.母の体に憑依していた時に僕(主人公)が一人暮らししていた時の“ダブルベッド”を想像してワープしたが親の寝室にワープした理由。
これはたまたま全く同じダブルベッドの型番であったからだ。そして母の体は最も使っていたベッドの方へ優先してワープしたのだ。同じ型番であることは母を殺すとき、父の視界で確認した。
2.前世の僕が持っていた“世界がスローになる能力は母親の体には引き継がれなかった”ことが分かった。
父親(怪物)に攻撃された時にこの異能力が発動しなかったからだ。
3.母の死亡時間のタイムパラドックスについて
※タイムパラドックスとはタイムリープを行うことで本来起こりえない出来事が逆説的に起こってしまう現象を指す。
“2024/6/13 19時15分”という母の死亡時刻これは僕(主人公)自身が作った架空の時間である。
理由は以下の通りだ。
時系列通りにまとめると
①僕が憑依した母(吉田刑事から聞いた死亡時刻を“遺書1”に記した)
↓
②吉田刑事(“遺書1”から母の死亡時刻を得た)
↓
③なんの情報も持たない前世の僕(吉田刑事から母の死亡時刻(“遺書1”の死亡時刻)を聞いた)
↓
④ タイムリープして①に戻る
つまり、
“遺書1”で自分が書いた情報が周り回って自分に返ってきただけなのだ。
このタイムパラドックスが起きてしまったので、実際の母の死亡時刻が“2024/6/13 19時32分"の17分後であっても何らおかしくはないのだ。僕(主人公)は母が”2024/6/13 19時15分"に死ぬと勝手に決めつけていただけに過ぎないのだ。
Ⅱ〜父の体がもう一つの僕(平行人格)に乗っ取られている理由。〜
これはあくまでも想像に過ぎないが、テレビ越しの「有名女優と男性芸人」の
暗示で他者を操る(厳密にはもう一つの平行人格を作り、その人格に肉体の操作権を握らせる。そして本来の自我は精神世界の檻に閉じ込めておく)異能力であると考えた。一体あの人たちは何者なのだろう?
Ⅲ〜僕(悪)がロサンゼルスに行く目的〜
僕(悪)は母を殺した犯人が父であることを知っている。警察から逃げるため、アメリカへ飛んで身を隠すという行動を取っているのであろう。
しかし、腑に落ちないことがある。
身を隠すだけだったら日本国内で隠せばいい。僕(主人公)であれば公共交通機関(身元情報の提示が要らない)を上手く利用し、警察にバレずに立ち回れる自信がある。これは同じ頭脳をもつ僕(悪)も然りである。だから、搭乗履歴が残る飛行機を利用するという行為は危険であり悪手なのだ。
僕(主人公)であればこんな方法は使わない。
なので、僕(悪)にはアメリカに行く理由は少なくとも身を隠すこと以外にも“最低でも1つ以上の目的”があると踏んだ。
ただ、現時点での情報だけではそれが何かは特定できない。
僕(主人公)と僕(悪)はフライト中に眠りについた。