49.クリアの報酬
俺は奈落の森のダンジョンで、いにしえの勇者アインさんを、成仏させることに成功した。
「さて、じゃあ迷宮核を壊して、報酬を手に入れてから、脱出しましょ」
彗星の魔女マーキュリーさんが、目の前の大きなクリスタルを見ながら言う。
俺の身長と同じくらいの高さがある。
これが迷宮核。このダンジョンの心臓部で、壊すことでクリアされる……。
「報酬なんてもらえるんでしたっけ?」
「ええ。核を壊すと、能力やスキル、すごいアイテムや遺物など、その人にとって最も必要な力がもらえるのよ。報酬ね」
そんなことになっていたのか……。
「俺はいいです。タイちゃんかマーキュリーさんが壊してください」
「え!? いやいや、倒したのはリーフ君じゃないの!」
確かに倒したのは俺かも知れない。
けど……。
「俺は別に報酬をもらいたくてダンジョンをクリアしたわけじゃないんで」
「吾輩も固辞させてもらう。マーキュリー嬢が、報酬を受け取るべきでは?」
「そうですよ! さぁどうぞどうぞ」
マーキュリーさんは申し訳なさそうにしている。
「いや、でも……やっぱりリーフ君がいなかったらクリアできなかったわけだし……」
結構躊躇してる。マジでいい人だよなぁ。
でも俺としてはもうマーキュリーさんに受け取ってもらいたいし、さてどうしよう。
するとタイちゃんが息をついていう。
「マーキュリー嬢。言ってはわるいが、貴女が一番このパーティで弱い。強化はしておいたほうがいい。主とともにバディを組むならなおさら」
「うぐ……た、たしかにそうね……末永く一緒に居たいし……」
「え? なんだって」
「なななあぁんでもないわよぉおん!」
マーキュリーさん顔を真っ赤にしながら、迷宮核へ向かう。
クリスタルに触れると、ぱりぃん……! と壊れる。
それは空中に光の天を作り、やがて、マーキュリーさんの体の中に光が入っていく。
「どうですか?」
「うん……鑑定能力が強化されたみたい。【超鑑定】スキルゲットしたって。あとは魔力量が増えたのと、【詠唱破棄】を手に入れたわ。それと【隠蔽】スキルね」
超鑑定とは、鑑定能力の上位版らしい。物体だけじゃなくて、攻撃のタイミングとか分かるようになったらしい。すげえ。
詠唱破棄とは、どんな魔法も、呪文の詠唱を必要とせず、ゼロタイムで魔法が使えるようになるらしい。やっぱりすごい!
隠蔽スキルとは気配を遮断して、敵に見付からないようにするんだと。すっげーい!
「すごいですよマーキュリーさん!」
「ありがとうリーフ君……でもこれだけ強くなっても、あなたに全く並べる気がしないわ……」
タイちゃんは息をついて言う。
「それでも、強くなったことで主と一緒に居られるようになったであろう? 今まではただの歩く鑑定装置でしかなかったのだから」
「ふぐぅううう……タイちゃん……しんらつ……うぐうう……」
はぁ……とマーキュリーさんが大きく息をついた。
まあなにはともあれこれでクリアだ。
「じゃ、帰りましょうか」
迷宮核のあった地面に光の魔法陣ができている。
これは転移門といって、入口まで転移させてくれる装置だ。
俺たちが転移門を踏むと……。
カッ……! と魔法陣が光り輝く。
ダンジョンが揺れ動き、天井や床が崩れていく……。
「ダンジョンが壊れていくわ」
「ものさみしいですね」
「ええ……でも、ダンジョンがなくなるだけで、墳墓が消滅するわけじゃない」
「はい、これで……死者の魂も、安らかに眠れますよね」
カッ……! と転移の光が輝くと……俺たちは一瞬意識を失う。
だがすぐに、目を覚ますと……。
「リーフ様!」
「エイリーンさん」
そこには領主代行を務めてくれていた、エイリーンさんがいた。
俺のもとへ駆けつけてくると、正面から抱きつく。
わっぷ。お、おおきい胸……。
「ご無事で何よりです……とても、とても、心配いたしました……おけがはありませんか?」
ぽたぽた……となにか熱いものを肩に感じる。
見ると、彼女は泣いていた。
俺たちを心配してくれてたんだ。危険な場所におれらを向かわせて、罪悪感を覚えていたのだろうか。
そんなの気にしなくて良いのに、優しいひとだ。
「大丈夫です! それと、ダンジョンもクリアしました!」
振り返ると入口のほこらは、少し小さくなっていた。
多分ダンジョン化がとかれて、元の墳墓の入口に変わったのだろう。
「さすがです、リーフ様! あの難攻不落のダンジョンを突破して見せただけでなく、さまよえる死者達を救ってみせるなんて……! 本当にすごいです!!」
ぎゅーっとエイリーンさんが俺を抱きしめて……。
チュッ……♡ と額にキスしてきた。
「ちょいちょいちょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおい!」
マーキュリーさんが俺を、エイリーンさんから引き剥がす。
「なーにしてるんじゃこのショタコン!」
「は? ショタコンはあなたでは? こんないたいけな少年を家でふたり、やらしいことを企んでるんでしょう?」
「そそそそ、そんなことたくらんでないわい!」
ぎゃあぎゃあ、と言い合いする二人。
平和だなぁって思いながら、俺は空を仰いだ。
こうして、長かったダンジョン攻略も、無事終了したのだった。