81.パシリ魔王は王都へ向かう
リーフ・ケミストの故郷デッドエンド村を訪れた、魔王ヴァンデスデルカ。
その数日後。ヴァンデスデルカはゲータ・ニィガ王国の王都、ニィガ付近まで来ていた。
「ここが人間の国っすか……」
そこに居たのは、魔王ヴァンデスデルカ……とは、似ても似つかぬ可憐な少女。
白い法衣に身を包み、髪の毛も白く、目だけが赤い。
外見の年齢は15歳くらいだろうか。
儚げな見た目の、まさに聖女のような格好をした……魔王。
「なんで自分が、こんな格好で、こんなことする羽目に……」
話は数日前まで遡る。
『う゛ぁんちゃん、あなた、リーフちゃんのとこへ行ってきなさい』
大魔女のマーリンが、魔王にそう命じてきたのだ。
『な、なぜわれがそんなことを……?』
『黒幕は邪神だったでしょう? 魔なる物達が今以上に活性化する可能性があります。う゛ぁんちゃんは人間界へ行き、邪神達の動きを探ってきなさい』
『邪神達……って、魔族以外も関わってるんすかね?』
『人間の世界で邪神が動くには、かならず人間の協力者が必要です。そうでなきゃすぐにバレてしまいます』
たしかに邪悪なる物達が、なんの後ろ盾もなくうごめいていたら、一発で人間達にバレるだろう。
人間の国が平和ということはつまり、邪神達は影に隠れて活動しているということ。
その手引きを……人間がしている可能性がある、とマーリンは危惧しており、それを魔王に探らせようとしているのだ。
『行ってくれますね?』
『い、いやぁ……』
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
『行って、くれますね?』
ヴァンデスデルカのすぐ右隣に、巨大なクレーターが出現していた。
マーリンがいつの間にか風槌を発動させていたらしい。
脳裏に、ミンチになったアーサーの姿がよぎる。
『い、きまぁしゅぅ~……』
かくして、魔王ヴァンデスデルカは
邪神達の動向を探るべく、英雄達のパシリとして、人間界へと単身向かう羽目となったのだった。
「しかし凄いっすね、このボディ。本物の人間みたいっす」
ヴァンデスデルカはどう見ても、人間の、しかも美少女に見える。
彼女の格好は、天導教会という世界最大規模の宗教組織に属する癒やし手、【聖女】のそれだ。
「つーかあのでかい組織の聖女のふりして、バレたら殺されるんじゃねーっすかね?」
ヴァンデスデルカの耳にはイヤリングがついてる。
きらんと光ると、マーリンの声が聞こえてきた。
『大丈夫ですよ。天導教会の大聖女さんからは、了承を得てますから』
「え!? いつのまに!?」
このイヤリングをとおして、ヴァンデスデルカとマーリンは意思疎通ができる。
遠く離れていても会話できるよう、もたせたのである。
『うちの村には天導教会に強い影響力を持つ英雄がいますから』
「まじっすか……あの村、ほんとやばいっすね……」
さて。
ヴァンデスデルカが美少女の格好をしているのは、魔王の格好では非常に目立つからだ。
人間の社会に溶け込むため、そして何より、魔族とばったり鉢合わせたときに、バレないため。
このよりしろとも言うべき体は、マーリンが魔法で作った体である。
そこにヴァンデスデルカの意識をインストールしているような形だ。
ちなみに元の体には、マーリンの使い魔の魂が入ってる。
「大丈夫っすかね……魔族達、自分が中身入れ替わってるってばれないかなぁ……」
『大丈夫みたいですよ。むしろ、いつもより知性的でさらに人気者になってるみたいですね』
「それはそれで悲しいっす!」
まさか使い魔ごときに、人気を奪われるなんて……。
『う゛ぁんちゃん。わたしとの通話はそう何度もできないから注意してね』
「え、そうなんすか?」
『ええ。下界には過干渉してはいけないって村の掟であるから』
もう既に結構干渉してるような気がするのだが……。
『定時連絡以外は、基本的に通話しないようにしますから。どうしてもピンチなとき以外は、自分で対処なさい』
対処なさいって……あんたが無理矢理やらせてるんだろ……と内心でぼやく魔王。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
……ヴァンデスデルカの真横に、大穴があく。
『ちなみにその体には発信器と簡単な術式が織り込まれてるから、その体を媒介にして魔法が遠隔で放てますからねぇ』
術式が付与された体。
つまりマーリンの魔法を、使えるということ。
しかしその発動はマーリンがリモートで発動できるらしい。
気に食わないことをしたり、裏切るようなマネをしたら……。
魔法を、容赦なくこの体に、叩き込むだろう。
『がんばってスパイ、やって、くれるかなぁ~?』
「い、いいともぉ~……」
半泣きになりながら、魔王ヴァンデスデルカは、王都へと向かうのだった。
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