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55.一億年ポーションを飲みまくったら気づいたら最強になってた



 俺は村を出る前に、薬師を育成することにした。

 元婚約者のドクオーナに、俺の技術と知識を叩き込むことにしたのである。


「はい、これで奴隷契約は完了よ」


 アスクレピオス師匠の小屋にて。

 バディの魔女マーキュリーさんに頼んで、奴隷と主の契約を結んでもらった。


 ドクオーナの首にはごつい首輪がつけられている。

 これが奴隷となった証らしい。主人の意に沿わぬ行いをすると制裁がくだるんだそうだ。


「ドクオーナ、今から君には特訓を受けてもらう」

「う、うん……わかったわ……あうぅう!」


 びくん! とドクオーナの体に電流が走る。

 え、なに?


「主に対して奴隷らしからぬ言動をすれば、こうして電流が走るのよ」

「わかり……ました……リーフ……様……」


 よろよろになりながら、ドクオーナが頭を下げる。

 様……か。


 正直特に何の感慨もわいてこない。もう俺はこの子に対して、特に何も思っていないから。


 好きでも嫌いでもない、ただの他人。

 だから、別に様づけされてもなんにも思わない。


「じゃあさっそくはじめようか」


 俺は師匠の私室へ入る。懐かしい……師匠の匂いだ。

 薬草と古本の匂い。


 部屋の中は物であふれかえっている。

 俺はテキストをいくつか引き抜いて、机に置いた。


「さ、すわってドクオーナ。座学から始めるよ」

「え……座学……めんど……きゃううう!」


 また電流が走ったようだ。かわいそうって気持ちは俺にはない。


「さっさと始めるよ。時間が無いんだ」

「わかり……ましたぁ……」


 ドクオーナが素直に座る。俺はテキストを開かせる。


「じゃあ、基本となる生理学から」

「せ、生理学……? 薬の勉強じゃないの?」

「そうだよ。薬が体の中でどこにどう作用するのか……体の仕組みを理解してないと、ただしく薬を使えないでしょ?」

「な、なるほど……そうだったんだ」

「そんなのも知らないで薬師のまねごとしてたの?」


 ばちんっ!


「ぎゃん……!」


 あれ、また電流が走った……。別に意に沿わぬことしてるわけじゃないのに。

 隣で見ていたマーキュリーさんが補足説明を入れる。


「主人を怒らせるようなことしても、お仕置きの電流が流れる。この場合、リーフ君がこの子の馬鹿な振る舞いに憤ったのがトリガーとなったのね」

「ご、ごべ……ごべん……な……ざい……」


 電流が流れ続けているらしい。

 ドクオーナが深々と頭を下げる。


「ぐ、ぐずり……のこと、よくしらないのに……てきとーに、やって……あぶないのに、ご、べんな……さい……」


 フッ……と電流がとまる。

 ドクオーナがテーブルに突っ伏す。


「……そうだよ。薬は毒にもなるんだ。取り扱うには専門知識と、慎重な作業。これからはもう二度と、適当なことして、ばーちゃんたちに迷惑かけないで」

「はい……すみませんでした……」


 厳しいようだけど、薬の取り扱いには本当に十分すぎるくらいの注意を払わないとね。

 用法用量を守らずのんで、死んだとかって普通にある話だし。


「じゃあまず基本。このテキスト全部暗記してもらうから」

「え゛!? そ、そんな……この量のテキスト、全部ってこと……ですか?」

「うん、それくらいできて当然でしょ? それともやりたくないの? できないの?」


 びくんっ! とドクオーナの体に電流が走る。


「……そう、やりたくないんだ、できないんだ」

「で、で、き……ます……やり、ます……やります!!!」


 電流が解ける。ちょっとばかり胸が痛むけど、それだけだ。

 こいつが俺にしたことは忘れるつもりないし、じーちゃんたちに適当な薬を売ろうとしてたことも許さない。


「じゃあやるよ」


 といって1時間くらい、俺は基礎となることを教える。

 その後、確認テストを行ったのだが……。


「全然駄目駄目だね。どうしてこんな当たり前のこともわからないの?」

「だ、だって……あうん! ご、ごめんなさい……」


 テストの点数は0点。

 正直ここまでとは思わなかった。


 てゆーか、なんで教えたことを覚えてないのだろうか……?


「ね、ねえリーフ様……もっと、簡単に覚えられる方法ない? 飲めば頭が良くなる薬とか……」


 マーキュリーさんがあきれたように言う。


「あのねえ……そんな都合のいい薬が、あるわけないでしょ?」

「いや、ありますけど」

「あるの!?」


 俺は天目薬壺てんもくやっこのなかに、貯蔵していた薬を瓶に移し替える。

 泥のような液体が入っていて、ぽこぽこと泡を発生させている。


「これを飲めば一瞬で、この大量のテキストを覚えることができる」

「す、すごいじゃない! どうしてそんないいものがあるのに、もっと早く……ひぅう!」


 口の利き方がなっていないからかまた電流が走るドクオーナ。


「まあ、でもこれ危険な薬だから」

「で、でも……飲めば、テキストを暗記できるんですよね? じゃあ飲みます。飲ませてください」

「……もう一度言うけど、辛いよ」

「覚える作業が、苦痛なんです。なら痛みは一瞬の方が良い」


 ああ、そう。

 ならもう止めない。俺はドクオーナに薬を渡す。


 ぐっ、と飲むと……。

 ドサッ!


「え、だ、大丈夫なの!?」

「はい」


 ドクオーナの顔が真っ青になって、泡を吹き出す。


「ちょ、ちょっとこれほんとに大丈夫なの!?」

「ええ」


 ドクオーナが体をねじって逆立ちしだす。


「なんかやばい態勢取ってるけどほんとに大丈夫なの!?」

「大丈夫です」


 ドクオーナが体を痙攣させる。


「ごろじでぇええええええええ! ころせええええええええええ! ころせよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 涙を流しながら絶叫するドクオーナ。

 その姿を見てマーキュリーさんが尋ねてくる。


「な、なんて薬飲ませたの?」

「【一億年ポーション】です」

「い、いちおくねん……? なにそれ?」

「飲むと、意識は別の空間に飛ばされます。そして別空間のなかでは、時間の流れが異なっており、なかで一億年が経過しないと意識が戻ってこれないんです」


 現実での10分で、ドクオーナは異空間で一億年を過ごすことになる。


「別空間の中には薬師用のテキスト情報が置いてあります。彼女は一億年かけてそれを勉強する」

「た、食べ物とか飲み物は?」

「精神世界なので生理的欲求は感じません。また、精神をとばすだけなので、体を鍛えることはできないです」


 でも勉強した知識は残る。

 意識だけが飛んでいるだけだからね。


 やがて、10分が経過して……ドクオーナが目を覚ます。


「やっと……やっとぉ……かえってこれたよぉ~……」


 嗚咽をもらしながら、ドクオーナが歓喜の表情を浮かべる。


「うん、やっと入門編は終わりだね」

「え? にゅ、入門……?」

「うん。ここのテキスト全部入門編だから」


 俺は床を踏みつける。

 すると出ていた本棚が床下に収納され、天上から新しい本棚が出てくる。


「ま、まさか……まだ終わりじゃないの?」

「うん、中級、上級、超級と、あと三段階残ってるから」


 ドクオーナがぐるん、と白目を剥いてその場に倒れる。

 俺はすかさず彼女の口に、もう一本の一億年ポーションをつっこむ。


「ごろじっでえええええええええええええええええ! ころせ! ころせよぉおおおおおおおおおおおおおおお!」


「り、リーフ君……恐ろしい子……」

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[一言] 一億年ポーションはやばすぎる
2023/05/13 02:43 退会済み
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