41.瘴気を無効化する薬(※劇薬)
ヴォツラーク領に来て、復興の仕事をしている。
1つ目の村の復興を手伝ったあと、次々と、領地内の村人達の怪我を治していった。
怪我人、壊れた建物をなおし、魔除けのお香を焚いて、次の村へ……。
それを繰り返しながら、俺は徐々に北上、つまり、奈落の森へと近づいていった。
「まずいな」
馬車の中で、人間の姿をした、ケモ耳美女のタイちゃん(※ベヒモス)が、難しい顔でうなった。
「どうしたの、タイちゃん。まずいって?」
「奈落の森に近づくにつれ、瘴気が濃くなっている」
「瘴気……?」
俺に、目を丸くして、マーキュリーさんが言う。
「リーフ君……まさかと思うけど、瘴気知らないの?」
「いや、瘴気は知ってますよ。毒ガスですよね? 魔物が死んで発生する」
それくらいは知ってる。仮にも薬師だからね、俺。
エイリーンさんがそこに補足する。
「魔物の体は魔素、魔力の源でできています。魔物が死ねば体内の魔素は大気中に消え、世界樹というフィルターを通して、再び世界に解き放たれます」
世界樹……ああ、なんかこないだ助けた、地下にあった大きな木のことだな。
「ですが、大気中に漏れた魔素が、世界樹のフィルターを通らないことで、その場にとどまることで毒となったもの……それが瘴気です」
「へー、エイリーンさん物知りですね!」
「神域の八賢者が一人、水星の賢者マーリン様の弟子ですから」
「神域の八賢者……?」
んだそりゃ?
マーキュリーさんがそこに説明を入れる。
「魔法を極め、神の領域に至った、八人のすごい魔法使いのことよ。水星の賢者マーリン。金星の賢者ニコラス・フラメル。地球の賢者ラブ・マリィ……ってかんじで、8人いるの」
「へー……神域の八賢者ねえ……マーリンばーちゃんそんなすごいひとだったんだ」
てゆーか、水星とか地球ってなんだ?
そういう星があるのかな。
「話はそれたが、主よ。奈落の森に近づくにつれ、瘴気……毒ガスの濃度が濃くなっているぞ」
「え、そう?」
うんうん、とマーキュリーさんとエイリーンさんがうなずく。
「私たちは魔法使いは魔力を鎧みたいにして、瘴気の体内侵入を防いでるけど……」
「一般人には辛いでしょうね」
ふぅむ、言われてみるとそうかもしれない。
「というより主は、なぜ魔力の鎧……【魔力式外装】を纏わず平然としてるのだ?」
「え、だって俺、毒無効の体質だし」
俺は幼い頃から、修行の一環として微量の毒を体に摂取してきた。
結果、大抵の毒が効かない体質へと変化したのである。
「いや……今考えたら、リーフ君、おかしいわよ」
「? 俺、どこかおかしいですか?」
「あんたの全部がね! ……そうじゃなくて、リーフ君ってデッドエンド村いたときに、薬師の修行を、あの奈落の森でやってたんでしょ?」
デッドエンド村とは俺の故郷の村で、マーリンばーちゃんやアーサーじーちゃんなど、英雄達の暮らす辺境の村。
通称、英雄村のこと。
「小さい頃、平気だったの? 瘴気の濃いあんな森の中に入っても」
「はい! 何度か死にましたが、生きてます!」
「し、死んだぁああああああああああああああ!?」
「はい! でも師匠がその都度蘇生してくれたんで、大丈夫でした!」
「治癒神スパルタ教育過ぎるでしょ……! 子供になんつーことしてくれちゃってんの!?」
確かに、師匠の教えは厳しかった。
何度か死にかけて、死んで、蘇生するって感じだったし。
「さすが治癒神さま、弟子を強く育てるために、そこまでの教育を施すなんて。そしてそれに耐えたリーフ様はすごいです……!」
「いやそこ感心しちゃ駄目なとこでしょ!? 普通に幼児虐待よ!?」
虐待?
なんのことだろう……?
「とにかく、リーフ君は瘴気が効かなくても、村人は違うの。この先の村は奈落の森に近い、となると、瘴気で苦しんでる人たちも増えてくるわ」
「ええ……次の【アインの村】は、かなり森に近いため、みな瘴気によるダメージを受けております」
なるほど、一般人は瘴気でダメージを負うんだな。
「瘴気の浄化はもちろんですけど、瘴気に強い体に作り替える必要がありますね……!」
「う、うん……できるのそんなこと?」
「できます! 俺の薬飲めば!」
俺は馬車の中で、薬を作る。
魔法バッグを置いて、スキルを発動。
あっという間に薬が完成する。
「これを飲めば、瘴気が効かない体質になります!」
「そんな薬があるなら、アスクレピオス様はどうして最初から、リーフ君に飲ませなかったの?」
「これは俺が作ったオリジナルの薬です。師匠の地獄の特訓に耐えられるように、作りました!」
「ほら今地獄って言った! ねえ聞いたでしょエイリーン! 虐待って思ってるのよリーフ君も! DVで訴えましょぅ!」
DV?
よくわからないな……!
「で、これが瘴気に効かなくなる体質を手にする薬ね……」
「マーキュリーさん、飲んでみるんですか?」
「当たり前でしょ。村人に飲ませて、変な副作用が出たー、なんてなったら、バディとしての責任問題になるわ」
マーキュリーさんは、本当に優しいなぁ。
彼女は瓶を手に取って、ぐいっ、と飲む。
「…………」
「どうなんですか、マーキュリー様? マーキュリー様?」
エイリーンさんがゆさゆさ、とマーキュリーさんの肩を揺らす。
ドサッ……!
「「え?」」
ぽかんとするエイリーンさんと、タイちゃん。
慌ててエイリーンさんが近づいて、脈を調べる。
「……し、死んでる……?」
「いえ、仮死状態になってるだけですよ。すぐ蘇生します、ほら」
一緒に混ぜて置いた、蘇生の霊薬が発動する。
「かはっ……! はあ……はあ……はあ……! し、死ぬかと思ったわ……」
エイリーンさんたちが絶句してる。
「え、なに? 今何起きたの? ねえ二人とも、なんで目をそらすの?」
「これで瘴気に強い体になりましたよ、マーキュリーさん!」
「え、ええー……大丈夫なのこれ? なんか、死ぬほどまずかったけど……【鑑定】」
マーキュリーさんが自分の体に、鑑定スキルを発動させる。
「ほ、ほんとだ。瘴気無効スキルが付与されてる……って、スキルを付与する薬ぃいいいいいいいいい!?」
くわっ、とマーキュリーさんが目を見開いて叫ぶ。
「え、どうしたんですか?」
「どうしたんじゃ、ないわよ! スキルを付与したのよあなた!?」
「それが?」
「あ、あのねえ……付与魔法って、すごい高度なの。しかも一時的な付与じゃなく、永久的な付与なんて、使い手はそれこそ、マーリンのおばあさま……神域の八賢者レベルじゃないとできないのよ……!」
「へー」
マーキュリーさんがまたも頭を抱えていたので、俺は頭痛薬を差し出す。
彼女はそれを一気飲みして言う。
「おかしいよ!」
「頭痛薬の味ですか?」
「あんたのことだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
まあ何はともあれ、この瘴気無効薬があれば、みんなも助けられるぞ……!
でもタイちゃんもエイリーンさんも引いていたのは、何でだろう……?
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