92.助け
俺たちは村の調査へとやってきた。
出迎えてくれた村人は、何か強い恐怖を覚えている様子だった。
そして……俺たちは中に通してもらえた。
俺たちが来たのは、使われてない小屋の中。
村長はもう眠っているらしく、明日会わせてもらえるらしい。
「あやしいね」
俺たちは村人の作ってくれた料理を食べている。
正面に座るエリアルさんがそう言ったのだ。
「まだ19時だ。いくら何でも寝るのは早すぎる」
「そうですね。うちのじいちゃんばあちゃんたちは19時半に寝るので、あやしいです! 早すぎる!」
「あ、あまり変わらないのでは……?」
いや、19時なんて早すぎるぞ!
俺だって20時には寝るのに!
そのとき、ドアが自動で開く。
とっとっとっ、と誰かが歩いてるような足音。
何もない空間に、すぅ……とタイちゃん(人間)の姿が現れる。
彼女は闇の魔獣。光を吸収することで、人から見えなくすることができるのだ。
タイちゃんには村の調査に行ってもらっていた。
「どうだった、タイちゃん?」
「うむ……にらんだとおり。おかしいのである、この村」
タイちゃんが俺の隣に座って、小魚を手でつかんで「んがっ」と食べる。
もしゃもしゃ咀嚼しながらタイちゃんが見てきた者を説明してきた。
「村に人がいるのだが……みな微動だにせぬのだ」
「微動だに……しない?」
「うむ。大半の村人は瞬きせもせぬし、座ったまま虚空を見つめている」
こわっ。なんだそれは……。
「人間らしい動きをしているのは、我らを村に引き入れたあの若者くらいだな」
ううーん……やっぱりあの人に話を聞きたいなぁ。
食事を作って持ってきてくれたのも、彼だし、下膳のときに、話できないかな。
「聞いたら正直に教えてくれるますかね?」
「難しいのではないかい? 入るときに何か言いかけて、でも言ってくれなかったし」
エリアルさんの言うとおりだ。
うーん、あ、そうだ。
「これ使います?」
俺は魔法カバンのなかから、1本の薬瓶を取り出す。
「それはなんだい、リーフ君?」
「自白剤です。飲めばありとあらゆることを自白してくれます!」
「我が主よ、それを馬鹿正直に飲んでくれるだろうか?」
たしかに見知らぬ人にこれをのませるのは難しいだろう。
「俺には薬師の神杖があるから」
体内に薬物を直接注入できるという優れたアイテムだ。
しかし……エリアルさんが首を振る。
「駄目だ。彼がそれで真実を自白しても、他の連中に聞かれたらまずい」
なるほど……門番さんが、何も言わなかったのは、あの場にいなかった誰かに話を聞かれないためだったのかも。
「あ、なら簡単ですよ。どうにかなります」
そこへちょうど、門番さんが下膳にやってくる。
「ありがとうございます、門番さん!」
「……バンモだ」
門番さん改めバンモさんが、仏頂面で言う。
テキパキと片付けていく中で、俺は薬師の神杖を使って、彼に薬剤を投与する。
『バンモさん。聞こえてますか?』
『!?』
バンモさんが目を剥いて俺を見ている。
『大丈夫です。これは、読心剤の効果です』
『どくしんざい……?』
『はい。心の声で会話できるようになる薬です。今これを使ってるのは俺とバンモさん、そして仲間の二人だけ』
エリアルさんが『いつの間に投与を……』とびっくりしている。
でも状況は飲み込んでくれたのか、声に出さないでくれた。
『俺たちはバンモさんの味方です。何があったか教えてください』
彼は目を伏せて、顔をしかめ……やがて、真顔になると、食器を片付ける。
……駄目だったか。
『頼む、冒険者さん。助けてくれ!』
作業をしながら、彼は心の中で会話してきた。
『この村は、化け物に支配されてるんだ』