93.成り代わる化け物
俺、リーフはギルマスの依頼で村を調査に来た。
そこで出会った村人のバンモさんから、この村の秘密を聞いた。
『村を、化け物が支配してるですって……?』
俺が心の中で問いかける。バンモさんとは、読唇剤を使ってるため、思念で会話が可能なのだ。
彼はうなずいて説明する。
『一週間ほど前だ。顔のない化け物がおれたちの村に来たんだ』
『顔のない……化け物?』
エリアルさんからの問いかけに、バンモさんがうなずく。
『最初は商人かと思ったんだ。だがそいつがかぶっていたフードをとると、そこには顔のない化け物がいたんだ。そして……村人を食べたんだ』
人を喰らう化け物……そんな物が居るなんて。
『そして驚くことに、その顔のない化け物は、喰った村人とそっくりの姿に変わったんだ』
『それは、変身能力があったということであるか? 吾輩のように?』
確かにタイちゃんも人間の姿に変身することができる。
でもそれは、人間の姿に変化するだけ。
話を聞いてる感じだと、その化け物は相手を喰らって、成り代わってるように思える。
『他者を喰らい成り代わる力……だろうね。変身とはちょっと違うかも』
エリアルさんの言うとおりだと俺も思った。
バンモさんは震えながら言う。
『……村の連中が次から次へと喰われていった。もう、この村で人間なのはおれくらいだ……』
……化け物に支配されてるっていうのは、化け物に村人を喰われて、成り代わられてるってことか……。
『化け物は増殖するんだ。人を喰らって成り代わり、そして新しい化け物を産む』
『なんて化け物なんだ……』
エリアルさんがぎりっ、と歯がみする。
俺も……俺も、絶対ゆるせない。
なんだそれは。他人の幸せを理不尽に奪う権利なんて、誰にもないのに!
『話は理解した。とりあえず今日はこれくらいにしよう』
『うむ……そうであるな。あまり長居すると怪しまれそうである。吾輩がバンモのそばに護衛として……主?』
俺は立ち上がって、魔法カバンから宝刀を取り出す。
これは村を出るときにもらったアイテムだ。
「わ、我が主? なにを……?」
「付与、【即死毒】!」
宝刀の刃が一瞬で黒くなる。
俺は宝刀を思い切り……。
窓の外に向かって投擲した!
ザシュッ……!
「なっ!? リーフ君、いったいなにを……?」
「敵です。外で見張ってました!」
俺は外に出る。
村人の頭に、宝刀が突き刺さっていた。
「ひっ……!」
エリアルさんが悲鳴を上げようとする。
なんか女の子みたいな声だった……気のせいだろう。
俺はナイフをずぶり、と村人の額から引き抜く。
「即死であるか?」
タイちゃんは平気そうで、死体を見下ろして尋ねてくる。
「生きてるんだろ? おまえ」
びゅるっ、と何かが俺に向かって伸びてくる。
俺はバク転してそれを交わし、宝刀で切り伏せる。
ぼと……と地面に落ちたのは、灰色の触手だ。
たおしたはずの村人が起き上がり、その右手が、まるでタコのように伸びている。
「なぜ、監視がバレた。気配は完全に消したはずなのに?」
うつろな目で村人が尋ねてくる。
見た目にだまされないぞ。こいつは、成り代わりができる化け物だ。
「匂いだよ」
「匂い? ばかな。我らは人が感じる匂いを持ち合わせない」
「ああ。だからわかった。逆に、そこだけ匂いがないから」
空気にも匂いがある。
でもこいつらにはまったく、匂いを感じない。
ならば、空気の中で匂いのない場所に、敵が居る。
「なるほど……鋭い嗅覚だ。その力……喰らってやろう」
ゴパァッ……!
「! 主! 後ろだ!」
「切った触手が増殖して……逃げろリーフ君!」
触手が一気に膨れ上がって、俺を頭から、丸呑みにしようとする。
だが……。
「うぎゃあぁああああああああああああああああああああああ!」
ぱしゃっ、と触手が水になって地面にぶちまけられる。
「ぐ、ぎ……なん……だ……これは……毒……だとぉ!?」
元村人の化け物が、ドロドロと溶けていく。
「ばか……な。人間界ごときの、毒……きくはずが」
「君の触手をサンプリングした。この細胞を破壊する薬を作った。今」
「ばか……な……なんだ……きさま……にんげん……じゃ……」
最終的に、元村人は水たまりになって消えた。
「す、すごい……リーフ君。こんな短時間に新薬を作ってしまうなんて」
驚いているエリアルさんに、俺は言う。
「ここの村人、バンモさん以外敵なら簡単です」
俺は作った薬を瓶に詰めて、掲げながら言う。
「汚物は、消毒です!」