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診察2人目 その3

「これがそちの体に取り憑いていた病魔、異世界カキ怪物だ!」


「カキ怪物ーーっ? てか、異世界ってなんなんすかーーーっ?」


 ちなみにストレイシープの服は元通りになっている。


 カキ怪物の鋭い眼光が、ストレイシープに向けられた。


「あの男はっ、あの男はね……、とびきり新鮮だったこのあたいを、ひと口も食べずにゴミ箱へ捨てやがったんだ!」


 憤怒でわななく少年のような声。


「そのような不摂生をっ?」


 ワールの怒声に、ストレイシープがたじろいだ。


「ち、違うんだ! お土産で貰ったんだが、俺はカキアレルギーなもんだから、不用意に喰ったら死んじまう! でも、なまものをお裾分けできるような親しい知り合いが近くにいなくて、しょうがなく……」


「うるさい、うるさい! 蓋付きのゴミ箱に放り捨てられたときの絶望感がおまえにわかるか! もっと懲らしめてやるーー!」


 殻から目玉が突き出して、蒸気がゴウゴウ噴き出した。


「この子が憎悪の原因で間違いなさそうですね、ワール様!」


「早急にご縁を絶ち切っておいたほうがよさそうですわ!」


 シュガーローフとフリヤンディーズをワールが優しく抱擁し、ふたりのおつむに慈しみのキスをする。


「これより手術(オペラチオン)を執り行う!」


 ワールは腕を広げて、指を鳴らした。


 館の応接間がぐにゃりと場面転換する。


 茫洋たる宇宙空間が現れて、異世界へと続くブラックホールの出入り口を背景に、煌びやかな漆黒のバトルフィールドが足下に広がっていく。


「はぁい」「はぁい」


 シュガーローフとフリヤンディーズは従順な受け答えをして、ワールの前へ歩み出た。


「うちはシュガーローフ。電気メスって言われてるんだ」


「わたくしはフリヤンディーズ。汗を拭き消すのが上手ですのよ」


 ちょこんとお辞儀を交わして、いつでもおいでと身構える。


「あたしにメスなど効かないし、汗もかいたりするもんか! 死にたくなけりゃ、すっこんでろ!」


 カキ怪物はバンバン殻を閉じながら、むくむくと巨大化してみせた。


 3メートルにもなる2枚貝が、シュガーローフとフリヤンディーズを睨んで見下ろし威嚇する。


 1歩前に出たのはシュガーローフだ。


 腕を振り下ろして稲妻を放電させると、絞って鞭のようにしならせる。


 それを地に打ち鳴らして、いざ戦いを交えようとしたのだが。


 カキ怪物は素早く殻の中に隠れてしまった。


 シュガーローフが殻を鞭打ってみたのだが、海藻が剥がれるだけで、傷ひとつつけられない。


 続けて2度3度と打ってみるも、カキ怪物の殻は雷火の鞭を弾き返して物ともしなかった。


「フリヤンディーズ、こいつ、稲妻の刃が効かないよ!」


「ちゃんと体のお手入れをしてないから切れ味が鈍るのよ!」


 フリヤンディーズは砕けた口調でそう言って、両手を広げて項垂れた。


 フリヤンディーズが「ですわ」口調を使うのは、ワールを意識しているときだけだ。


「やれやれね」


 フリヤンディーズはカキ怪物に近づいて、殻の上から両手をあてがい、ゼロインチからの消滅魔法を撃ち放つ!


 けれども、カキ怪物にヒビひとつ、つけることすら叶わない。


「あら、あなた硬くて立派なの」


「ほらほらー、フリヤンディーズだって体を洗ってないから腕が鈍るんだよー!」


「だっ、洗ってるわよ! 手入れしろってそういう意味じゃない!」


 カキ怪物は殻に閉じこもったまま、微動だにしなくなってしまった。


「おーい、カキ怪物さーん」


 シュガーローフがカキ怪物をノックするも、反応はない。


 シュガーローフとフリヤンディーズが事態の打開を模索するなか。


 カキ怪物はこっそりと殻を開いて、外の様子を窺い見た。


 そして大量の粘液をワールたちに吹き付ける!


「わっ、なぁにこのネバネバ!」

「大事な一張羅があーーっ!」


 ワールたちの体にまとわりついた白い粘液は、身動きを封じるものかと思われた。


 しかし、シュガーローフとフリヤンディーズの様子がなんだかおかしい。


 頬をポッと赤らめながら、互いのほっぺを突っつき出した。


 そうかと思えば、健やかな胸を擦るように押しつけ合ったり。


 太ももで互いを挟み合っては、泥酔したかのような照れた笑いで見つめ合う。


「フリヤンディーズってお肌すべすべじゃん。もっと触らせてよ~。うえっへっへ……」


「シュガーローフだって玉肌ね。もっとすりすりさせなさいよ~。うえっへっへ……」


 それを見たワールは白い粘液の正体がわかったのだが。


「これは媚薬! あはんっ!」


 ワールは独り寂しく身もだえて、自分で自身を抱き合う。


 気力を振り絞り、ドクターコートの内側からなんとか皮下注射器オート・インジェクターを1本取り出した。


 厚みが1センチ、幅が2センチ、長さ15センチくらいのカプセル状の注射器で。


 そのプラスチック容器には、万能解毒剤が入っている。


 半ば痙攣を起こしながら、ワールは自身と格闘し、キャップをなんとか取り外す。


 そして、先端の突起部分を首筋にぐっと押しつけた。


 突起部分が容器に押し込まれ、代わりに注射針がせり出てきて皮膚を突き刺す構造だ。


 5秒ほどでカチンという音が鳴って、解毒剤の注入が完了したのだが。


 ワールの悶えは止まらなかった。


 倒れ伏して、足掻き苦しむワールの元に、カキ怪物が迫り来る!

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