Lily
彼女はいつも
百合の花を買う
蕾だったり
咲き綻びかけたものを
いくつか
フローリングに直置きした
ずっしりと重い
四角の透明な花瓶に
それを生け
満開になるのを
今か今かと待つのだ
そばで寛いでいた
老いた飼い猫は
白い毛を花粉だらけにして
黄色い首輪をつけたようになっても
昼日中の温もりに
まだ微睡みつづけている
彼女は
重たい花瓶を持ち上げ
シンクに古い水を捨てては
真新しい水を汲む
硝子越しに揺れる
澄んだ煌めきを
その一本一本が
吸い込めるように
清い緑色の美しい茎と
きゅっと閉じた蕾の
滑らかな膨らみ
部屋中の隅々まで
染み込んだ香りが
存分にその存在を
主張している いま
彼女はもう
ひとりではない
薄いカーテンの生地から
いつしか
夕闇の蒼が
透けて立ちあらわれ
深々とした夜が
訪れようとも
彼女は
さみしさの
一番明るい場所で
百合を咲かせるのだ