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75.本物の、Sランク【怪物】



 リーフ・ケミストが所属するギルドのメンバー達を鍛えている。

 Sランク冒険者のエリアルたちは、ダンジョンの最奥にいた。


 顔が三つ、腕が三組あるアシュラトロール。

 敵の攻撃を受けてエリアルは死んだ……が、リーフの作った薬で直ぐに復活した。


「さ! 敵はまだ生きてます! がんがんやりましょう! 大丈夫、死んでも俺がいますから!」


 笑顔でそう言い放つ彼を見て、エリアルはこう思った。


(ああ、本物だ……)


 本物。つまりは、本物の化け物だということ。


(化け物を見るのは、二度目だ)


 かつて、同じくSランク冒険者である【黒銀こくぎんの召喚士】の戦いっぷりを見たことがある。


 ……脳裏によぎるのは、炎に沈んだ草原。

 その中に一人立つ、黒いコートに、銀の仮面の男。


 火の海を起こしたのは、魔神と呼ばれる恐ろしい化け物。

 その化け物を、黒銀は瞬殺したのである。


 化け物は無数の剣で貫かれている。

 エリアルは這いつくばっていた。


 エリアルが決死の覚悟で挑んだ相手を、彼は軽々とたおしてみせたのである。


 スッ……と彼が手を振ると、炎の海が一瞬にして消える。

 魔法使い達が消そうと躍起になって、水の魔法をかけても消えなかった、魔炎が。


『…………』


 黒銀の召喚士は、何の感慨もなく立ち去っていく。

 まるで、あの恐ろしい魔神をたおしたことなど、興味ないようであった。


 魔神。国を滅ぼしたという記録さえある化け物を討伐した。それが人に知られれば、彼は英雄としてもてはやされることだろう。


 だがそんな名誉なんて、どうでもいいとばかりに、黒銀の召喚士は立ち去っていった。

 ……圧倒的な力に、常人には理解できない思考回路。


「君も……また本物ばけものだよ、リーフ君」

「え、なんですかー?」


 回想から現実に戻ってくる。

 目の前には巨大なアシュラトロール。


 他のギルメン達は完全に怯えきっている。

 目の前のモンスターがあまりに恐ろしい姿をしているから。


 けれど、そんな中でリーフだけはけろっとしてる。


「あ、わかった!」


 リーフが得心いったようにうなずく。

 マーキュリーがほっと安堵の息をついた。


「よーやくわかってくれたのね……」


 おそらくこの練習方法が、異常であると、常人には無理だと理解してくれたのだろう。

 エリアルもまたほっとする。


「はい! たおし方のお手本を見せてなかったから、たおせないんですよねっ?

「全然わかってねえ……!!!!」


 思わずツッコむマーキュリー。

 リーフは自分の考えが正しいと思ってるらしく「そっかそっかぁ」と何度もうなずいてる。


「ひょっとして彼はば……」


 思わず、暴言が出かけるエリアル。

 マーキュリーは同意するように、何度もうなずいた。


「そうなのあのこ、頭のネジがないの」


 ぶっ飛んでるんじゃなくて、そもそもない。

 ……なるほど。


「あれが……本物か」


 本物の怪物か、というニュアンスでエリアルが言う。


「ええ……あれが、本物よ」


 本物の馬鹿よ、というニュアンスでマーキュリーが言う。絶妙に会話がかみあっていなかった。


 リーフは周りを見渡していう。


「はいじゃ、お手本みせますねー!」


 怪物が直々に、戦い方を伝授してくれるという。

 よく見て、ものにしないと。


「せい」


 パァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンン……!


 瞬きした一瞬で、アシュラトロールが、消えていたのだ。


「「「は……?」」」


 リーフは上空にいる。

 すとん、と華麗に着地を決めた。


「ほら、簡単でしょ? わかりましたか?」

「「「わかるかぁああああああああああああああああああああああああああ!」」」


 マーキュリーを含め、ギルメン達がツッコミを入れる。

 エリアルは……ただ、彼のすごさに圧倒されていた。


 エリアルは自分を卑下しているが、彼女もまた十分に強い。

 現にこの中でたった一人、リーフの行った一連の動作を目で追えていたのだ。


「…………」


 リーフはまず飛び上がった。

 一瞬でアシュラトロールの顔面近くまで移動する。


 そして6つの目玉を、一度のパンチで潰したのだ。

 ……何を言ってるのかわからないと思うが、本当に、一回拳を繰り出して、6つの目玉が潰れたのである。


 わかったのは、それがエリアルの理解の外にある攻撃である、ということ。


「…………」


 ギルメン達は、幸せだ。リーフとの距離が目で見えないからだ。

 エリアルは……不幸だ。このギルドで彼女だけが、リーフと自分との力量差を、理解できる。


 それは彼女に才能があることの裏返しであるのだが……。

 エリアルは、落ち込んでしまう。自分は駄目だと、思い込んでしまう。


「エリアル……」


 マーキュリーだけは、暗い表情をしているエリアルに気づいたようだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] マーキュリーさんも間違いなくSランクだな・・・
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