66.謎の毒も一瞬で治す
俺、リーフ・ケミストは王都へと帰ってきた。
謎のモンスターと戦っていたのは、俺の所属する天与の原石のメンバーさんたちだった。
「エリアルさん! お久しぶりです!」
空を飛んでいたタイちゃんが地上へと降り立つ。
そこに居たのはSランク冒険者のエリアルさんだ。
彼は疲れた、乾いた表情を浮かべている。
あの大群を相手に奮闘していたのだ、疲れていて当然だ! でももう大丈夫!
「久しぶり、リーフ君。ありがとう、とても助かったよ」
「いえ! あ、そうだ。けが人の治療!」
「それが……少々困ったことがあってね」
エリアルさんが俺を連れて、城壁近くの仮設テントまでやってきた。
天与の原石のひとたちが護衛してるテントの中に入ると……。
「うう……」「ぐあぁ……」「いてええ……いてえよぉ……」
多数の負傷者が寝かされてる。みんな苦悶の表情を浮かべていた。
なんてことだ……ひどい……。
「それも、大変なんだ。解毒の魔法もポーションも、効かないのだよ」
「なんですってっ?」
エリアルさんが近くに居た冒険者さんの元へいく。
腕を負傷してるらしく、包帯を巻いていた。
彼が治癒術士の人と話す。
治癒術士のお姉さんがうなずいて、負傷者の包帯を取って見せた。
「! これは……イバラの入れ墨?」
傷口らしき場所に入れ墨ができている。
「こいつだけじゃない。あの影の狼……影狼に少しでも傷を負わされたやつには、この入れ墨がつけられる。そして入れ墨ができたやつはみんな気絶し、苦悶の表情を浮かべる」
「しかも入れ墨がですね、少しずつ大きくなっているのですよ」
エリアルさんと治癒術士のお姉さんが説明する。
けが人の腕を見ていると、なるほど、ほんのわずかだが入れ墨の形が変化していた。
じっ、とマーキュリーさんが鑑定眼で入れ墨を見つめる。
「これは……特殊な呪術ね。【死の呪い】」
「死の……のろいですか?」
「ええ。この入れ墨が全身に回ると、対象は死ぬ。また、厄介なことにこれは毒じゃなくて呪いだから、状態異常を治す薬も魔法も、絶対に効かないわ」
なるほど、毒じゃなくて呪術だった訳か……。
「呪術は、かけた呪術師を倒さない限り解除されない。エリアル、敵のなかにそれらしき人物はいた?」
「いや……おれらはあの影の化け物としか戦っていない」
「そう……おそらく術者は隠れて、遠隔で使い魔を操作してたのね、厄介だわ……」
俺は魔法バッグ(一度壊されたが、新しいのをマーリンばーちゃんから貰った)から針を取り出して採血。
それを天目薬壺に入れて、「【調剤】」とスキルを発動させる。
完成した薬を、薬師の神杖を使って投与。
「う……うう……あれ? なおった」
「ええええええええええええええええええええええええ!?」
マーキュリーさんが、いつも通り驚いていた。
「よし!」
「よしじゃないわよ! え、何したのリーフ君!?」
「え、呪術を打ち消す薬を作って投与しただけですけど……なにかまずかったですか?」
俺が尋ねると、愕然とした表情となるマーキュリーさん。
だがすかさず鑑定眼を使って、目を覚ました冒険者さんを調べる。
「ほ、本当に死の呪いが解除されてるんですけど……」
「呪術師を倒さない限り、解除されないんじゃなかったのかい?」
「ええ……本来ならそのはずなんだけど……」
時間が無い。俺は薬師の神杖をかかげる。
すると、俺の周りに緑の精霊たちが集まってきた。
「みんな、今作った薬がたくさんいる! 手伝って!」
精霊たちは勝手に、素材を集めて、そして俺の指示通り薬を【複製】する。
俺は精霊に特別好かれているらしく、俺の命令を喜んで聞いてくれるのだ。
緑の光は傷ついた冒険者さんたちの身体に宿る。
複製された薬が投与されて、みんな、呪いが解けた……。
「おお!」「すげえ!」「やっぱリーフ君すげえ!」
起き上がった冒険者さんたちが、俺の元へやってきて感謝してくる。
「ありがとう!」「おまえのおかげだよ!」「さっすがぁ!」
まあ何はともあれ、これでなんとかなったな……とおもったやさきだ。
『我が主よ! 敵だ!』
テントの外で見張っていたタイちゃんが叫ぶ。
俺も外に出ると……。そこには、変なやつがいた。
「ふぇっふぇっふぇ……ごきげんよう諸君……」
顔が狼で、人間みたいに二足歩行してる、変なやつがそこに居た。
「! あなたは……魔族ね」
マーキュリーさんがにらみつけながら言う。
魔族……魔族……なんか前に聞いたことがあったような……忘れた!
「ご明察。わしは【死毒のウルフ】。魔貴族、五等爵が男爵!」
「魔貴族……死毒のウルフですって……」
黒いマントを頭からすっぽりかぶっている、そのウルフとかいう変な人が、にやにやと笑いながら言う。
「きみらが探している、呪術師といえばわかるかな」
「じゃあ……おまえが仲間に呪いをかけていたのか」
エリアルさんの言葉に、ウルフがにやりと笑ってうなずく。
「そのとおり。ふぇっふぇっふぇ、わしは貴様らと取引をしにきた」
「取引だと……?」
エリアルさんが油断なくウルフをにらみつける。
なんだろうか。
「君たちのお仲間は、わしの使い魔が付けた死の呪いに苦しんでいるはず」
「…………」
「わしとの取引に応じてくれれば、呪いを解いてあげるが……どうするぅ? ふぇっふぇ、もっとも拒否権はなぁい。いいか、その呪いは絶対に解除が不可能。わしが解除しない限りなぁ~」
エリアルさんが気まずそうにしている。マーキュリーもだ。
「ふぇ? なんだぁそのうっすいリアクションはぁ? 仲間が死ぬかもしれないのだぞぉ?」
どうしよう、とエリアルさんとマーキュリーさんが見つめ合ってる。どうしたんだろう。
「おいさっさと返事しろぉ? わしは気が短いからなぁ! 死ぬぞ仲間がぁ!」
「え、死にませんけど?」
「ふぇぇ……?」
ウルフがかわいらしく、間抜けな声を上げる。
「だって俺の薬で呪いを解除したし」
「ふぇ、ふぇえ……!? 解除しただとぉ!?」
ウルフが目をむいてる。だが、ふるふると首を振る。
「で、で、でたらめをいうな! わしが死ぬか解除しないかぎり、絶対に呪いはとけ……」
テントからぞろぞろと、冒険者さんたちが出てくる。みんな元気そう。
その様子を見て、がくんと大きく口を開くウルフ。
「ふぇええ……みんな、治ってるのぉ~……?」
「だから、解除したっていっただろ」
「魔族の呪いを解除するだと!? な、何者ものだ貴様ぁ……!」
何者って聞かれても……。まあ応えるけど。
「俺はリーフ。ただの薬師だ!」
ウルフが一瞬ぽかんとした表情を浮かべる物の、なんか怒った調子で言う。
「ただの薬師に、魔族の死の呪いが解けるわけないだろ……!」
「いや、解けたんだけど?」