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8.魔族の陰謀を阻止する


 公爵令嬢プリシラの母親を治療した俺。

 母ちゃんは誰かに毒を盛られた疑惑があった。


 このまま治っても、また犯人の標的にされるだろうと思った俺は、【一芝居】打つことにした。


 王都に到着した日の夜。

 俺は、グラハム公爵邸の食堂にいた。


「今日は妻の快気祝いの晩さん会だ! みな、存分に食べていってくれ!」


 食堂の上座に座るのは、グラハム公爵ことサイファーさん。

 その右隣に、奥さんのディアンヌさん。左隣にプリシラ。そして俺。


 この屋敷に勤めているメイドやコックなど、全員を集めての晩さん会だ。


「公爵閣下! 遅れて大変もうしわけありませぬ!」

「おお、【ワルダクーミ】! 遅かったな」


 入ってきたのは、ひょろひょろとした体型の、陰気な男だ。


「……プリシラ。誰だ、あいつ?」

「……この屋敷の筆頭執事です。お父様の補佐官もしております」

「……ふぅん」


 ワルダクーミはプリシラの母ちゃんを見て、大仰に驚いてみせる。


「おお! ディアンヌ様! 聞いたときはにわかには信じられませんでしたが! 本当に病気から回復なさったのですねぇ!」

「ええ、ワルダクーミ。ありがとう。色々とご心配をおかけしたわね」

「いえいえとんでもない! 奥様が倒れたと聞いたときは、ワタクシ、胸が張り裂けそうでございましたよ! 職を失って途方に暮れていたワタクシを拾ってくださったのは、奥様ですから。恩人が助かって、ほっとしておりますぅ!」


 そう言って、ニコニコと笑みを浮かべるワルダクーミ。


「さ、今日は祝いの席だ! ワルダクーミ、おまえも一緒にメシを食え!」

「ええ、ええ、そうさせていただきますぅ」


 ちら……とグラハム公爵が俺を見てくる。

 俺は【すん……】と【鼻を鳴らし】、そして……うなずく。


 グラハム公爵はうなずいて言う。


「そうだ、ワルダクーミ」

「なんでしょう、閣下」

「たまには、近くでメシを食べないか?」


 ワルダクーミは食堂の長いテーブルの、下座に坐ろうとしていた。

 だがグラハム公爵は、近くに寄れという。


「……そうですわ。私は、たまには下座のほうで食べましょう」


 奥さんのディアンヌさんがうなずいて立ち上がる。


「……さぁ、こちらに。私はそちらの料理を食べますので、ワルダクーミ、あなたは【私が食べる予定だったご飯】をお食べください」

「なっ……!?」


 ぎょっ、とワルダクーミが目を剥く。

 ……どうやら、俺の予想どおりのようだ。


「い、いやいや! わ、ワタクシのような下々のものが、閣下と近くで食事なんて……」

「……いいから、ワルダクーミ。さぁ、私が食べる予定だったこの食事を、あなたが食べてみなさい」

「いえいえ! 結構です!」


 ……強く拒んでいる。

 もうこれは確定的だな。


 グラハム公爵をもう一度見る。

 俺はうなずいて見せた。彼は、諦めたように首を縦に振った。


「なあ、あんた。ワルダクーミさん」

「……なんでしょう? というより、どなたですかな?」

「俺はリーフ・ケミスト。辺境の薬師だ。悪いが、あんたの悪企みは、全部お見通しだ」

「ふんっ、何を馬鹿なことを……悪巧み? このワタシが?」


 どうやらしらを切るつもりらしい。

 想定の範囲内だ。


「実は今、あんたが食べようとしてる料理、ディアンヌさんのなんだよ」

「なっ!? なぜそんなことを!?」

「深い意味はない。さ、食えよ。早く食って見ろよ」


 ワルダクーミは青い顔をして、目の前の皿を見ている。


「わ、ワタシはお腹がいっぱいでして! お食事は控えて……」

「遠慮すんなって」


 俺は近づいて、皿の上のグリルチキンを手に取る。

 それを無理矢理ワルダクーミの口につっこんだ。


「!? んぼっ、げっ、げえー!」


 ワルダクーミはすぐさまグリルチキンを吐き出す。


「ば、馬鹿やろぉお! 死んだらどうするんだぁ……!」


 毒物を口の中に突っ込まれたんだ、そりゃすぐに吐き出すし、こういう反応をするだろう。


「死なないよ。だって料理なんて入れ替えてないからな」

「なっ!? き、貴様! 嘘をついたのか! なんでそんなことを!」

「間抜けをあぶり出すためだ」

「あ……」


 ……そう、もうこのリアクションで、わかったようなものだ。


「ディアンヌさんのお皿に毒を盛ったのは、ワルダクーミ。おまえだ。そして、ディアンヌさんを病気にしたのもおまえだ」

「ち、ちが……違う! わ、ワタシは何もしていない!」

「じゃあなんで、ディアンヌさんの料理を口にして、吐き出したんだ? 毒物が入ってるって、わかっていたからじゃないのか?」

「ぐ、ぐぅう……そ、それは……」


 反論できないのか、ワルダクーミがぷるぷると震えている。


「く、くそぉおおおおお!」


 ワルダクーミが懐に手を突っ込む。

 拳銃を取り出し、ディアンヌさんに銃口を向ける。


 俺はすぐさま薬師の神杖をやつに向けてスキルを発動した。


「【調剤:麻痺薬パラライズ】」

「ぐがぁ……!」


 俺の調合した麻痺薬が、ワルダクーミの身体をしびれさせる。

 その場にどさっ、と倒れ伏す。


「な、ぜ……料理に、毒を盛ったとわかった……」

「簡単だ。俺は、今日の晩さん会に出される料理の、毒味を行ったからだ」

「毒味……だと?」


 俺はディアンヌさんの席までいき、グリルチキンを手に取って、戻ってくる。

 ワルダクーミの目の前で食ってみせる。

「ば、かが……! 毒で死ぬぞ!」

「そうだな。今回のは無味無臭の即死毒。だが……俺には効かない」

「ば、かなぁ……どうして?」

「俺が【毒無効】の体質だからだよ」


 プリシラがそれを聞いて訊ねてくる。


「毒が効かない体ということですか? スキル……でしょうか?」

「いいや、単純に体質。小さい頃から、修行の一環で、少量の毒草や毒性物を食べてたから、気づいたら毒が効かない体質になってたんだよ」


 毒にもなり得る薬を取り扱う以上、その効果を正しく理解しておく必要がある。

 師匠の教えで、俺は小さい頃から自分の身体で、毒を使った実験(※修行)を行っていた。


 微量の毒を少しずつ摂取していった結果、あらゆる毒が効かない体質になっている。


 ちなみにこの【毒無効】体質を利用して、面白いことが出来るのだが……まあそれは追々。


「し、しかし……しかし! 毒が入っていたからといって、ワタシが入れた証拠がどこにある!?」

「匂いだよ」

「匂いだと!?」


 俺は自分の鼻を指さす。


「俺は、鼻が良いんだ。小さい頃からいろんな薬草や毒花を嗅いできたからな」


 毒の判断において、匂いも重要だと言うことで、嗅ぎ分ける訓練もしてきた。

 その結果、鋭い嗅覚を手に入れたのである。


「ばかな! 無味無臭の毒だぞ!? 匂いなどするわけがない!」

「ああそうだ。だがな、食堂には残っていたぜ。あんたの髪につけてる、ポマードの匂いが」


 この筆頭執事はさっきまで外出していたと、グラハム公爵から聞いた。

 外に出ていた人間が、主人への挨拶より先に、厨房になぜ現れるのか……?


 それはディアンヌさんの料理に、こっそり毒を盛ったからに他ならない。


「異次元に鋭敏な嗅覚に……毒無効の体質だと。貴様……サイファーの雇った毒味係か!?」

「いや、ただの辺境の薬師だよ」

「貴様のような薬師がいてたまるかぁ……!」


 さて、ディアンヌさんの暗殺はこうして未然に防げた。

 これにて、一件落着だな。


 グラハム公爵が、倒れているワルダクーミに、悲しいまなざしを送る。


「ワルダクーミ……なぜ、こんなことを……?」

「く、くく……くははははは!」


 にやりと、邪悪な笑みを浮かべるワルダクーミ。


「決まってるだろ! ワタシが……人間の敵だからだぁ……!」


 その瞬間、ワルダクーミの顔に【あざ】が発生する。

 そしてやつの身体が、ぼこぼこと隆起しだした。


 側頭部からにゅっと角が生え出す。


「その痣に……角……まさか! 貴様は……! 魔族!」


 グラハム公爵が信じられないといった目を、ワルダクーミに向ける。

 ドンドンとデカくなっていくこいつが……魔族?


『ふははは! そうだぁ! 王国を内部から浸食していくつもりだったが、こうなっては仕方あるまい!』


 どんどんとでっかくなっていくワルダクーミ。


「そんな……! 魔族が王国内部にスパイとして入り込んでいたなんて!」

「お逃げください、皆様!」


 女剣士リリスが剣を抜いて、ワルダクーミに剣先を向ける。

 だが……かたかた……と震えていた。


 竜王のときと同じだな。戦いに対してトラウマでもあるのだろうか。


『ふははあ! 無駄だぁ! ワタシの戦闘力は人間サルを遥かに凌駕して……』

「【調剤:睡眠薬スリープ】」

『や……ぐぅう……』


 どさり……! とワルダクーミがその場に倒れる。


「「「「え?」」」」

「【調剤:致死猛毒デス・ポイズン】」


 じゅぉ……! とワルダクーミがその場でドロドロに溶けて、あとには何も残らなかった。


「「「え……?」」」

「あれ? なんかまずかった? 敵っぽかったから、倒したんだけど」


 てゆーか、敵のくせにべらべらとしゃべりすぎだ。

 こんなの、倒してくれと言わんばかりじゃないか。


 睡眠薬スリープで強制的に眠らせ、そして致死猛毒薬デス・ポイズンを宝刀に付与して、刃をぶっさした。


 で、相手を倒したわけ。


「す、すごい……すごすぎる……魔族を、ワンパンだと……?」


 ぽかんとしていたリリスが、声を震わせながら言う。


「ワンパンって言うか、まあ奇襲みたいなもんだな。あんだけ隙だらけだったら、誰でもあんなの簡単に倒せるだろ?」


 口を大きく開いていたリリスが、やがて怒りで声を震わせながら言う。


「どこの世界に、魔族がワンパンできるやつがいるっていうんだよぉおおおおおおおおおおおおお!」

「え、ここにいるけど」

「あんたは異常なんだよぉおおおおおおおおおおおおおおお!」


 え、なんで俺、怒られてるんだ……?


 するとグラハム公爵は、泣きながら俺の手を握って、何度も頭を下げる。


「ありがとうリーフ・ケミスト君……! 君は妻の命の恩人だけじゃなくて、王国を救った……英雄だ!」


 そんな大げさなことを言われる。

 英雄……?


 ははっ。


「何言ってるんですか。英雄なわけないですよ」


 英雄って言うのは、アーサーじーちゃんやマーリンばーちゃんたち、デッドエンド村のじーさまがたのことを言うんだ。

 あの人らと比べたら、まだまだ、俺はひよっこもいいところだもんな。 

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― 新着の感想 ―
[一言] ラストダンジョンと異世界スマホと似ている展開だが、チート系の爽快感があっていいね
[一言] この魔族はアホ設定なのかしら 公爵家全員に毒を盛ればいいのにね 奥さんだけという理由が不明だよね
[気になる点] >> あなたは【私が食べる予定だったご飯】をお食べください >> 実は今、あんたが食べようとしてる料理、ディアンヌさんのなんだよ 内容が被っている
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