52.郷土料理で驚く
アーサーじーちゃんとマーリンばーちゃんの家にて、俺たちは泊まることになった。
いちいち驚くタイちゃんを連れて客間に通される。
「ほっ……な、中は普通だな」
「と、思うでしょ?」
マーキュリーさんが達観した目を客間に向ける。
イグサで編まれたタタミっていうカーペット。
チャブダイっていう、木のテーブル。
俺たちがチャブダイの前に座ると、しゅん、と料理が一瞬で出てきた。
「なっ!? ぶ、物体の転送だと!?」
マーキュリーさんとエイリーンさんが驚く、物体を特定の場所に送る魔法のこと。
「あれは高位の魔法使いが、高度な術式を用いて行う儀式魔法ではないか!」
「ええ、そうよ……でも、おばあさまはそれを単独でできるの。しかも、お夕飯を台所から運ぶただそれだけのために」
「なんという技術の無駄遣い……」
テーブルの上に並んでいるのは、おいしそうで、豪華な料理!
「うぁ! おいしそう!」
「リーフちゃんのために作ったんだよぉ」
「わ! ありがとう! ってあれ? 俺がここに来るってよくわかったね」
そう、結構な量の、豪華な料理。
こんな短時間で用意できる訳がない。
奈落の森での出来事を終えて、王都に帰る前に寄るって決めたあと、特に知らせとかしてなかったと思うんだけど……。
するとマーリンのばーちゃんはニコッと笑う。
「うふふ、わかるわよぉ。村のみんなは家族なんだからぁ。家族のことはなぁんでもわかるもんだよぉ」
「そうなんだ! すげえ!」
さすがマーリンばーちゃんだ!
しかしタイちゃんとマーキュリーさんが後ろでこっそり会話している。
「……本当はどういう理屈なのだ?」
「……多分使い魔を放ってたのね、森に」
「……それって盗さ」
「……しっ! 殺されたくなかったら余計なことを言わない方がいいわ」
ふたりが仲良く会話してるなぁ、仲良しだなぁ!
「おほほい、ばーさんのやつが腕によりをかけて作った料理! いつもより豪華じゃのぉ!」
「当たり前ですよぉ。大好きなリーフちゃんが帰ってくるんですもの。たんとおいしい料理を食わせたいじゃあないですかぁ」
「そりゃそうだ! そのとおり! さっすがばあさん! さて食べようかね」
俺たちが食卓を囲む。
テーブルの上に乗っているのは、俺の村の郷土料理だ。
「ちょっと待て!!!!!!」
俺が飯を食おうとすると、タイちゃんがストップをかけてくる。
「どうしたの?」
「あ、あ、主よ……ほんとに、これらを食すのか?」
「うん。あ、タイちゃんうちの郷土料理はじめて? 大丈夫! どれもおいしいから」
タイちゃんが、絶句してる。
ふるふると指で、まず前菜を指す。
「これはなんだ?」
「食人植物のサラダだね!」
「デ……!? デスプラント!? Sランクの恐ろしいモンスターではないか!」
「え? ここじゃ普通にサラダとして食べるよ? ねえ二人とも?」
うんうん、とマーリンばーちゃんたちがうなずく。
食人植物は見た目ちょっとぐろい(足の生えた馬鹿でかいウツボカズラみたいなやつ)けど、食べるとおいしい!
「そ、そっちの魚……は?」
「え、海魔蛇の照り焼きだけど」
「り……!? そ、それもSランクモンスターだぞ!?」
「うん」
「うんて!」
わなわな、とタイちゃんが口を震わせている。
死んだ目でマーキュリーさんがぽんぽん、とタイちゃんの肩を叩く。
「この村ではモンスターを食す文化があるのよ」
「モンスターって……体内に毒があって常人では食えないだろう? そ、そうか、毒抜きしてあるのだな!」
「ううん、村の上級者は毒抜きせず食べるの」
「…………」
ぱくぱく……!
うううん、おいしいです!
「ほほ、ばーさんってば張り切って海に行き、海魔蛇のやつをぼんぼこぼんと魔法で殺しまくって乱獲しよってなぁ~」
「もう、おじいさん、恥ずかしいからやめてくださいよぉ」
俺のためにばーちゃん、張り切って漁にいってくれたんだ!
うれしいなぁ!
「ああ、二人の分は毒をちゃあんと抜いてありますよぉ、遠慮無く食べてくださいねぇ」
「は、はあ……」
タイちゃんはどうやら初めての料理にびっくりしてるみたい。
「まーたしかに、よそじゃあんまり見ないだろうけど、おいしいよ?」
「いやここでしか出ないだろう! 聞いたことないぞ、モンスターを食べるなんて!」
「え、そう? ここの料理って全部そうだよ。王都じゃ出ないなぁって思ってた」
「いや王都以外でも見ないから! 主よ! ここはおかしい!」
「あはは! 田舎過ぎて王都とのギャップがおかしいって意味だよね?」
「全てが文字通り異常だと言ってるのだよぉ……!」
マーキュリーさんが生暖かい目でタイちゃんを見てる。
「わかるでしょ、私の苦労が。いつもこんな感じなの。ようこそ、こちら側へ……」
「な、なぜマーキュリー嬢は冷静なのだ……」
「一時期この村に厄介になってたときがあったからね。もう、散々驚いたから……」
「ああ……ご苦労なさっているのだなぁ……」
「ありがとう、理解者ができてうれしいわ」
ふたりで肩を組んで、さめざめと泣いていた。
多分あまりにおいしかったからだろう! わかるぅ!