91.怪しい村
俺たちはギルマスの依頼で、神隠しにあったという村へとやってきた。
だがその前に、血だらけの現場を発見。痕跡をたどっていくと、目的地である村へとたどり着いたのだった。
「ここが、私たちの目的地、シバタシの村だ」
ごくありふれた村だ。平屋が並んでいる。木の柵で村を囲っていた。
そして村の入り口には……。
「ん? どちら様でしょうか?」
村人らしき若い人が、門番として立っていたのだ。
これにはエリアルさんも、そしてタイちゃんも困惑した。
「……わが主よ。報告では、村人は全員神隠しにあったのではなかったのか?」
タイちゃんが俺たちに聞こえるくらいの声量でこっそりという。
彼女の言うとおり、ここには本来人がいないはずなのだ。
エリアルさんが警戒しながらも、しかし、情報を引き出すためか、村人に声をかける。
「失礼。私たちは冒険者です」
彼女は懐からギルド証を取り出して村人に見せる。
村の若者は目をむいて、「あ……ああ……!」と何かを言いかける。
今にもエリアルさんに、何かを言おうとしているのか、詰め寄ろうとしていた。
けれどぴたりと止まると、村人は態度を一変。
「冒険者がこんなさびれた村に、何か御用ですか?」
「…………」
エリアルさんが俺を見てくる。多分意見を求めてるのだろう。
この村人は、普通の村人だ。けれど、俺にはわかる。
……何かに怯えている。強い精神的なストレスを感じてるときに出す、においを、この人は纏っていた。
こくんと俺はうなずいて見せる。エリアルさんは目で返事をして、村人と再び話し出す。
「実はモンスター狩りにこの森にきました。一泊させてもらえないでしょうか?」
ここで馬鹿正直に、神隠しの調査といってしまえうと、向こうに警戒心を抱かれるだろうからな。エリアルさんは嘘をついたのである。
村人はしばし考えた後、「村長に確認を取ってきます」といって村の中に入っていった。
俺はエリアルさんに、さっきの村人が何か恐怖を覚えていたことを告げる。
「何に怯えてるのだろうか?」
「そこまでは……タイちゃんはどう?」
ぴん、とタイちゃんが耳を動かす。
「獣やモンスターの気配はしないのである」
「となると、それ以外の何かに怯えていたことになるね」
神隠しにあったはずの村。そこで出会った普通の村人。近くには、大量の血痕。
これで何もないほうが、おかしいと思う。
「とりあえず様子を見ましょう」
「私も同意見だ」
するとさっきの村人が帰ってきて、俺たちは村に泊めてもらえることになったのだった。