46.ボスの部屋へ
俺、リーフはマーキュリーさんと一緒に、奈落の森に出現したダンジョンを攻略中。
ゾンビを片端から人間に戻し、エルダー・スケルトンも元通りにした。
その後、緑の精霊の力を使って、俺は墳墓内のすべてのアンデッドを人間に戻した。
死霊系モンスターは、さすがに肉体がなかったので、成仏させることくらいしかできなかった。
「悔しい……」
「いや、十分よリーフ君。さすがに肉体が残ってない相手を、現世に留めておくことはできないわ」
「はい……そう、ですね。仮の肉体を錬金術で作っても、魂は定着しないって、セイ・ファートばあちゃんが言ってましたし」
俺の出身、デッドエンド村には数多くの英雄達が集まっている。
セイ・ファートばあちゃんは凄い聖女さまなのに、なぜか錬金術が使える。
彼女なら人間の肉体を錬金術で作れる。けれど、死者の魂に、仮の肉体を作っても、蘇生はできないって断言された。
世界最高の聖女がそういうんだ、できないものはできないのだろう。
せめて、安らかに眠って欲しいものだ。
「しかし、相変わらず規格外よねリーフ君。エルダー・リッチの呪い攻撃を受けても平然としてるし……」
「俺、呪い無効なんで」
前のエルダー・スケルトンとの戦いで、俺には毒も呪いも効かないことが判明したのだ。
死霊系は呪いが基本攻撃だったのだが、全部無効化。
「みんな涙目でしたね! 成仏できるからでしょうか!」
「いやあんたに呪いが通じなかったせいと思うわよ!?」
「? 呪いが効かないとなんで泣いちゃうんですか?」
「レベル違いすぎて心折れたのよ!」
「え、俺があまりに弱すぎてってことです?」
「だーーーーーーーーーもぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
俺は無言で頭痛薬を渡す。
がぶ飲みするマーキュリーさん。
俺たちの様子を見て、ベヒモスのタイちゃんが苦笑する。
「怪物のお守りは大変だな、マーキュリー嬢」
「え? 怪物のこと?」
「あんた以外に誰がいるのよおぉおおおおおおおおおおおお!」
マーキュリーさんは俺の襟首をつかんで、がっくんがっくと揺らす。今日も元気だなぁ!
「いちゃついてるところ悪いがな、ご両人?」
「だ、だ、だれ、誰がいちゃついてるよっ!」
顔を真っ赤にするマーキュリーさんをよそに、タイちゃんがスッ、と前方を指さす。
「ボス部屋に到着したみたいだぞ」
進んでいった先には巨大な扉があった。
扉の表面には複雑怪奇な模様が描かれている。
少し発光してるそれは……かつて隠しダンジョン内でみたことのある、迷宮主の部屋に似ていた。
迷宮主。それは文字通り迷宮の主。
この迷宮の心臓部を守る守護者。
「ここにも、前の隠しダンジョンでみたみたいな、凄いモンスターがいるんですか?」
「そうね。迷宮主は例外なく強いわ。心の準備は……」
マーキュリーさんが俺を見て、フッ……と力なく、乾いた笑みを浮かべる。
「いらないわね。こんなの楽勝だもの」
「す、すごい! マーキュリーさん! 強者のセリフっぽくて、かっこいい!」
「嫌味か!? ねえ!? もしかして嫌味で言ってるの? ねえええええええええええええええええ!」
マーキュリーさんが俺の襟首をつかんでぐわんぐわんと揺らす。
嫌味? 何言ってるんだろう。
「マーキュリーさんが楽勝だよねって、自分で言ったんじゃないですか?」
「リーフ君がいれば楽勝だよねの意味よ! 察しろよ! 文脈から!」
「わかりません!」
「ああそうね! 察することができるなら、こんなにわたしが頭痛薬飲まなくていいものね……!!!!!」
マーキュリーさんが完全回復薬をがぶ飲みしてる。
「それ、好きなんですか?」
「別に好きでもなんでもないわよ……」
「? じゃあなんでそんながぶ飲みしてるんです?」
「タイちゃん止めないで!!!!」
マーキュリーのことを羽交い締めにして、タイちゃんが動きを止めている。
何してるんだ?
「主よ、サクッと終わらせよう」
「お! タイちゃんも強者のセリフ!」
「はは。さ、行こうか主よ」
俺はタイちゃん達と一緒に、迷宮主の部屋に入る。
かつて隠しダンジョンで見たような、広いホールがそこにはあった。
「敵はどこに居るのかしら……? 出てくる気配はないけれど」
一方でタイちゃんが、いつの間にかベヒモスの姿になって、前を見ていた。
『主よ……あれだ』
タイちゃんの全身の毛が総毛立っている。
ふーふー、と威嚇する先には、一人の鎧武者がいた。
「鎧……?」
「生ける屍だ。物体に怨念が取り付いて、さまよい歩く亡霊と化してるわ」
マーキュリーさんが震えながら解説する。
がちゃり、と鎧武者が立ち上がる。
「じゃあれは、肉体じゃなくて、鎧に悪霊が取り憑いてる感じなの?」
「ええ……そうよ。だから蘇生は無理……それに手を抜ける相手じゃ、なさそうよ」
マーキュリーさんが鑑定眼を発動させている。
「いにしえの勇者……【アイン】の装備」
「アイン?」
「かつて世界を救った男よ。その彼が使っていた剣と鎧に、怨念が取り憑いてるわ」
どうやらあの鎧武者は……。
「普通の剣士さんですね」
「そう、相当な手練れ……って、ええええええええええええ!? 何言ってるの!?」
マーキュリーさんが驚愕の表情で俺を見てくる。
「話聞いてた!? 世界を救ったのよ!?」
「え、でもそれってすごいことですか?」
「すげええにきまってんでしょぉ!?」
「でも村のじーさんばーさんは何十何百回と世界救ってますけど?」
「あの人らが異常なんだよ! 世界は普通救えないんだよぉおおおおおおお!」
「またまた~」
「んもぉおおおおおおおおおおお!」
がしゃん、がしゃん、と鎧武者がこちらに歩いてくる。
まあいずれにしろ、アレを倒さないといけないみたいだし、よし、頑張るぞ!