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76.魔女とSランク



 リーフ・ケミストによる地獄の特訓が開始されている。

 ボスをサンドバッグにした訓練と言う名の(無自覚な)しごきがあった、夜。


 所属するギルド、天与てんよの原石、そのギルメン寮にて。


「はぁ……」


 Sランク冒険者、エリアルは自分の部屋にいた。

 身につけている鎧を外し、シャツを脱ぐ。


 上半身はさらし一枚となる。

 かなりきつく巻いてるが、しかし、その胸はかなり大きい。


 首からぶら下げているペンダントをつけたまま、さらしをはずそうとしたそのとき。


 コンコン……。

 どきっ! とエリアルの心臓が、体に悪いはねかたをする。


 慌ててシャツを着込もうとするが……。


『エリアル、私よ』


 その声を聞いて、安堵の息をつく。

 さらしの状態のまま、エリアルはドアを開けた。


「こんばんは、マーキュリー」

「ええ、こんばんは。ちょっといい?」


 こくんとエリアルがうなずく。

 たぷんと揺れるその乳房を見て、マーキュリーがグヌヌとうなる。


 椅子に座るマーキュリー。エリアルはベッドに座って、さらしをとる。


「お、っきぃわね、相変わらず」

「ん。ああ……」


 胸の大きさを褒められても、しかしエリアルはまったくうれしくなかった。

 彼女は、男として生きる道を選んだからである。


「女らしさなんて要らないんだけどな」

「……全部欲しいくらいだわ」


 心底、うらやましそうにエリアルのその大きな胸を見つめるマーキュリー。


「それで、私になにか用事かい?」

「ん。まあ……あれよ。それ、護符」


 エリアルの胸から下げている護符を指さす。


「認識阻害の魔法が、解けかけてるわ。貸して」

「ああ、すまない。いつもありがとう」


 エリアルはペンダント……護符を、首から外してマーキュリーに渡す。

 マーキュリーは右手を護符に掲げながら魔法をかけ直す。


「難儀よね。そんなに綺麗で、顔も整ってて、かわいいのに。男のふりしないといけないなんてね」

「……いいさ。これは、私が選んでやってることだから」


 女として生きる道も、かつてはあった。

 でも今はもう、その生き方は捨てた。……なのに。


 思い詰めていると、マーキュリーが不安そうな表情で聞いてくる。


「ねえ……エリアル。なんかちょっと……最近変よ」

「変……かな」

「うん。変。ずっと貴女を見てきたからわかるわ。最近ずっと表情が硬い」


 エリアルとマーキュリーは、付き合いが長い。

 ほぼ同期にこのギルドに入った。


 この【男に見える護符】を作ってもらってから今日まで、エリアルが実は女であるという最大の秘密を共有する、たった一人の共犯者。


 近くに居て、深い友達である彼女が、そう言ってる。だからそれはただしいのだ。


「……なんで?」

「…………」


 エリアルは目を閉じる。

 アシュラトロールを一撃で粉砕する、真の強い男の姿を思い出して、ため息をついた。


「……最近、痛感させられるんだ。自分は所詮、まがい物のSランクだって」


 ギルドには三人のSランク冒険者がいる。

 エリアル。黒銀こくぎんの召喚士。そして……リーフ・ケミスト。


「黒銀さんは、私よりキャリアが長い。勝てないのはしょうがないって。でも……」

「……そっか。リーフ君は、後から入ってきたから」

「そう……後から来たのに、凄い速度で追い越されて……正直、参ってしまったよ。はは……なんだ、あれは」


 異次元、というほかない。

 あんなに小さいのに、そのうちに秘めているのはまさに、人外の力。


 正直……あれが人の形をしてるモンスターにしか見えない。


「……あなたは、不幸ねエリアル」


 マーキュリーが魔法をかけながら、切なげな表情になる。


「なまじ才能があるから、見えてしまうのね。あの化け物と自分との間にある、溝の大きさが」

「…………」

「普通の人間なら、あの規格外のパワーを【なんか知らないけどすごい】程度にしか感じない。見えてるんじゃないわ。凄いの次元が違いすぎて、わからないのよ。どの程度すごいのかって」


 でもエリアルには武芸の才能がある。

 己の力量、そしてリーフの力量。

 その二つにどれくらいの差があるのかが、わかる。


 ……だが、わかるからどうだというのだ。


 マーキュリーは魔法をかけ終わって、彼女に護符をかけてあげる。

 これをつけることで、よほどのこと(裸を直接見られる)がないかぎり、女として認識されない。


 高度な魔法であるけど、マーキュリーには自分の成果を誇らしいとは思わない。


「ごめんなさい。私は……あなたに何もしてあげられないわ。高みを目指そうともがくあなたを、導いてあげることも、悩みを共有してあげることも」

「……いや、いい。ありがとう。少し楽になったよ」


 マーキュリーが、悲しげな表情になる。

 彼女目に映る自分の、なんとしょぼくれた表情だろうか。

 楽になったと口ではそういっても、全然、胸に抱いたこの不安の重みが軽くならない。


 マーキュリーもそれがわかってるからか、申し訳なさそうに頭を下げる。

 友達に、そんな顔をさせてしまったことで、エリアルはまた落ち込んでしまう。

「……すべてを投げ出せたら、どれだけ楽だろうか」

「それでも……投げ出さないのね」


 ああ、とエリアルはうなずくのだった。

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