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86.魔王、化け物に魔力量で負ける



 リーフと朝ご飯を食べた、その日の朝。

 魔王ヴァンデスデルカは、結局冒険者ギルドに向かっていた……。


「行きたくないのである……」


 なぜ好き好んで、この化け物と行動を共にせねばならぬのか。

 聖女姿になったヴァンデスデルカが深々と息をついた。


 けれどほかに仕事をしようにも、人間の世界に行く当てもない。

 また、金を稼ごうにも、魔王には人間の社会で金を稼ぐコネもつてもない。


 結局、どんな出自だろうと、実力さえあれば雇ってもらえる、冒険者とならざるを得ないのだった。

 ぽんぽん……とマーキュリーが魔王の肩を同情するように叩く。


「頑張ってね。う゛ぁー……」

「う゛ぁ?」


 はて、とリーフが首をかしげる。慌てて魔王は、マーキュリーの口を塞ぐ。

 魔王なんてバレた日には、目の前の破壊神にHAKAI★されるかもしれない。


 ややあって、冒険者ギルドに到着。

 受付嬢のニィナがリーフたちを出迎える。


「おはようリーフさんっ」

「おはようございます、ニィナさん!」


 普通に会話するリーフとニィナ。……その様子を、魔王は引き気味に見ていた。

 マーキュリーが不思議に思って首をかしげる。


「どうしたの?」

「マーキュリーさん、なんすかね……あれ……あの化け物……?」


 リーフではなく、ニィナを指さす。


「ただの受付嬢ちゃんよ」

「あれがっすか!? どう見てもやばい部類に入る輩じゃないっすかね……!」

「そうかしら?」

「そっすよ! あの聖なるオーラは尋常じゃないっす!」


 マーキュリーが首をかしげながら、ニィナに向かって鑑定眼を使う。しかし……。


「ニィナちゃんは普通の人間よ」

「なっ!? あんたの眼節穴じゃないんすか?」

「微妙に失礼だなこんちくしょう……ほんとよ。私の鑑定眼で見抜けないものはないの。人間だって表示されているわ」


 考えられるのは二択。

 本当に普通の人間か。あるいは、鑑定眼でも見抜けないほどの、高度な偽装が施されるか。

 

 ……どちらと言えば後者に分類されるように、ヴァンデスデルカは思えた。警戒しておこう。そしてできれば関わらないでおこう。と固く誓う。


「その可愛い女の子がギルド加入希望者?」

「あ、はいっす」

「じゃあこの紙に名前をご記入ください」


 ……名前。ここで馬鹿正直にヴァンデスデルカと名乗るわけにはいかない。

 少し考えて、魔王は名前を記入する。


「【デルカ】さんね」


 本名を一部切り取って偽名にする。ギルドでは別に偽名を使っても問題ないらしい。

 ヴァンデスデルカあらため、デルカは頭を下げる。


「デルカです。よろしくお願いしますっす」

「よろしくデルカさん! 俺はリーフ! 薬師やってます!」


 化け物じゃなくて? と突っ込みたくなるのをぐっとこらえて、デルカは「どうもっす」と挨拶をする。


「じゃあデルカさんには試験を受けてもらうわね」

「試験っすか?」

「そう。このギルドに入るための二つの試験があるの。魔力測定と、戦闘試験」


 リーフも受けた試験である。魔王はふふっ、と笑う。


「受けて立つっすよ」

「あら、ずいぶんと自信ありそうじゃない?」


 マーキュリーに言われて、魔王は得意げにうなずく。


「自分、魔力には自信あるんで」


 なにせ魔王である。魔族たちの王ゆえに、魔力量は魔族最高である。

 ニィナは水晶玉を持ってくる。


「あれ、ニィナさん。なんか水晶玉、色が俺の時と違いますよね?」


 リーフの時は透明なそれだったが、今は黒い色をしている。

 ニィナがうなずいて説明してくれた。


「リーフさんが壊しちゃったので、今度こそ、絶対、100パーセント壊れない、頑丈な測定器を作ったんですよ」


 なるほど、と納得するリーフ。魔王は水晶玉を見て思う。

 さっきから驚かされてばかりで、なんだかむかつく。今度こそ、自分がすごいことを証明して見せよう! と。


 大丈夫。自分は魔王。魔力量なら魔族の誰にも負けない。たとえこの場にいる全員が化け物だったとしても、魔法と魔力は魔族の専売特許だから。


 誰にも負けるわけがない! と。意気込みながら、魔王が水晶玉に触れる。


「かぁー!」


 黒かった水晶玉が、黄金の色へと変化する。


「おー! すごいですよデルカさん! 最高位です!」

「はっはー! やったっす!」


 ふふん、と胸を張るデルカ。一方で、リーフは「そういえば」と水晶玉を見ながらつぶやく。


「結局俺……魔力測定ってできなかったんですよね」


 以前は水晶玉をぶっ壊してしまって、測定不可能で終わったのだ。


「俺もやって見よう!」

「え、ちょ、り、リーフさん!?」


 デルカが触れてる水晶玉の、側面にぺたりと触れる。


「てい」


 軽く魔力を込めた……そのときだった。

 黄金の色に輝いていた水晶玉が、またしてもどす黒い色へと変化。


「デルカ!! 逃げて!」

「ひょ?」


 ちゅどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!


 ……リーフの込めたあまりの魔力量に、測定器はまたもぶっ壊れてしまったのだ。

 爆撃をもろに受けたヴァンデスデルカは、もちろん死亡。そして当たり前のように蘇生させられる。


「かはっ! はぁ……はぁ……なん、すか。なんすか今のでたらめな魔力量!?」


 あきらかに、魔王を凌駕する魔力量だった。

 信じられない。魔族の王を超えるなんて……。


「何者なんすかあんた!?」

「え、ただの薬師ですけど」

「んわけあるかぁああああああああああああああああああ!」


 と、マーキュリーのかわりに、ヴァンデスデルカが突っ込んだのだった。


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