友人の渡してくれた魔道具のお陰で初恋が実りました
通販ぽいタイトルが最初に浮かんだ。
前略 俺に魔道具のモニターを押し付けた友人様
お前が押し付けた魔道具が役に立っています。
と言うか………。
「アンリエッタ。侯爵令嬢と言う立場を笠に着てユーリアを虐待していた事を知っている!!」
兄を含む王太子に宰相の息子。それに、騎士団の息子に辺境伯の次男。
それらに守られるように中心に居る女子生徒。
そんな集団に一人で立ち向かうのは兄の婚約者であるアンリエッタ・ローズガーデン。
「わたくしに心当たりはありません」
びしっ
毅然と言い返すアンリエッタさま。
「そ…」
「しらばっくれるな!!」
何か言い掛けた兄の背中で守られながら顔を出しているユーリア嬢(?)の言葉に被せるように大声を出す兄。
おいおい被ってますよという内心突っ込みをしたくなるのは今自分が冷静……いや、まともだからだろう。
(マイク。マジ感謝)
心の中で拝んでしまう。
数日前。
『ウィリー。国に帰るんだって?』
ウィリアムだからウィリーだなと勝手に愛称呼びをしたのは留学先のマイケルだった。
マイケル――マイクは変わり者で、こっちが隣国の王族だというのも構い無しで気さくに声を掛けて、それでいて、媚を売って利用とする輩と違って……。
うん。違って。
『お前王族なんだってな!! じゃあさ、俺の魔道具発明のスポンサーになってくれよっ!!』
と図々しい奴だった。
まあ、そんな太々しい性格でいい意味で裏表ない性格だからだから仲良くなったのだ。
で、マイクのスポンサーになって、魔道具作りを支援してきた。
そんな日々が終わり、兄が学園を卒業するので帰国しろと命令が来た。
そう。命令。
王である父からの。
…………側室の間に出来た第一王子である兄。
正室の間に出来た第二王子である俺。
もともと父は母である王妃と婚約関係であった学生時代に庶民の少女と出会い、恋を育んだ。で、婚約破棄しようと目論んだが、それを事前に気付いた祖父が未然に防いで側室という形に収まった。
………収めさせた。
それでも、蟠りがある。
ならば、子供を作らなければよかったのに父はそれぞれに男の子を作り、それで後継者争いが起きているのだが、それを解決する手っ取り早い策として、留学という体で追い出したのだ。
まあ、別に王になるつもりはないが。
で、帰国しろと命令が来たという事は、もう留学する意味がなくなるという事か。
と感慨深く思っていたけど。
『王族で臣下になると言っても公爵位とかで玉の輿目当ての女性に付き纏われるんだな。ウラヤマシイナー』
『棒読み』
ちっとも羨ましくなさそうだな。
『いやいや、ウラヤマシイヨー。だってさ。たくさん仕掛けられるハニトラに。既成事実の為の媚薬。もしかしたら惚れ薬とかもあるだろうしー。あーウラヤマシイ』
『だから棒読み』
『で、そんな親友に餞別』
ほいっ
無造作に投げられて渡された物。
『なんだこれ?』
『んっ。呪いとか術とかを無効化するアイテム』
大事に使えよと言われたのが最後。
これでもしもの時のために渡しておくなと言われたのだが……。
『で、実際使ってみてどんな感じだったか教えてくれよ』
『それが目的か』
『いいだろう。モニターになってくれよ~♪ 他にも便利道具渡しておくからさ~』
とあけっぴらに打算を告げられて逆に清々しいなと持っていたのだが。
(ありがとう親友)
あのユーリア嬢(?)ばっちり術使ってます。
と渡されたネックレスに視線を向ける。
ネックレスにはまっていた魔石の色が変わったら、術が掛けられている。と事前説明をされた。
「……」
それで確か、じっと魔石を見詰めると魔石が反応してどのような効果だったか説明文が宙に浮かぶとか。
じっと見つめていると数秒もしないうちに字が浮かんでくる。
洗脳系
魅了の香水。
香りを嗅ぐと洗脳状態になる。
広範囲。密室。密閉状態。密着していると効果増。
「…………」
思わず兄たちを見る。
ユーリア嬢(?)しっかりくっついていますね。
で、無効化されているけど、悪臭レベルで香水の匂いがユーリア嬢(?)から漂っている。
「なんですか、教科書を破くとか靴を隠すなどと子供でもしませんよ。そんな嫌がらせ」
アンリエッタさまの声が響く、どうやらこっちが魔道具の説明を見ている間に話が進んでいたようだ。
と言うか、嫌がらせと言うか……虐待。
「無理あるよな……」
何そのちゃっちいの。
「そうやって煙に巻く気かっ!!」
「いえ、事実を告げているだけです!!」
怒り心頭な兄にその周辺。冷静なアンリエッタさま。
ひそひそ
「なんて言い方なのでしょう」
「自分が公爵令嬢だからと何をしても許されると思っているのかしら」
自分の周辺からあのユーリア嬢(?)の香水の力で洗脳され掛かっている人の声が聞こえる。
「風よ」
ぼそっ
魔力を紡ぎ、閉められていた窓を乱暴に開けて、風を起こす。
「きゃっ!!」
急に入ってきた風に悲鳴が上がるのを聞いて驚かせて申し訳ないと思いつつもこれで香水の臭いが薄まったなと判断する。
『自分だけが無効化したら証拠も残らないから。これも渡すな』
と渡された魔道具が確か胸ポケットにあったなと確認すると。
「兄上」
すっとアンリエッタさまを庇うように間に立つ。
「ウィル」
「ウィル様」
マイクにウィリー呼びされていたから忘れていたけど、そういえばウィルと呼ばれていたなと思い出す。
「ウィル様……?」
香水の臭いは薄まった。ユーリア嬢(?)がこちらを窺う様な上目遣いをしてきてもあざといなとしか思えない。
「名前を呼ぶのを許した覚えないよ」
媚びを売ろうとしたユーリア嬢(?)に冷たく言い放つと。
ほっ
安堵したような吐息がアンリエッタさまから聞こえる。
怖かったんだろう。
誰も味方のいない場所で必死にそれを表に出さないで戦って……。
そんなアンリエッタさまにそっと視線を向けて頷く。
アンリエッタさまは初恋の女性だった。
最初は優しそうな笑みに心惹かれて、たくさん努力している姿。そして、それを表に出さない誇り高さにどんどん惹き込まれた。
庶民の娘である側室の子である兄の地位を盤石なモノにするために父が兄とアンリエッタさまとの婚約を決めたから一生隠し通そうと決意していた。
でも、その初恋の人が苦しんでいるのを黙っている事は出来ないし、それが何らかの術の影響ならなおさらだ。
「兄上。アンリエッタさまが行ったという証拠はありますか?」
そこに居るユーリア嬢(?)の証言だけ、とは言いませんよね。
静かに尋ねつつ、マイクの渡してくれた魔道具を起動させる。
「証拠など、ユーリアの証言だけで……」
最初は強く言い切っていた声がどんどん弱まっていく。
ざわっ
「そ、そういえば、誰も見ていないよな……」
「いつもユーリアが“きっと、アンリエッタさまが……”と言っていただけで……」
「あの方が嫌がらせを受けた時間って、ローズガーデン公爵令嬢は王城に呼ばれていない時間帯だったような……」
ひそひそと囁かれるのはアンリエッタさまを擁護する声。
「そういえば……なんでユーリアの証言だけで裏を取らなかったんだろう……。いや、そもそも……」
首を傾げてユーリア嬢(?)に視線を向ける。
「どうしたんですかぁ?」
わざとらしい語尾を伸ばした声。くっついている腕に気付いて兄が慌てて腕を外させる。
「なッ!? なんでこんなにくっついていたんだッ!?」
信じられないと呟く声に。
「どうかしたんですか? 何か……」
言い掛けて不安げに蒼褪める。
ユーリア嬢(?)に視線を向けて、そっと別の魔道具を起動させる。
「なんで、洗脳が解けて……」
ぼそっ
小さな声で呟いたつもりだが、虫型の魔道具が音声を拾い上げる。
『なんで、洗脳が解けて……』
と拾い上げた声が会場全体に響き渡る。
「何でっ!! 誰よッ!? こんな嫌がらせをするのは!!」
『「せっかくの計画が台無しじゃない!!」』
ユーリア嬢(?)の声と拾い上げた声が会場全体に響いた。
あとはまあ、騒ぎを聞きつけた兵士に連れて行かれるのは当然という事で、連れて行かれる間ずっと喚いていたが。
「で、よかったのですか?」
それから数日たった。
兄は洗脳されていたとはいえ無実のアンリエッタさまを責めた事に責任を感じ、自ら王太子の座を降りた。
当然婚約は破棄。王家に非があるとも認めていた。
それに関しても責任を取って王族から降りて、庶民になろうとしたのだが、それは父が止めた。
そこまで行ってしまうと他に操られていた者達にもっと深い罪を与えないといけなくなるからと言うが、愛する側室に頼まれたからだろうと思う。
他に操られて責めていた者達もそれぞれ罰を与えられた。
元凶のユーリア嬢(?)はどこからかの指示があったのだろうと思われて厳しく調べようとした矢先毒を盛られて亡くなっていた。
被害者であったアンリエッタさまはというと……。
「何がです?」
外で行われるお茶会と言う名のお見合い。
アンリエッタさまはこのまま別の方と婚約するだろうと思っていたらなぜかその候補に挙がったのは俺。
「なんで俺と」
戸惑ってしまうのも仕方ないだろう。
「わたくしは王妃になるために努力をしてきました。王族になるからと教えられた事をいまさら他家の為に使うには危険な内容も多いのですよ」
だからこそ選択肢は少ない。
「そ、そうですか……」
「と言うのは建前です」
やや顔を赤らめて、視線を横にずらして。
「あ、あんな状態で不安な時に味方になってくれる人がいると…あの、その……」
言いにくそうに言葉を紡ぎ。
「意識するなと言うのが無理な話です!!」
とプイッと視線を明後日の方向に向けて言われる。
その姿を見て。
「アンリエッタ」
初めて呼び捨てにする。
「なっ……!?」
動揺したように声を吃らせているさまを見て、
「ずっと好きでした。で、今も好きです」
諦めていたので恋が実るとは思っていませんでしたと告げると。
「そ、そうでしたの……」
「はい」
そっと手に触れる。
「こうやってあなたに触れる立場になれたのは貴方には申し訳ないですが、嬉しいです」
と我慢していた分愛を囁こうと決意したのだった。
と同時に。
(マイクに感謝だな。もう、あいつのスポンサーになるだけじゃなくてあいつがいいと言えば雇いたいな)
と親友に感謝するのであった。
回想しか出なかったマイケルが素直にやとわれてくれるか。