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【電子書籍・漫画化】それなら私が溺愛します!~愛を知らない騎士隊長と愛があふれる令嬢の結婚~  作者: さき


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13/25

13:寝室をともに

 


「……今夜から寝室を共にしないか?」


 そうキールが少しばかり緊張した声色で提案してきたのは、夕食を終えてデザートと紅茶を楽しんでいた時。

 彼の提案にシャーロットは元より大きな目をより大きくさせ、数度ぱちくりと瞬かせ、そうしてほぅと吐息を漏らすと熱を持った頬を両手で押さえた。控えめな声ながらに「はい」と答える。

 次いでチラと傍らに控えているメイドのティニーに視線を向け、小声でコソリと、


「部屋に戻ったらナイトドレスを選びたいから並べておいて」


 と頼めば、ティニーが使命感に瞳を燃やしお任せくださいと頷いた。

 もっとも、この会話は小声と言えどもキールには聞こえていたようで、彼が慌てた様子で「ち、違うんだ!」と声をあげた。


「別にそういう意味で言ったんじゃないんだ。その、ただ、眠くなるまで話をして、シャーロットが隣で眠ることに徐々に慣れていければと思って……!」

「まぁ、そうでしたの?」


 事情を説明するキールは随分と真っ赤だ。ポッと頬を染めながらも既に覚悟を決めたうえでナイトドレスを選定しようとしていたシャーロットよりも赤い。

 耳まで赤くなっており、これではキールの方が生娘のようではないか。


「私ってば早とちりしてしまって……。はしたない女だと思わないでくださいね」

「い、いや、今のは俺が悪いんだ。勘違いさせてすまなかった。だがシャーロットが俺のために色々と考えてくれているから、俺も何かしなければと思って」

「私、まだ完全には気配を消せないんですがよろしいですか?」

「あぁ、もちろんだ。……完全には、ということは少しは消せるようになったのか?」

「先日、気配を消して背後からお兄様に声をかけて驚かせました。その前にも気配を消してお兄様の肩を叩きましたし、最近はお兄様相手ならば気付かれずに近付くことが出来るようになったんですよ」


 さすがに歴戦の将であるキールには気付かれてしまうが、油断している者や兄相手ならば背後に立てるようにまでなった。

 そうシャーロットが得意げに語れば、キールが「ロジェ殿で試すのは程々に」と苦笑を浮かべた。




 そうして食事を済ませ、就寝の準備を整えてキールの部屋へと向かった。


「ナイトドレスは『もう少しお眠りなさい』と伝えて棚に戻しました」


 ベッドに二人並んで横になり、他愛もない話をする。

 そんな会話の流れでシャーロットはキールの部屋に来るまでのことを話していた。夕食後に就寝の準備をし、本を読み、そしてナイトドレスに一言告げてきたのだ。

 今夜シャーロットが着ているのは普段から使用している寝間着だ。

 ワンピースタイプの可愛らしいデザインだがナイトドレスのようなセクシーさはない。異性を魅了するためのものではなくグッスリと眠るためのものである。


「もう少し、か」

「えぇ、もう少し、です。その時が来れば着ますし、もしもキール様が私に対して男女の愛を抱けなかったその時は……」


 話しながら己の胸元に手を添える。

 その仕草を見るキールの表情に僅かながら影が掛かったのは、彼もまた『もしも』の事を考えたからだろう。

 シャーロットはそんなキールの表情の変化に気付き、布団の上に置かれた彼の手をぎゅっと握った。


「その時は私のナイトドレス披露会を開催します!」

「……披露会?」


 キールが目を丸くさせる。


「はい、披露会です。音楽に合わせて一着ずつ披露します」

「そ、そうか……。そうだな、せっかく用意したんだもんな」

「披露会ではキール様は『似合っている』『可愛い』『セクシー』等の声援をお願いしますね」

「最後の声援は少し難しいが……。だが善処しよう」

「披露会を終えたら暑い夜に最適な一枚として愛用するつもりです。……寝冷えは少し心配ですね。お腹が冷えてしまうかも」


 ナイトドレスはセクシーさを追求するため布が薄くなっており、レースで透けているものや、それどころか腹部が開いているデザインもある。

 夏場には快適だが一晩過ごすには薄すぎる気もする。『ナイトドレスを寝間着にして寝たらお腹が冷えた』というのは何とも情けない話ではないか。

 そうシャーロットが真剣な顔つきで悩めば、話を聞いていたキールがふっと小さく息を吐いた。楽しそうに目を細めて笑う。


「そうなったら、俺は夏にも使える薄手の布の腹巻をプレゼントしよう」

「ぜひナイトドレスに似合うお洒落なものをお願いします」

「ちゃんとデザイナーを呼ぶから安心してくれ。いっそ揃いにしようか」


 お揃いの腹巻で眠る。なんて仲睦まじい夫婦ではないか。男女の色恋めいた愛情こそ無くとも、そこには確かに暖かな愛がある。

 その光景を想像しシャーロットは思わず表情を綻ばせ……、ふわと欠伸を漏らした。気付いたキールが笑みを強める。子供を愛でるような優しい笑みだ。


「もう寝ようか」

「そうですね。私、気配を消して眠れてはいると思いますが、もし気配を感じさせてしまったなら起こしてください」

「俺も眠くなってきたから大丈夫だろう。気にせずゆっくり眠ってくれ」

「はい。では、おやすみなさい……」


 うとうとと微睡む心地良さに意識を預けながらも就寝の言葉を告げ、そして彼からの「おやすみ」という優しい声を聞いてシャーロットは眠りについた。



 ◆◆◆



 それから数時間後キールはゆっくりと目を覚ました。

 室内は暗いが、それでも窓からカーテン越しに差し込む月明かりで薄ぼんやりとだが周囲は見える。


 ……自分の隣で、布団に包まり眠るシャーロットの姿も見える。


 それはもう『すっぽり』という擬音が似合うそうなほど。大きめの掛布団を余すところなく使っている。……一人で。

 ちなみにシャーロットが掛布団でミノムシ状態になっているため、キールの体は晒されている。本来なら二人で一枚の掛布団なのだが彼女が全て奪ってしまったのだ。


「シャーロット、すまないが布団を半分返してくれ」


 熟睡しているところを起こすのは忍びないがさすがに夜は冷える。やむを得ないと判断して、小声で囁くように告げて布団の一部を軽く引っ張った。

 だがその瞬間、穏やかな寝顔を見せていたシャーロットの眉間にきゅっと皺が寄った。

 愛らしい顔付きに似合わぬ眉間の皺に、思わずキールは布団を掴んでいた手を放してしまった。


「すまない、寝ているのを邪魔する気はないんだ。布団を半分返してくれればそれで良いから」


 寝ている相手に説得など意味がない。そう分かっていても、眉間に皺を寄せるシャーロットを前にすると言い訳じみた言葉が出てしまう。それでもと恐る恐る布団の一端を掴み軽く引っ張ってみる。

 その動きに反応したのか、シャーロットの眉間の皺がより深くなった。再び手を放してしまう。


「……そうか、分かった。ならばその布団はシャーロットにあげよう」


 無理強いは出来ないと判断し、キールは仕方ないとベッドから降りた。

 向かったのは部屋の一角にある箪笥。音を立てないようにそっと開けて中から毛布を取り出し、再びベッドに戻る。

 見ればシャーロットの寝顔は穏やかなものに戻っており、眉間の皺も無くなっている。もちろん眠っているのだからキールが諦めた事など知らないだろうが、もしかしたら眠りに着きながらも気配で察していたのかもしれない。


「おやすみシャーロット」


 起さないよう小声で囁き、布団に包まるシャーロットの柔らかな髪を一度撫でて、キールもまた眠りについた。



「まさか毛布まで奪われるなんて」


 そうぼやいたのは、再び眠りについてから二時間後。

 ベッドの上に野晒し状態のキールの隣では、掛布団に加えて毛布まで巻き込んだシャーロットが、相変わらず頭だけ出してスヤスヤと穏やかな寝息を立てていた。



 ◆◆◆



 そんな夜が明けて翌朝、キールから昨夜の詳細を聞いたシャーロットは気が気ではなかった。

 朝起きた時に自分が布団に包まっていた――眠る時には無かった毛布まで巻き込んでいた―ーことから薄々と予感はしていたが、改めて説明をされると情けなさと申し訳なさと恥ずかしさが入り混じる。

 思わず「お恥ずかしい限りです」と項垂れてしまう。

 キールが慌てた様子で慰めてくれるが、そんな優しい彼の布団を奪ってしまったのだ。それも応急処置で用意した毛布まで奪ってしまった。


「私、昔から狭い所で眠るのが好きだったんです。小さい頃はベッドにクッションやぬいぐるみを敷き詰めて、その中で眠っていました」

「そうか、それで布団に包まれてたんだな」

「キール様にはご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません……。やっぱり私は自室で眠る事にします」


 せっかくキールから歩み寄ってくれたのに彼に寒い思いをさせてしまった。

 しょんぼりとしながら話すシャーロットに、キールが「大丈夫だ」と告げてきた。


「俺がなんとかして二人で眠れるようにするから安心してくれ」

「キール様が? でも寒い思いをさせてしまうかもしれません。風邪をひかせてしまったら……」

「国境に居た時は布団どころか屋外の野晒しで眠る事もあったんだ、暖かい部屋のベッドの上で風邪を引いたりなんてしないさ。それに、お互い補い合うのが夫婦だと教えてくれたのはシャーロットだろう? 俺はきっとこの問題を解決する事でも愛が深まると思うんだ」

「キール様……」


 キールの優しい提案にシャーロットは自分の心がパァと晴れるのを感じ、喜びと愛が満ちた声で「はい!」と答えた。




 そうして迎えた夜、本来の掛布団に加えて二枚の薄手の布団を用意して二人は眠りについた。

 キールが「さすがに三枚は取らないだろう」と考えたのだ。この考えにシャーロットもなるほどと頷いた。

 ……だが、


「まさか全て奪われるなんてなぁ」


 キールが呟いたのは翌朝の朝食の場でのことである。



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