62.女子トーク【閑話】
閑話です。次回から新展開です。
リーフが故郷での諸々を終えて、王都へと帰る馬車の中でのこと。
「なんであんたが付いてくるの? エイリーン?」
エイリーン。狐のような細い目を持つも、かなりナイスでバディな美女である。
リーフの故郷を出て、奈落の森を経由し、ヴォツラーク領へと到着した。
そこで、エイリーンが馬車を用意して待っていたのだ。
「わたしも王都に用事がありますので」
「ほーん、ほーん、用事って何かしら?」
「あなたには関係の無いことです♡ あ、ないのはあなたの胸でしたね」
びきっ、とマーキュリーの額に血管が浮かぶ。
「ありますぅ~。脳みその栄養が全部その無駄肉に吸い取られてるから、わからないのかしらぁ?」
「知性のへったくれもない発言ですね。胸がないのに、脳みそに栄養が行ってないなんて不思議ですね」
「あ? 死にたいの?」
ベヒモスことタイちゃんが、はぁ……と息をつく。
「ぬしら、我が主が眠っておられる。もう少し声を小さくするがよい」
タイちゃんの太ももの上に、リーフが仰向けになって眠っている。
彼女の大きすぎるおっぱいがちょうど、リーフの顔に覆い被さっていた。
「それ、息苦しくないのかしら?」
「主は安らかな寝息を立てているな」
「ホラ見てごらんなさい。リーフ様は大きな胸の女性が好きなんですよ? ペチャなあなたと違って」
けんか腰の二人をよそに、タイちゃんは実に悠然と構えていた。
「待ってエイリーン。この戦いは不毛よ。なぜならここで争っていても、そこのおっぱい魔獣にリーフ君取られちゃうもの」
「それはいかんともしがたいですね」
はて、とタイちゃんが首をかしげる。
「おっぱい魔獣とは誰のことであろうか?」
「「あんただよ」」
ややあって。
「そもそも、タイちゃんはどう思ってるの? リーフ君のこと」
公平を期すため? とか言って、次はマーキュリーの膝の上で寝てるリーフ。
タイちゃんは平然と答える。
「愚問だな。吾輩にとって主とは仕えるべき主君。吾輩は下僕で良い」
「恋愛相手にはならないということですか?」
「然り。吾輩はあくまで主に仕える配下、あるいは下僕のようなものゆえな」
下僕と配下ではだいぶ異なると思うマーキュリーであるが……。
しかしほっと安堵の息をつく。
魔獣とは言えこんな胸の大きすぎる女と、同じ男を賭けて争いたくない。
ライバルが一人減ってよかったーと思ったのもつかの間。
「ま、主が吾輩の体にむらむらして、手を出してくれても一向にかまわんがな」
にぃっと笑って、タイちゃんが舌なめずりする。
匂い立つような色気を出すタイちゃんの、そんな仕草を見たら、男だったら生唾を飲んだことだろう。
マーキュリーの脳裏に警報が鳴り響く。
「だ、だめよ……! タイちゃん! リーフ君はまだ子供なのよ!」
「そうはいっても主ももう、成人してるではないか。性に興味が無いわけではあるまい」
「いいえないわ! だって私と一緒に暮らしてても、彼一回も私に、性的な目を向けて来たこと無いんだから!」
ちょっと得意げなマーキュリー。着替えとか、寝起きとか、そういう無防備な女の姿を見せても、リーフが照れてるとこを一度も見たことが無かった。
……しかしタイちゃんとエイリーンは同情的な目を向ける。
「それって女として認識されてないのではないですか?」
「吾輩もそう思う」
「なん……だと……?」
そんなまさか、と彼女らの発言を否定しようとする。
だがいや、待てと。
たしかに、リーフが女に興味ない、なんて保証はどこにもない。
自分が女として見られてないだけかかもしれない。色気がないからかもいれない。
目の前の、ばいーん、ぼいーんと比べると、自分の胸のなんと平らなことか。
振り返る同棲生活。
すっぴんを普通に見せたことあるし、酔ってぐだってる姿も見せたことあるし、風呂上がりのだらしない格好を見せたことがある。
それらを目撃しても、リーフは一ミリも動揺したことが無いわけで……。
「うそ……私の女子力、低すぎ……?」
うんうん、とエイリーン達がうなずく。
「なんてこと……」
「リーフ様に頼んで豊胸の薬でも作ってもらったらどうですかぁ?」
完全に馬鹿にした顔であおってくるエイリーン。
「できるわけないでしょ! なんで好きな男に、胸がおっきくなる薬ちょうだいなんて言えるのよ!」
「え、そんな薬ほしいですか?」
「ひょぉわ……!!!! り、リーフ君!?」
むにゃむにゃと眠そうにしながら、リーフが顔を起こす。
膝枕してる状態でゆっくりと上体を起こした。
「あ、だめよリーフ君急に起きちゃ胸に当たって……」
すかっ。
「え、なんですって?」
「…………」
絶望の表情で、マーキュリーは己の胸を見やる。
タイちゃんやエイリーンなら、起きる際に顔にむにっと、おっぱいが当たるはずだった。
しかし悲しいことに、彼女の胸ではそれが叶わなかった。
「哀れ乳……」
「うるせえええ! もぎるぞその胸ぇ……!」
マーキュリーとエイリーンが取っ組み合いをする。その様子を、タイちゃんがあきれたようにため息をつきながら見ている。
リーフは、そんな賑やかな二人のやりとりを見て、仲がいいなぁとのんきにそう思うのだった。
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なんと本作、コミカライズも決定しました!
書籍化とコミカライズ、どちらもよろしくお願いします!