45.さくさく人命救助
俺は奈落の森に出現した墳墓型ダンジョンへとやってきている。
ゾンビとなった人を、薬で体を治し、長い苦しみから救うことができた。
「この調子で、どんどん治していきます! 精霊のみんな……力を貸して!」
俺の周りには無数の緑色の光が宙を舞っている。
一見すると蛍火に見えるそれは、緑の精霊。
植物に宿る精霊らしく、薬草の効果を底上げしてくれる。
俺はエイリーンさんに相談し、ゾンビ(元村人や冒険者)の救出をするから、手伝って欲しいと伝えた。
彼女は快諾し、村人たちで救助部隊が組まれた。
まず、俺が【転移ポーション】を作る。これは使用すると、指定した場所に人間を転移できるポーションだ。
「転移魔法を付与したポーションとか……これ、めちゃくちゃすごいわよ」
「え? でもポーションを使わないと転移できないんで、全然すごくないですよね?」
「いやそもそも! 転移魔法は賢者クラスの魔法使いじゃないと使えないの! ポーションによる補助があるとしても、すごいことなの!!!」
「いやいや、無詠唱で転移魔法使えるマーリンのばーちゃんのほうがすごいですよ」
「だからそのひと! 神域の八賢者だから! 最高クラスの魔法使いだからああああああああああああああああ!!!」
転移ポーションでまず、森にほど近いアインの村へと救助者を飛ばす。
そこでエイリーンさんには事情の説明を行ってもらう。
かなりの数のゾンビが居るので、そのままだとアインの村がパンクしてしまう。
そこで、村の青年救助隊たちに、近くの村に疎開させる……。
という手はずである。
俺とマーキュリーさんが歩いていると……。
「ぐろぉおあああああああああ!」
「【調剤:麻痺薬《パラライズ!》】」
ゾンビをまず麻痺薬で動けなくし、そこですかさず死返の霊薬を投与。
「あ、あれ……? ここは……」
「【調剤:転移ポーション】!」
「ちょっ!?」
パシュッ……!
転移が発動して、ゾンビから戻った人間が、外へ転移させられた。
「主よ、もう少し説明してやってはどうだ?」
「うーん、でも説明してる時間が無駄だと思うんだよね。結局もたつくなら、説明をカットして、あとはエイリーンさんに任せたい」
「分業したいというわけだな。なるほど、わかった」
さて俺はさくさくとゾンビを元に戻し、救助していく。
タイちゃんはほぼ着いてきてるだけに思えるが、実は役に立っている。
「ごめんね、タイちゃん。少しもらうよ」
ぶちっ。
「ああ、かまわん」
ぶちっ。
……俺が採取しているのは、タイちゃん、ベヒモスの体毛だ。
タイちゃんの犬尻尾から毛をひとつまみとって、それを使って転移ポーションを作成する。
「この転移の薬、ベヒモスの体毛が材料に使われてるんだ。だから……ごめんね」
「なに、気にするな。これも人命のため」
「あ、毛髪剤あるよ。使うね」
ぴっぴ。
ボンッ……!
「た、タイちゃんの尻尾の毛が、もっぷみたいに!!!!」
「ご、ごめんなさいタイちゃん!」
「はは、気にするな、我が主がやらかすのは今に始まったことじゃあない」
「たしかに!」
「『いや肯定するんかい!』」
俺は次々襲ってくるゾンビ達に、霊薬をぶっかけていく。
蘇生する元村人達。
「い、生き返った!」ぱしゅっ!「すご、い奇跡だ!」ぱしゅっ!「助けてくれてどうもあり」ぱしゅっ。
治療&転移する俺のことを、タイちゃんが戦慄の表情で見てくる。
「ノーリスクでこれだけの量の復活薬を作れるなんて凄いな。市場にでも出回れば、大変なことになるぞ」
「あ、でもこの森以外での量産は難しいよタイちゃん」
「ん? どういうことだ?」
「霊薬に使われる、【生命の自然薯】って植物が、奈落の森の中でしか取れないし、調合できないから」
生命の自然薯が生えているのは奈落の森だけであり、なおかつ外に出した瞬間腐るので、ここでしか使えない。
魔法カバンのなかに入れて、時間を止めて持ち運ぶ手もあるけど、どうしても品質が落ちちゃうからね。
「なるほど、今回の霊薬のバーゲンセールは、あくまでもこの森限定でということなのね……そうじゃなきゃこの世の法則が乱れるところだったわよ」
「いつか生命の自然薯無しで、完全なる復活ができる薬を開発したいです!」
「やめて、まじで」
そんなこんなありながら、俺は墳墓内のゾンビを片っ端から人間に戻していった。
「む? 主よ。どうやら敵が近づいてるようだ」
耳をピンピンと動かしながらタイちゃんが言う。
俺の鼻は現在、麻痺させてるので、索敵はタイちゃんの耳がとても役に立つ。
「あれこれ、役に立ってないのわたしだけ……?」
「マーキュリーさん、あの骨もモンスターですよね?」
「そ、そうよ! わたしには鑑定眼があるんだから! 【鑑定】!」
近づいてきたのは、歩く骸骨。
多分モンスターだと思う。
「え、エルダー・スケルトンよ。魔法使いの強い怨念が、死後モンスターとなってよみがえった、アンデッドのひとつ」
なるほど、魔法使いなのか。
「KAROROROROOROROROOOOOOOOOO!」
スケルトンが右手を伸ばす。
暗黒の魔法陣が出現した。
「! リーフ君だめ! あれは即死魔法! 闇の大魔法よ!」
魔法陣が俺の足下に出現し、カッ……! と光り輝く。
おどろおどろしい死神が出現して、その鎌で、俺の体を引き裂いた……。
「り、リーフくぅうううううううう」「なんですか!」「いや生きてるンかああああああああああああああい!」
死神の鎌を受けても、俺は平然としていた。
「なんで!? 即死魔法よ!? 呪いなのよ!?」
「俺、毒無効体質なんで!」
「いや呪いと毒は無関係でしょ!?」
いや、とタイちゃんが言う。
「呪いも体をむしばむという意味では、毒と同じだ。主には呪いすらきかないのかもしれぬ」
「即死耐性まで持ってるとかなんなの化け物なのかよ……?」
「そんな、エルダー・スケルトンさんは、化け物じゃないですよ!」
「あんただよ! あんたのことだよぉおおおおおおおおおおおお!」
スケルトンさんも死返の霊薬で戻して地上に送った。
うん! よし! 次!