85.魔王、胃袋を掴まされる
リーフ・ケミストとともに同居することになった、翌日。
魔王ヴァンデスデルカは目を覚ます。
「……悪夢だ」
英雄村出身の化け物(※リーフ)と同居する夢を見てしまった。
アレは嘘であって欲しいと切実に願う。
「ここは……?」
「あ、起きました?」
そのとき部屋に入ってきたのは、二度と顔を見たくないと思っていた相手……。
英雄村のひとり、リーフだ。その顔を見た瞬間、ヴァンデスデルカは再びベッドに倒れた。
「悪夢が覚めてくれない……」
「大丈夫ですかっ! 完全回復薬のみます?」
そう言ってリーフが完全回復薬(※魔族用)を取り出してくる。
いや冷静に考えて、完全回復薬に魔族用とかあるのおかしいと思う……とヴァンデスデルカは内心でツッコミを入れる。
「だ、大丈夫っす……まじで……」
「そうですか? 昨日は心配しましたよ。急に気絶するんですもん」
マーリンの孫、マーキュリーの家に来たあと、この化け物(※リーフ)も一緒に住むとしったヴァンデスデルカは、あまりの恐怖と精神的負荷で気絶したのである。
「元気になってよかったです!」
と笑顔になるリーフを見て、ヴァンデスデルカは思う。
(悪い子じゃないんだろうけど、怖すぎるわそのオーラ……)
魔王には第六感という、敵の強さを肌で感じ取る能力がある。
リーフから発するオーラは、これまで見たどの人間のそれより恐ろしいものだ。
あの英雄村のアーサーもマーリンもやばいが、この男は特に桁外れだ。
村の老人たちは完成された作品。一方で、このリーフという作品は仕上がっていない現段階で、もうやばいのだ。
(適当に金稼いだら、適当にこの家を去ろう……長く居たら死ぬ……)
マーリンの指令は邪神の協力者を探すことである。別にここを拠点とする必要はないのだ。
生活費を稼げたら、さっさと出て行こうと固く誓う。
「そうだ、朝ご飯できてますよ?」
「朝ご飯……」
「はい。さっ、どうぞどうぞ! 昨日夜ご飯食べてないでしょ?」
確かに夕飯前に気絶して、それ以降何も腹に入れていなかった。この化け物の作る料理だ。さぞおぞましい物に決まってる……と思ったのだが。
「…………」
目の前に並んでいたのは、魔王が見たことのないもの。
白米に味噌汁、そして焼き魚。
どれもこの世界の常識に照らし合わせると、見たことない食い物だった。(英雄村の郷土料理である)
しかしなんだ、このおいしそうなにおいは……。
「どうぞ」
ヴァンデスデルカは茶色いスープを一口すする。
そして……。
「う、うまぁい!」
あり得ないほど、おいしかった。ヴァンデスデルカはズズズッ、と味噌スープを一気に飲み干してしまう。
リーフの料理の腕は、英雄村でも抜きん出居ている。魔王は彼の作る料理を夢中で口に運んだ。
やがて、満足そうに息をつく。
「うまかったぞ……」
こういうのは、気が引けたが、お世辞抜きでおいしかったのだ。
リーフは嬉しそうに笑う。
……まあ、この料理に免じて、少しの間、一緒に居てやろうかなと思う魔王であった。
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