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74.ボスをサンドバッグにする



 ギルメンの皆さんを鍛えている。

 ランニングをして全身の筋肉を鍛え、魔力撃を使って魔力量を増やす。


 そんな風にして数日。


「さて基礎練習は終了です! 今日から実践稽古です!」


 俺たちがいるのは、王都からほど近くに出現したダンジョン。


「最近ここ、合宿所みたいになってるわよね……恐ろしいダンジョンのはずなのに……」


 マーキュリーさんがぐったりしながら言う。

 どうしたんだろう、完全回復薬エリクサー飲む?


「実践って、具体的に何をするんだい?」


 Sランク冒険者のエリアルさんが尋ねてきたので、俺は答える。


「ボス相手に、模擬戦です!」

「「「は……?」」」


 エリアルさんを含めて、原石の皆さんたちが目をむいている。


「り、リーフ君……今なんて?」

「だから、ボスを相手に実践練習です」

「いやいやいや! ボスって結構強いのよ!? それを相手に実践練習ですって……」


 俺たちがやってきたのは、ボス部屋。

 そこでは俺の薬で仮死状態になってる、ボスがいる。


 見上げるほどの巨体を持つモンスター、トロル。

 だが普通のトロールじゃない……。


「なんだ、このトロールは……?」

「アシュラトロールよ……」


 マーキュリーさんが鑑定眼で見てそうつぶやく。

 通常のトロールとちがって、腕が6本、顔が3つある。


 それぞれの腕には武器が握られている。


「見ての通り強そうな、Sランクモンスターよ」

「はい、こいつを倒してください!」

「いやいやいや! リーフ君!? 死んじゃう! Sランクモンスターなのよ!? Sランク冒険者がきちんと武装して準備して、頑張って挑んで、やっと勝てるレベルなのよ!」

「大丈夫です!」

「だから! 君の大丈夫は大丈夫じゃないんだってば……!!!!!!」


 俺はエリアルさんを指名する。


「あいつを一人で倒してください!」

「ひ、一人で……かい?」

「はい! Sランク冒険者なら、倒せるんですよね?」


 マーキュリーさんが「これで煽ってないんだから天然よね……」とあきれていた。煽る? なんだろう。

 エリアルさんはこくんとうなずいて、武器である剣を抜く。


「あ! 駄目ですよ、武器はなしです」


 俺はエリアルさんから武器を回収。けど、彼はなんだか、すごく驚いていた。


「い、いつの間に私の武器を!?」

「え、普通に近づいて回収しただけですけど?」

「まるで……見えなかった……」

「あれ? 眠ってたんですか?」


 うぐぐ、とエリアルさんが何かとても言いたげな表情をしてる。

 マーキュリーさんが「あなたほんと我慢強いわね……」とエリアルさんの肩を叩いていた。仲良し!


「素手で倒せって言うのかい!? あの、巨大な化け物を!?」

「はい! 大丈夫です!」

「い、いやさすがに素手は……せめて武器を……」

「大丈夫、大丈夫です! さあれっつごー!」


 エリアルさんがすごい躊躇してたけど、でも、結局は気合いを入れてボスの前に立つ。

 アシュラトロールを見上げて、ごくり……と息をのんでいる。


「じゃ、いきまーす」

「ちょ、ノリかる! 大丈夫なのリーフ君!?」

「大丈夫! 死んでもバラバラになっても、俺が復活させますので!」

「怖いんですけどぉおおおおおおおお!?」


 トロールの仮死状態を解く。

 するとアシュラトロールがうなる声を上げる。


「GURORORORORORORORO~~~~!」


 トロールが近くに居たエリアルさんに狙いを定める。

 手に持っている棍棒を振り上げる。


「り、リーフ君!? 本当に!? 本当に大丈夫なのかい!?」

「大丈夫です! 俺を信じて!」

「わ、わかった……そうだ、修行を信じるんだ。私ならでき……」

「痛みを感じる前に蘇生できますので」

「信じるって君の腕のこと!?」


 トロールの棍棒がエリアルさんに襲いかかる。

 ずずぅううううううううううううううううううううん!


「「「エリアルさーーーーーーーーーーん!」」」

「兄貴ぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


 もうもうと沸き立つ土煙……。

 それが晴れると、エリアルさんが目を丸くして立っていた。


「し、信じられない……あの一撃を受けて、無傷だって……?」


 ギルメンの皆さんは、ランニングを死ぬまで繰り返させ、そして完全回復薬エリクサーで快復させるというトレーニングを繰り返した。

 細胞は完全に破壊されて、数日前とは比べものにならない、強力かつ強靱な肉体をゲットしたのである!


「リーフ君さらっと流してたけど、死ぬまでランニングさせるとか鬼ね……」

「え、俺は人間ですよ!」

「うん、知ってるけど……無自覚な分、鬼よりたちが悪いと思うわ……」


 エリアルさんが驚きながらも、嬉しそうに口の端をつりあげる。


「強く……なってる! これなら……」

「GUROROROROROORO!」


 トロールが強烈な連打を浴びせる。

 エリアルさんは敵の攻撃を回避しながら接近する。


「でりゃぁああああああああああああああああ!」


 彼は飛び上がって、トロールの顔面を殴る。

 ぼぐぅう!


「良いのが入ったわ!」

「さすが兄貴ぃ!」


 だが……。


「駄目ですね、浅いです!」

「え?」


 トロールがエリアルさんにカウンターをたたき込む。

 至近距離からの、痛烈なパンチ!


 バッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!


「兄貴ぃ!」

「トロールの持つ能力アビリティ、腕力増強からの一撃よ……これは……死んだわ……」

 

 ぐっちゃぐちゃのミンチになってるエリアルさん。

 でも、大丈夫!


 俺は死者を復活させる霊薬を作って、ミンチにかける。

 すると肉塊はあっという間に、人間の姿に戻った。


「わ、私……生きてる……? 生きてる……?」

「はい、生きてます! さ、もう一回!」


 エリアルさんがおびえた表情で俺を見てくる。


「も、もう一回……?」

「はい! 理想は素手で、一人で倒せるようになることです! さ、もーいっかい! もーいっかい!」


 エリアルさんが「鬼だ……」とつぶやく。マーキュリーさんも同意するように、何度もうなずいていたのだった。鬼? いいえ、俺は……人間です!


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