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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕の神様

パンッ パンッ




(今日こそは悪いことが起きませんように……)




 朝早く起きて、僕は家の物置から出した透明な箱の前で両手をこすり合わせる。良いことが起きますように、なんて贅沢なお願い事をしているのではない。悪いことを起こさないでくれればそれでいいのだ。だが透明な箱の中でじっとしている神様は、最近弱ってきているのか知らないけれど、全く僕のお願い事を聞いていないらしい。




 場合によっては、神様交代だ。




 だけどそんなことしたら神様も困るだろうから、今日は昨日よりも1回多く、お願い事を唱えてみる。声にも出してみよう。




「今日こそは悪いことが起きませんように」




 そうして僕は家に入り、父が起きるのを待った。







 もうすっかり夜も深くなった頃、僕は神様を右手だけでつかんでおいて、散歩していた。冷たい夜風がアザや傷にしみるのだが、消毒だと思ってしまえばたいしたこと無い。そして明日こそは、きっと悪いことは起きやしないだろう。いいや、きっと良いことが起きてしまうかもしれない。そう考えるだけでも今日の痛さなんてどこヘやら、だった。




 もうだいぶ進んだとき、ギラリと小さな月が二つ、夜を照らした。僕は一瞬びくりとしたが、明日を想って気丈に自分を奮い立たせてしまう。




 鳴き声を聞けば、猫だと分かった。ちょうどいい。




「猫やい。お腹空いてるだろう?」




 猫はどうやら黒猫らしい。野生の猫なのか、若しくは飼い猫なのかよく分からないけれど、猫はゴロゴロと喉を鳴らした後で、僕の神様を食べた。パリパリと音がする。


 


 そうしてしまった以上、もう黒猫は、君は、野良猫でも飼い猫でもなく、僕を守ってくれる神様なのだ。




「神様交代だよ」




 僕は両手で新しい神様をつかんだ。神様の鋭い抵抗で僕はさらなる傷を負うが、アドレナリンがよく効いていた。




 




 家に着くと、僕は神様を物置にしまった。漸ようやく明日が楽しみだ。そして、都合よく父は寝てしまっているし、明日は記念すべき3代目の神様の初の仕事なのだから、今、お願い事をしてみようと思った。




 物置の扉は閉めたまま、僕は両手をこすり合わせる。月が血を欲しているのだろうか、一段と白い。せっかくだし、声にも出してみる。




 パンッ パンッ 





「父をこの世から消してしまいなさい」





 今回の神様も使えなかったらば、今度は僕が、神様にならなくてはならない。




 まだ死にたくなんてないのに……









―――次の日の夜。今日も月が一段と輝いて、どこかの少年を奮い立たせていた。どうやら彼は、猫を抱えている。もっと黒くなった猫を。




「今日から僕が神様だ」彼はそうつぶやき、家の玄関を、開けた。




「僕はまだ死にたくないんだ」そう月に宣言しておいて。




「父を消してしまいなさい」そう誰かにお願い事をしておいて。  ―――

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