89.ツッコミ役もぼけがいなとぼけ役にジョブチェンジ
リーフが村の調査へ向かう一方。
魔女マーキュリーと魔王ヴァンデスデルカは、古びた教会にいた。
ヴァンデスデルカは英雄村の魔女マーリンから、邪神ナイアーラトテップの調査を依頼されていたのだ。
邪神。魔族たちの暗躍の裏で糸を引く存在。
しかし人間社会にその存在を認知されていないことから、おそらく、人間の手引きがあるのだろうとマーリンは推測。
ヴァンデスデルカは邪神ナイアーラトテップの関係者を調査するため、王都へやってきたのである。
マーキュリーは祖母から魔王を手伝うよう言われて(※脅されて)いる。
リーフのお目付役をSランク冒険者エリアルに任せているため、今回は魔王と行動を共にするのだ。
「ふぅ……」
「どうしたんすか、マーキュリー先輩」
(いちおう)マーキュリーは、魔王が恐れている存在の孫であるため敬語を使う。
また、同じギルドに所属してるので、先輩呼びであるのだ。
「リーフ君のお守りをしなくて良いと思ったら、急に気が抜けちゃってね」
「ああ……リーフ先輩、やばいっすもんね……」
リーフ・ケミスト。生まれも育ちも英雄村。周りに化け物しかいない環境下で育ったが故に、価値観と実力がバグっている、異次元の存在。
強さとやばさが同居する、いわば猛獣のごとき存在。そんな危険人物のお目付役として、マーリンから任されている(※脅されてる)のだ。気が張ってしょうが無い。
しかしである。
「今回の冒険は、楽ね。だって相方がリーフ君じゃないんですもの」
別にリーフのことは嫌いではないし、異性としては好きだ。しかしそれはあくまで私生活面での話。戦闘や冒険において、いつも大変な目にあうのは、おもり役のマーキュリーである。
何度彼にツッコミを入れたことか……。
しかし今回相手はリーフじゃない。普通の存在だ。
「今回の冒険では、ツッコミすぎて疲れることはなさそうね」
「大丈夫っすよ。自分、あのイカレ……ごほん、英雄村の連中と違って、弱いんで」
さて。二人がやってきたのは、使われなくなってうち捨てられた教会。
「ギルドで聞いたんだけど、夜になるとこの誰も居ない教会で、人影を見かけたって情報があるわ」
「野盗がねぐらにでもしてる可能性は?」
「ないわね。王都って治安良いし。だいいち、ねぐらにするならもっと人の居ない場所にするでしょ。騎士もうろついてるんだし」
なるほど、と魔王が得心いったようにうなずく。
「まあ一発目で邪神の関係者がここに居る可能性はゼロだろうけど、念のためにね」
「なるほどっす。じゃ、廃墟調べましょう」
「ええ。でも入り口が崩壊して入れないわ。どこか窓から侵入を……」
「【万象引斥力】」
魔王の手のひらに極大の魔法陣が浮かぶ。
え……? と驚くマーキュリーをよそに、重力場がそこに発生。
山積されたがれきが、一瞬で空の彼方……否、宙へとすっ飛んでいったのだった。
ぽっかーん……とするマーキュリー。
「よし、いきましょう先輩」
「ちょ、ちょいまったぁあああああああああああああああああああああ!」
マーキュリーが待ったをかける。ほえ、と魔王がかわいらしく首をかしげた。
「なんすか先輩?」
「いや今のなに!?」
「? ただの重力魔法っすけど」
「知ってるよ! それが超高度な、複合極大魔法だってことはね!」
魔法の奥義、極大魔法。それを複数組み合わせることで、より高度な現象を起こす魔法だ。
それをこの魔王は、単独で、しかも無詠唱でやってのけたのだ。
どれだけ高度なことなのか、魔法の訓練を積んできたマーキュリーは知ってる。
一方……。
「そんな驚くことっすかね?」
魔王にとって、魔法とは常に身近にあった。複合極大魔法くらい、簡単にできて当然。
英雄たちほどではないけれど、魔王も十分に反則級だった……。
「あんたもそっち側かい! チクショウ! リーフ君、頭痛薬!」
「リーフ先輩ここにいないっすけど?」
「あああそうだったぁあああああああ! カムバッぁああグ! リーフくぅううううううううううううううううん!」
……マーキュリーの受難は続く。
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